第50話 降りかかる火の粉は熱かった

 絶え間なく響く爆音。肌を焼く爆風。ゴンゴンと当たる破片。

 ヘルメットを拾って来ればよかった。死ぬどころか気絶もしていないのは、間違いなく俺のスキルの賜物たまものだろう。

 爆風や破片の一部の衝撃を外す。いやブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんの言葉通りなら逆か。俺の一部が、この現実から外れているんだ。もしこのまま使い続けたら……危険は分かるが、今は緊急事態だ。

 大体、制御できないのにどうしろと……。


 再び襲う爆音。派手に倒しているのはひたちさんだけだ。こういう時、飛び道具は強い。

 俺はと言うと、爆風に耐えている多脚が動き出す前に掴み、他の多脚にぶち当てる。

 こうして近くで見ると分かるが、機械なんて上質なものじゃない。それどころかカラクリとも言えないだろう。

 モーター、ゼンマイ、エンジン……何でも良い、そういった動力らしきものが見当たらない。関節が動くように組み立てたプラモデルに、火薬を詰めたようなものと言えば良いのか。

 なるほど確かにこれはスキルだ。その物ではなく、動かす手段がだけどな。


 そんな事を考えながら、俺は爆風で転がっていた。

 彼女と違って至近距離での爆発。しかも俺は勇者の鎧以外は普通の制服だ。もしスキルが無かったら、既に死体だったぞこれは。


 だけどこれもスキルのおかげだろう。既にこの爆風と爆炎に順応しつつあった。

 もう目の前で爆発しても、死ぬような気配はない。熱いけど。

 少し位なら弱めても良いのだろうか? だがそんな器用な調節はまだ出来ないのも事実。


「なるようになれだな」


 こいつらは完全な自爆用。頭に付いている電球のようなものを壊すと爆発するようだ。

 なら無抵抗なら無害――なんていうおもちゃじゃないだろう。

 実際、最初に観察しようと捕まえたら、いきなり爆発しやがった。


「なあ、このスキルを使っている奴って――」


「はい? 何でしょう?」


 背が付くほどの近くにいるのにひたちさんは聞こえていないようだ。

 まあ見た所は無傷だが、俺とは違った形で防いでいるのだろう。この爆音はどうしようもないらしい。

 仕方が無い。全部始末してから聞くとしよう。





 どのくらい経ったのか……まあ精々10分程度だろう。だけどその間戦い続けるというのは、10分間休まずに走り続けるのよりも遥かにきつい。

 全部の多脚を倒し終わった後、俺たちは疲れ切ってへたり込んでいた。


「さすがに……疲れました」


 ひたちさんの額には玉のような汗が浮かんでいる。だが体に傷は無く、装備も無事だ。

 さっきも思ったが、あの鞭とこの防御、どちらが彼女のスキルなのだろうか。

 聞いてみたい気もするが、それより先に確認する事がある。最優先事項だ。


「あの多脚を操っていたのは誰だ?」


「詳しくは知りません。同世代は、すでに全員おりませんので」


 すると結構古い人間か。


「地上にいると断定できたのは?」


「地上にいる10人の誰かです。その辺りの記録はありますので」


 記録という言葉も引っ掛かるが、それも後で良い。

 地上の10人……最初に説明を受けたな。確か講習を行うために残っている先人達だったか。


「ここまで下りてきたって事か? その割には気配も何も感じないが」


「それは無いと思われます。推定ですが、本人は今もまだ地上にいるのでしょう。こちらにも、動いたといった類の連絡も来ておりません」


 自動人形――オートマタ―……オートマトン……そういった言葉が頭に浮かぶ。

 だけどまあ、今は多脚で良いか。似たようなのが出て来たら改めて考えよう。


「あれはどういったスキルなんだ? 無人殺戮兵器に見えたが、スキルを使った本人はどこまで知っている?」


「どこまでとは?」


「そうだな……戦った事、破壊された事、そして破壊した相手。その辺りは何処まで分かるものなのかな」


「減ったことはある程度理解していると思います。やはり数によって負担が変わると思われますので。ただ詳細までは理解していないかと……これは昔の通りであればの話でございますが……」


 そういやスキルは成長するんだったな。今の人間を知らなければ正確な事は何一つ分からないか。


「一応、分かる範囲でそいつのスキルを教えてくれ」


「元となる材料が必要ですが、およそ百を超える数を同時に作り出す事が出来ると聞いております。完全自動型で、なおかつ放置型だったと聞き及んでおります。ただスキルですので、動かし続けるには限度があるでしょう」


「その話だと、こんな所にいる理由が不明だな。航続距離が無限だとしても、大変動の後にここまで歩いて来たのか? そして俺達の前に現れたのは偶然か? 俺はそうは思わない。ちょいと不自然すぎる」


「通称宅配スキルと言うものがあります。比較的よくあるスキルで、コモンスキルと呼ばれるものの一つです。我々の仲間にも所有者はいますが、分かり易く言えば物質転送でございます」


「そんな便利なスキルがコモンなのか。意外だな」


「実際の制約などは人により違いますが、おそらくそういったスキルの持ち主がこの周辺に撒いたのだと思います」


「そいつはまあ飛ばすだけとして、多脚を操っているスキルの作動時間は?」


「詳細は分かりませんが、常識で考えればスキルを発動し続けていられるのは1日か2日……それ以上は心がもたないと考えられます。それと攻撃対象も選べなかったと記憶しています。ある程度の大きさで動くものなら何でも攻撃しますので……」


 今倒したのはせいぜい40と言ったところか。少し時間差もあったし挟撃もされた。一丸となっているわけでは無く、この辺りを目標としてばら撒いたのだろう。それも大体の時間を予測し、なおかつ大変動直後でモンスターがいないこのタイミングで。


 なら目的は単純明快。そしてそれは、俺の考えの正しさを証明しているようなものだった。

 それと同時に、上の連中が友好的では無いという事もこれで確認出来たと思っていいな。

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