【 召喚者達 】

第44話 それが黒い騎士との出会いだった

 歩けるようになったからと言って、迷宮ダンジョンの地図があるわけではない。

 それに大変動の時間も分からないし、食料には限りがある。

 俺はもうダンゴムシを甘く感じるほどに慣れてきたが、さすがにセポナには食わせられん。

 折角俺自身が平気になったのに、巻き添えで死んでしまう。

 だが今更になって奴隷契約を解除する気にもならないし、何よりセポナが拒否するだろう。


「もう疲れましたー。休みましょうよー」


「お前は背中に乗っているだけだろうが!」


「上下に揺さぶられ続けるのって、結構内臓に来るんですよー」


 まあ仕方が無い。幸い湧き水が近くにあった。水の補給を済ませよう。

 というか、こいつが目ざとく見つけたんだけどな。本当に目端が利く奴だ。


 ぐったりしているセポナを脇に置いて、水筒に水を入れる。

 これはもう何回目の作業だろう。場所も分からない。もう間に合わないか?

 頭を振って、嫌な考えを吹き飛ばす。弱気になるな、俺。


 そんな事を考えながら立ち上がる。その目の前に、いつの間にかそいつは立っていた。

 本当に音も気配もなく、いつの間にか――だ。

 セポナも気が付いたのだろう。悲鳴を上げそうだが声が出ないようだ。座ったまま、滑る床をじりじりと後ずさっている。


 目の前にいたのは――化け物だった。

 見た目は全身真っ黒な全身鎧フルプレート。金属のようにも見えるが、光沢が殆ど無い。

 そして何よりも、ヘルムにあるはずの覗き穴などの隙間が一切見られなかった。

 のっぺらぼうの生きている甲冑、そう言えば良いのか。

 しかも馬に乗っている。漆黒の馬。この滑る苔の上に馬で立っているのも驚きだが、頭が天井に着きかけている。どうやってここまで来たんだコイツは?


「驚いていますわね」

「そうね、普通は驚くわよね」


 その騎乗した黒い甲冑の左右から声がした。人の声。子供の声。そして俺達の言葉。

 慌てて確認すると――いた。

 最初に異様な化け物を見上げたので気が付かなかったが、その左右に小さな子供が立っていた。


 見た目は8歳か9歳。幼女と言うか少女と言うか難しい辺りだろう。

 金髪を……なんて生易しい物じゃない。まさに金属としての純金の輝きを持つ黄金の髪をツインテールにし、瞳は血のような赤い色。


 体には黒いかすみのような、なのにハッキリと形どった透けたドレスを身に纏い、その下にはフリルたっぷりの――それでいて布面積の極めて少ない下着を身につけている。


 二人とも同じ顔、同じ声。双子なのだろうか?

 いや、それ以前に人間か? だが本能は違うと言っている。

 ヴァンパイア……俺が最初に考えたのは、そんな感じであった。


「これは人?」

「多分人」

「でも違う」

「人でなし」


 二人がヒソヒソと言っているが、全部聞こえているぞ。

 だがどうする? 敵か? だとしたら勝算は?

 俺は既に召喚者2人と百人近い兵士を倒している。だがそれが自信になるのか?

 むしろなってはいけないだろう。目の前にいるのは、間違いなく未知の存在なのだから。


「そう怯える事は無い。お前たちも黙れ」


「「はい、ご主人様」」


 ――な!? しゃべった。しかも俺達と同じ言葉だ。

 甲冑で少しこもった感じだが、太い男の声。これも……いや、彼も召喚者なのか?

 敵ではないとすると――いや、そうでなくても、化け物と感じた事は心の中で謝罪しておこう。

 まだ分からないけどな。


 それにしてもご主人様か。この子たちも奴隷なのか?

 見た所では透けたお腹に紋章のようなものは見えないが、それは根拠としては弱いだろう。

 ただ奴隷としては、少々幼すぎるだろう。労働力になるとは思えない。まあ見た目や身長はセポナもさほど変わらないが。


「……ふむ、貴様とは旨い酒が飲めそうだ」


「いや、未成年なんで」


 いきなり妙な事を言いだした。というか、今何を理由にそういった?

 表情も視線も読めない。声からも感情を感じない。何とも掴みどころが無い。ただ敵でないのは幸いだ――もちろん、今だけなのかもしれないが。

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