第43話 世界の事など何も知らないし、知った所で今は穴倉の中だ

「取り敢えずお前はちゃんと歩けないだろう。背負ってやるからこっちにこい」


 セポナをおんぶして立ち上がる。うん、大丈夫だ。


「なんで急に歩けるようになったんですか?」


「俺のスキルらしいが、詳しくは分からん」


 一度発動すると、こうして興奮状態が収まった後でも効果は残る。もちろん効果は段違いだが。


「なあ、いくつか聞きたいんだが」


「何でも答えますよ。今は貴方がご主人様ですから」


 あ、それで一つ思い出した。俺を殺す気があるかを聞かなきゃいけなかったんだ。

 あの時の土下座がまだ心に残っている。やったことの重さに比べれば、俺は殺されても仕方が無いのかもしれない。

 だけど今は、少なくとも全てに決着をつけるまでは死ぬわけにはいかない。

 聞くのは怖いが……。


「お前は俺を殺したいか?」


「今は無いですよ。なんたって一蓮托生ですから」


 即答であった。

 ホントになさそうで少し安心した。言う事にも一理あるしな。

 だが、いつかは贖罪しょくざいしなければいけないだろう。


「そりゃそうか。じゃあ別の質問だ。スキルに関してどのくらい知っている?」


「むしろご主人様の知りたい事が分からないと答えようがないですね」


 ごもっともです。


「スキルがオフになっている時。要はアイテムとかを使っていない場合だな。そんな時でも、スキルの効果が残ったりはするものなのか?」


「修練して極めていくと、次第に残るそうですよ。例えば高速移動のスキルなんてのがあるんですが、使っているとスキルを切った時の速さも上がるみたいです」


 俺が今スキルを使えるのは、そう言う事なのだろうか?

 いや、違うな。そもそもスキルを使うアイテムってのが無いし。

 興奮状態が収まっているだけで、スキルは依然として使用中の可能性がある。というか、多分それだ。俺は発動した時以来、一度もスキルをオフに出来ないでいる。

 だとしたら、俺の精神は次第に壊れてくるわけだ。早く何とかしたい……。


「迷宮の上に街があるそうだが、その辺りの構造を詳しく教えてくれ」


「良いですよー。ここはラーセットの国の首都、ロンダピアサです」


「あー、そんなこと言っていたな。あの時は理解していなかったが、首都の下に迷宮なんて危険なものがあるのかよ」


「迷宮は危険ですが財産でもありますからね。何かがあった時の対処や、他の国から守るためにも巨大な都市を上に築くんです。そうなると首都の機能が次第に移ってって感じですね。でもこの辺りは歴史の話ですよ」


「そんな昔からの話なのか。それでその話だと、他にも国はあるのか?」


「そりゃありますよ。確かご主人様の世界も沢山の国があるのでしょう?」


「確かにな。人間の社会はどこも同じか。しかし今の話だけど、迷宮はそこら中にあるのか?」


「百以上は確認されていますね。あ、でもそれは入り口だけです。迷宮はわたしたちの世界ではパオローゾと言います。星の内臓って意味ですよ」


「へえ、変わった名前だ」


「それ程に奥が深くて広がっているって事です。あとそのせいもありますが、大変動によって迷宮同士が繋がる事はよくあるんです」


「他国の迷宮にか? それは色々と厄介ごとがありそうだな」


 さっきの話だと、迷宮は国家の財産。しかもかなり重要な様だ。他国が荒らす事を許しはすまい。


「それなりに揉めたりもしますけど、浅い階層ならよくある事で済まされますよ。それなりに手続きは必要になりますけど」


「階層っていうのは?」


「迷宮は木の根っこのようだと言われています。セーフゾーンの位置から予想されている事ですけど」


「ふむふむ」


「入口は一応一か所ですけど、奥に行くほどに広がっていくんです。ここはわたしたちにとっては限界ともいえる深度ですけど、召喚者の方々はもっと深くまで行っていますよ。中には何年も戻ってこない人とかいるんです」


「半年間成果が無ければ帰れって最初に言われたけどな」


 考えてみれば、それは半年ごとに戻って来いって話じゃないのか。そして本人がいないのに強制的に帰す手段も無い。

 多分だが、帰らせる為にはあの部屋を使うのだろう。俺達が落ちた穴を。


 だが抵抗されたらどうなるんだ? 成果が無く、まだ帰りたくないってやつもいるだろう。

 そこまで考えてふと思う。


「上には確か、10人が常駐しているんだったな?」


「そうですよ。あの人たちは特別です。最強と認められた人たちですよ」


「入れ替わったりはするのか?」


「ありますが、滅多に無いですね。迷宮で成果を出して、戻らない選択をして、尚且つなおかつ国家に対する忠義も求められます」


「へー」


 そんな暢気な返事をしつつも、それはすなわち最強の敵になり得るという事も理解していた。

 俺の立ち位置的には特にな。

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