第42話 謎スキルだが出来る事は次第にわかって来たと思う

「少し試したい事がある。セポナはここで休んでいてくれ」


「構いませんが、あまり離れないでくださいね」


善処ぜんしょしよう」


 またスキルの発動条件や使い方は不明。それどころか正式にはどんなスキルかも不明。

 だけどこれまでに何度か発動している。正しくは、スキルはずっとオン状態だったんだ。あのゲームのようなアナウンスは、自動で発動した時にだけ流れたのだろう。


 先ずはダンゴムシを食べ、緊張感を高める。

 周囲の風景が明るくなっていくのが分かる。スキルが反応しているんだ。


 改めてこれまでの事を思い出す

 初めて竜の肉を切った時、石のように硬かった。だが次第に普通に切れるようになった。

 慣れた? 確かにそう思った。食べた時も同様だ。

 最初は固かったが、次第に普通に食べられるようになった。あの時は熟成や腐敗かとも思ったが、実際には違ったのだろう。


 ダンゴムシの毒も俺には効かない。最初から効かなかったのだろうか? それも無いな。

 遅効性の毒……俺はそれで、確かに死んだ。

 だけどその死は回避された。自動で発動したスキルによってな。


 初めて人を斬った時はどうだ? なぜあんなに簡単に斬れたんだろう?

 戦った事なんてない俺が、なぜあんなに戦えたんだ? しかもベテランの召喚者二人を相手にして。


 今までの経験から、幾つか考えられる可能性はある。その一つを今試す。


 ――この地面は滑らない。俺は歩ける。


 力を込めて一歩踏み出す。

 そして滑ってこけた。


「何をしているんです?」


「いや、手ごたえはあった。見ていろ」


 スムーズに立ち上がる。それだけで、セポナの目がまん丸く見開かれる。

 踏みしめた苔色の大地はまだ少し滑るが、歩けない程ではなくなった。


「どうやったんですか? あ、スキルが発動していますね」


「ああ、何とか成功だ」


 だけどやっぱり本質的な事は分からない。

 スキルが発動し、出来なかった事が出来るようになった。慣れればもっと楽になっていくだろう。


 俺の予想では、思った通りになるという感じか? 想いが力になるとか……いやそれは無いか。しかしどこか近い気がするのも確かだ。

 だけど完全じゃない。そりゃまあ上限はあるのだろうが、今の所は地上に帰るとか、奈々ななたちと話したいと思ってもまるでダメだ。

 それに目的の場所へ行きたいとずっと思っているのに、到達する気配すらない。

 本当にこの道で合っているのか? それすら不明。頭がおかしくなりそうだ。


「セポナ。お前はどんな言葉を翻訳する時にハズレという?」


「難しいですねぇ。くじに外れた。的から外れた。道を外れた。カツラが外れた」


 カツラ、在るのか……。いや、そんな事は良い。

 やはり俺の予想した効果を現しているとは思えない。あの女神官は、俺のスキルの何を見てハズレと言ったんだ?

 本当に何も無かったからハズレと思った……否定はできないが、根拠も無いな。


 とにかく今の状況で分かるのは、スキルを使う為にアイテムは必要ないって事くらいか。

 いや、案外アイテムがあればもっと楽に強力なスキルとして行使できるのかもしれない。


「セポナ、スキルの使用にアイテムは必須か?」


「わたしは使えませんので分かりませんが、琢磨たくまさんもみどりさんも、迷宮では命の次に大切だと言っていましたよ。無くしはしないけど、壊れたら大変だって」


 あまり旨そうでは無いパンに塩まみれの肉をもりもり食べながらそう答えた。

 俺もダンゴムシよりあっちの方が良かったかなと思うが、今更仕方が無い。必要だったんだ。

 とにかく、これで今までよりも少しは楽になった。

 後はそうだな――、


「よし、セポナ。お前を抱くぞ」


「え、本気ですか? わたし初めてだから演技できないって言いましたよね?」


「いいからじっとしていろ」


 そう言って抱きしめる。

 小さな体。俺とセポナ、二人の鼓動を感じる。そして人のぬくもりも。

 心が落ち着いてくる。一人だったらこうは出来ない。俺の心は未知なる恐怖に押しつぶされていたか、スキルの使い過ぎで崩壊していただろう。

 今はもう、この世に居なかったかもしれない。

 本当に殺さなくて良かった。正気に戻れて良かった。この子との出会いに感謝だ。


「ええと……ああん、すごいぃ。ご主人様きもちいいですー」


 ゴン、ゴン、ゴン。


 取り敢えず頭を3発殴っておいた。

 余韻を壊した罰としてはこんなものだろう。

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