第40話 余計な手間をかけたがこれも必要だったと妥協しよう

 白いお腹にハンコを押す。

 ハンコと言っても小さなフライパンサイズ。端までしっかり行き渡らせるために、結構強く押し込むことになった。


「あ、ああんっ!」


 少し内股になり、腰を引いて顔を赤らめる。


「変な声を出すな!」


「お、押し方が下手なんです。あ、ダメ……」


「だから変な声を出すな! 初めてなんだから仕方ないだろ! いいから力を抜け。上手く入らない」


「えっちぃ」


「お前、これが終わったら説教な」


 ようやくハンコを押し終えると、同時にセポナのお腹に見た事もない文字が浮かび出た。

 何となく、切手に押されている消印みたいな感じだ。

 同時に柄を持っていた俺の利き腕――右手の甲にも似たような小さなマークが現れた。

 いや、こうやって出るならハンコとか押さなくても良かったんじゃない?

 そうも思うが、システムとかは知らないから突っ込めない。


「まあこれで終わりか。思ったよりも簡単ではあったな」


「あとこれもお願いします」


 そう言って取り出したのは、さっきよりも小さなハンコ。

 確かこれは、淫紋とかを付けるためのものじゃなかったか?


「なぜ必要なんだ?」


「だってご主人様があまりにも粗末だと、演技しなくちゃいけないじゃないですか。面倒なんです」


 淫紋のハンコで頭を殴ったら、ゴチンとなかなか良い音が鳴った。


「不要だ!」


「それならそれで良いですが、一応は用意しておきますよ。今度お願いしたら、そういう事だと思ってくださいね」


「そもそもしねーよ!」


 それより、これで嘘は付けなくなったわけだ。それに時間が無いのも事実。ここから先は歩きながら話すとしよう。





 ❖     〇     ❖





 柱を越えた迷宮は、今までとは一変していた。

 これまではカーキの岩の中に光る岩がゴロゴロと埋まっている感じだった。

 それは床でも壁でも天井でもお構いなしに埋まっており、かなり明るいと思ったものだ。

 それに広さも相当なもので、巨大な地下空洞を歩いている気分だった。


 一方、今はまるで苔むした洞窟のようだ。

 周囲は緑色で、苔のようにつるつると滑る素材で覆われている。

 だけどこれは植物じゃない。この迷宮の壁その物だ。


 広さも段違い。とにかく狭い。今は立って歩ける場所を慎重に進んでいるが、ウサギくらいしか入れないような横穴が無数にある。

 それに形状も円形で、動物の巣穴のようにも感じられる。

 しかもうねりまくっているせいで、方向感覚が狂いっぱなしだ。


 これだけでもきついのに、ここは暗い。これは緊張感がほぐれたせいで、スキルが弱くなったからだろう。

 だがそれはそれで精神的に参ってしまう。


「何か明かりになる様なものは無いか? 出発の時に随分とあさって来ただろう?」


あさったとは失礼ですね。必要な装備を揃えていたのですよ」


「それは悪かったな。それで何かあるか?」


「これなんてどうですか?」


 そう言って取り出したのは、懐中電灯だった。

 いやいや、ちょっと待て。確かにこちらの文明技術もあるだろうけど、これはそのまますぎるだろう。


 とは思ったが、似ているのは形と用法くらいだった。

 スイッチがあって、押すと前が照らされる。だけど電球は無いし電池を入れる場所もない。


「一応召喚者がもたらした技術の応用と聞いていますよ。琢磨たくまさんも最初見た時は驚いていました」


 なるほどね……。

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