第39話 どうせ不要になったら解除すればいいんだ

「よし、やっぱり奴隷契約は無しにしよう」


 この世界の契約に強制力があるのは分かっている。

 そしてこれが本当に奴隷契約書なのかも分からない。

 うん、話にならん。こんな危険なものにサインなど出来るか。


「今更何をビビっているんですかー! ヘタレ! ちゃんと契約してわたしを守ってくださいよー」


 腰にしがみつきながら大騒ぎ。というかさっきから本音がモロ出しだぞ。


「分かった、分かったから。落ち着け! 手を離せ! 契約してやるから」


 ――全く、難儀な事だ。

 だが目的が素直だっただけに、ここは承諾した。

 さもなければ永久ループの刑か、本当にこいつを殺すかを選ばなければいけなくなってしまう。

 それに召喚者を操れないのも事実だろうしな。仮に多少の不都合があったとしても、俺のスキルで何とかなる。今なら、なんとなく分かるんだ。


「そうそう、そこに名前を書いて上から拇印ぼいんを押して下さい」


 ハンコがある時点で違和感はないが、拇印もあるんだ。

 書類を書くついでに、さっきの事を聞いておこう。


「どうして大変動の後は誰も来ないんだ? この際だから大変動からちゃんと説明しろ。俺の予想だと迷宮が一変するようだが?」


「よくあの状況からそんなに冷静に考えられますね。でもその通りです。迷宮全体の変貌が大変動です。セーフゾーンはそのまま残りますが、セーフゾーン同士のつながりも変わりますよ。最悪の場合、繋がるセーフゾーンの無い袋小路になりますね」


「そりゃクソゲーだな。仕様バグってやつだ。ちゃんとプログラムを組む前に書面で確認しておけ」


「何を言っているのか分かりませんが、その場合は次の大変動まで手の打ちようがありません」


「その時は?」


「何とか水を探して食料を探して……」


 つまりはサバイバル。いやもう迷宮って言われた時点でこっちはその覚悟。

 つかそうやってここまで来たんだ。

 だけど今の話だと問題が一つ。帰り道が分からなくなっているって事だぞ。

 今の段階だと壁や床の色合いや質感が変わっただけに見えるが、あの柱を超えた先はもう別世界って訳かよ。


「そうだ、大変動が起こった時の影響は見た。確かに、あれで生き残ったら奇跡だろう。だがモンスターはどうなっている? 全滅するなら、俺が見たモンスター共はどうやって生き延びたんだ?」


 考えてみれば、大変動の度にモンスターが全滅してくれるのなら楽なものだ。だけどそんな事は無いことも分かっている。


「モンスターが何処から来て何処へ行くかは分かりませんが、大変動が近くなると次第に姿を消して、大変動が終わると次第に増えると言われています」


「なんだそりゃ。繁殖とかどうなっているんだ?」


「それは学者にでも聞いてください」


 数千年攻略していてまだ出来ていないんだ。そんな世界の学者のいう事に何の価値があるのやら。

 なって言ったら、俺の世界も大概だけどな。まだまだ真理は遥か彼方だ。


 そんな話をしている内に、記名も拇印も完了。

 セポナも同様に記入と拇印を済ませると、それを大きなハンコに入れた。

 同時にミキサーのような音がする。今書いた内容、本当に意味があったのか?


「では、これをお腹に押してください。上下を間違えないように綺麗に押してくださいね。ずれているのを見られると恥ずかしいんです」


 そうやって、スカートをたくし上げて白いお腹を見せつける。

 なんだろう、幼い外見もあって物凄くいけない事をしている気がする。


「どうしました? 手が震えていますよ。初めてだからって緊張しているんですか?」


「いや、そういう訳じゃないが……うん、失敗したらと思ってな」


「絶対に失敗しないでくださいよ! まあ仕方ないですね」


 そう言ってハンコを両手で掴む。


「あたしがリードしますから、ゆっくりと優しくしてくださいね」


 益々いけない事をしている気がしてきた。落ち着け俺!

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