【 幼き奴隷 】

第33話 それがセポナとの出会いだった

 気が付くと、俺は現地人の遺体の上に座り剣を大地に突き刺していた。

 休憩していたようだが、何とも不遜な態度だ。とても知り合いには見せられない。

 傷は……感じない。あれだけの重症――いや、致命傷はどこへ消えたんだ?

 というより、目の前にいる少女は誰だ?

 だけどそんな事を考えるのも面倒くさい。処分しておくか。


「どうか殺さないでください。私は通訳です、荷物持ちです。下のお務めも果たします。どうか殺さないでください」


 そう言って、立ち上がると粗末なミニスカワンピースの裾をたくし上げる。

 何故かその下には何も身に付けてはいない。


 改めて見ると、まだ子供っぽさが抜けきっていない感じだ。見た目だけなら始めて会話した時の奈々ななを思わせる。

 だけど目つきや雰囲気などは、それよりもしっかりとしている。実年齢は見た目より上だろう。

 まあこの世界の人間が、俺達と同じように年を取るとは限らないわけだが。


「名前は?」


 興味があったわけではない。むしろ、それを聞いた自分が意外だった。


「セポナ・カム・ラソスです。階級は市民で、琢磨たくまさんの通訳を担当しておりました。何でも致します。どうぞ命だけはお助けください」


「殺しはしない。あとパンツを履け」


 何で履いていないんだよ! そっちのせいで、全ての思考が飛んでしまった。

 と言うか、身に付けているのは透けるように薄く粗末なワンピース。そのせいで分かったのだが、ブラも付けていないぞこいつ。

 もう殺す気も失せた。それより、落ち着いて考えてみれば情報が必要だ。なぜ短絡的に殺そうと思ったのだろう? 謎だ。


 改めて見ると、身長は130の後半くらいか。かなりの痩せ型で、胸の膨らみは無い。

 可愛らしい顔立ちだが、それ以上にピンクの髪が目を引く。艶やかなショートボブで、こんな迷宮には似つかわしくない感じだ。

 よくよく見れば、周りの連中の髪も青かったり緑だったりと個性豊か。あれだけ斬ったのにまったく気にしていなかった事に、自分でも呆れてしまう。


 服の他は大きめのショルダーバッグ。武器のようなものは持たず、パンツは履いていなかった。

 いや、パンツの話はもういい。なぜそんなに頭にこびりつく。


「聞きたい事がある」


「は、はい。何でもお申し付けください!」


 木箱から取り出したパンツを履きながらハキハキと答える。

 仲間への忠義とかは一切無い様だ。いや、単に恐怖からか。だが助かる。


琢磨たくまって名前からして、石の槍を操っていた男か?」


「そ、そうです。通訳兼夜の相手として買われましたが、奥様がいらしたので使われたことはありません。新品です。どうぞご確認を」


 そう言って再びパンツを下ろし始める。いいからやめろ。

 それにしても、流暢な日本語だが微妙にイントネーションがおかしい。現地語の発音との違いなのだろう。


「あいつは普通に会話していたし命令もしていた。特に通訳が必要とは思えんが」


「確かに日常会話には問題ないのですが、専門的な事や重大な案件は文章で決定しています。私はその確認係を兼ねていまして」


 現地人に重要な文章――話の流れからして契約書などか。それの翻訳をやらせる……危険すぎて俺ならパスだ。

 だが多分だが、あいつは字も問題無く読み書き出来ただろう。そんな気がする。

 それにしても――、


「それで雇われたのではなく買われたってのは何だ? お前は奴隷か何かか?」


「はい、その通りです。実は親にかなりの借金がありまして。そこを琢磨たくまさんとみどりさんにお買い上げいただきました」


「なんだ、なら俺は恩人の仇という事になるな」


「恩……と言うのでしょうか?」


 少し寂しそうに下を向く。確かセポナだったか。

 考えてみれば、親の借金のカタに売られて恩も何も無いか。

 それにしても奴隷か……まあ何の拘束力も無いだろうが、この世界を知っていて言葉が通じる。考えてみればこれほどありがたい存在はなかなか無いぞ。


 「琢磨たくまと……みどりだっけ? あいつらは死ん……元の世界へ帰ったが、お前の立場はどうなる?」


「ご帰還された時に奴隷契約も消えていますので、今はフリーです」


「奴隷契約?」


「これです」


 そう言ってスカートをガバッとたくし上げる。だからそれはもういい。

 と思ったのだが、見せたいのはお腹だったようだ。とはいえ、ちょっとポッコリとした白いお腹が見えるだけだが。

 後へそがある。いや、それは良いか。


「何も見えないが」


「奴隷の契約を行うと、ここに印が出るのです。今は無いでしょう? 契約が解除された証です」


 コイツ……その辺りの事情を俺が知っている前提で話しているな。


「まあいい。それで俺がお前を奴隷にするにはどうしたらいい?」


 それが、今の俺にとって最初の課題となった。

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