第29話 これが終わりなのだろうか

みどり!」


「大丈夫、気にしないで。だけど――そうね。貴方の予想、当たっているかも」


 一見すると実体の様な鎖だが、実際にはごく普通のエネルギーに過ぎない。

 物理的に地面を掘り進んでいるのではなく、土は単なる中継地点。形は違えども、炎や電撃で遠隔攻撃しているのと同じである。物質のように切れるわけが無い。

 ましてやそれが攻撃された時に、本体にダメージが返ってくるなど聞いた事も無い。


「本当になんなのよ、あの子」


 口の端から流れる血をローブのそででグイとぬぐう。そこにはもう、今までの様な余裕はない。

 続けざまに攻撃を続けるが、最初のいけそうな雰囲気が嘘のように当たらない。

 それどころか、2本3本と切られるごとに目が眩み全身がきしんだように痛む。



 ――長引かせてはダメだ。


 それは新庄琢磨しんじょうたくまが感じた恐怖。

 これまでの経験ではなく、人として――いや、生物として感じた焦燥しょうそう


「※※◎〇 △▽〇▽△!」


 覚悟を決めて命令した。全員突撃と。

 囲んでいる円の中心に行くほど、味方同士が詰まり過ぎて身動きが取れなくなる。だから今まではやって来なかった。

 だが同時に、相手の行動も封じられる。

 テレポートで逃げるか? 使うなら使え。だがもう長距離の移動には使えない事など予測済みだ。

 包囲を脱する程度なら、矢で牽制して再び囲む。当初の予定通りの行動で、むしろ歓迎じゃないか。


 とにかく相手に休ませる暇は与えない。

 だが奴は包囲を脱しない。密集した中に飛び込み、全身に傷を負いながらひたすらに斬りまくる。

 こうなるとどうしようもない。相手は転生者。その力も防御も回復力も、常人の比では無い。

 しかも殺人に躊躇ちゅうちょが無く、自らが傷つくことも怖れていないように見える。タチの悪いバーサーカーだ。


 逆に、返り血と自らの血で真っ赤に染まりながら迫り来る転生者は、現地人からしたら恐怖の対象――いや、それはもはや凶悪なモンスター。

 しかも奴の目。今もスキルが発動したままだ。初めて見た時からずっと。

 だからスキルが無いという言葉が嘘だと断言できた。


 まあ無知は本当なのだろう。そうでなければ、ただの馬鹿だ。本当に自分では気付いていなかったのだろう。

 だがあれからどのくらい時間が経った? いつまで発動したままなんだ?

 こんな事は有り得ない。あいつには疲労という概念が無いのか?


 悩む琢磨たくまの前に、まるで天から光が差し込むかのように僥倖ぎょうこうが現れた。

 実際にはそんな光景ではない。だがそう言っても過言ではないほどの好機。

 倒れた兵士が、奴の足首を掴んだのだ。

 動きが止まる。同時に一斉に兵士達も攻撃するが、動けないとは思えない反応で全員が倒された。

 だが上半身の動きだけだ。見事というしかないが、その場から動けない事に何も変わりはしない。今しかない。


みどり、あれをやる!」


「分かったわ」


 叫ぶと同時に石の槍を放つ。何人かの味方も巻き込むが、もうこれだけ殺されているんだ。連中も納得するだろう。





 再び石の柱が襲ってくる。下から生えてくる時も正確だが、生き物のようにぐにゃりと曲がって再度攻撃を仕掛けてくる所が嫌らしい。

 しかもこの密集状態だ。味方まで巻き込んでいる。気でも狂ったのか!?

 というか、敵は向こうになったと言ってやりたい。無駄だろうが。


 それよりもこいつだ。

 もう死んでいる男が、いつまでも俺の足首を掴んでいる。邪魔で邪魔でしょうがない。


「悪く思うな!」


 殺しておいて今更だが、その手首を地面ごと剣で斬り捨てる。

 視線は当然、後ろの下。俺の足元だ。だから一瞬だけ遅れた。現地人の群れの中から出現した、3本目の石槍に。


 ――2本までじゃなかったのかよ!


 それは何人もの人間を貫きながら、俺の肩までも貫いた。

 身に付けていた勇者の肩当ショルダーアーマーが弾け飛ぶ。肉が抉れ、多分骨まで達している。

 油断した! そう思った目の前で、石槍から生えた無数の鎖が、俺の全身を貫いた。


 ――そうか……石槍も土。こんな使い道もあるのか……どこか似たスキルとは思っていたけど、なるほどね……良いコンビだ。


 薄れゆく意識。スキル発動のアナウンスも無い。遂に帰る時が来たのか?

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