第27話 新庄琢磨と須恵町碧

 これでスキルが発動したとかいうアナウンスは3度目か? 変な追加の言葉は初めてだが。

 そしてスキルの効果なのだろうか、発動と同時に10メートル程移動している。

 突き刺さった矢は? そいつは元の位置に落ちていた。

 だけど体には――いや、服にさえ傷一つない。一体どういう事だ? 刺さったはずだろう?

 いや、それは考えるまでもない。スキルの効果だ。


 ハズレ……それは間違いなく日本語に間違いは無い。だけどあの痴女神官は、言いよどんで悩んだ挙句あげくそう言った。

 本来なら違う意味。だけど教わった言葉に無かったのか?

 だから、ニュアンスが似た言葉からハズレと言う言葉を選んだのだろうか。

 様子からも、決して良い意味ではなかったはずだ。だけど、本当にそうなのか?


 考えながらも、後ろから襲ってきた兵士の首を飛ばす。

 さっきよりも頭が冴えている。動きも反応も早くなっている事が実感できる。

 というか、もう見なくても周囲の動きが手に取るように分かる。これが極限の緊張というものか?


 だがまあ、とにかく気を失わなかったのは幸いだ。意識を失ったら、その場で終わってしまうのだから。

 再び襲ってくる兵士達を見ながら……そして血を噴き呪詛じゅその言葉を吐いて倒れるその死骸を見ながら、そんな事を考えていた。





“石槍使い”のスキル保有者、新庄琢磨しんじょうたくまは、成瀬敬一なるせけいいちのスキルを瞬間移動テレポートと予測した。

 なるほど、確かにそれなら不自然な点がいろいろと納得できる。大方おおかた、スキルが面白くてテレポートしまくった挙句にこんな所まで来てしまったのだろう。

 それも迷宮の説明を聞く前に。


 隠そうとしたのは、スキルの強力さ故か。それは目を見ればわかる。瞳の紋章が放つ輝きが強すぎる。

 あれほど強力なスキル使いなど、そうそういるものではない。もしかしたら、地上の10人にも匹敵するかもしれない。

 しかも便利さで考えたら一級品。だからこそ、もし敵対する事になったら最優先攻撃目標となるだろう。

 それも、始める前には始末しておかないといけないたぐいの能力者。自由にさせたら、その時点でこちらの負けなのだから。

 スキルを隠そうとしたことも頷ける。


みどり


「ええ。▽▽○▲◎■ 〇※〇■◆◆!」


 指示を受けた兵士達が密集し、まるでドーナッツの様に成瀬敬一なるせけいいちを囲む。

 そして弓兵はその外周に配置された。


 テレポーターは確かに厄介だろう。だがスキルは無制限に使えるわけでは無い。

 それはあいつが、未だにこの場に留まっている事からも明らかだ。

 もし予想よりも強力なスキルであれば、戦う必要がない。とっくに上へと帰っているだろう。

 後はテレポートの隙を与えず、外に出たら矢で攻撃。

 同時に俺とみどりのスキルで牽制しつつ、再び囲む。これで詰んでいるだろう。


 それよりもと、新庄琢磨しんじょうたくまは考えていた。成瀬敬一なるせけいいちが最初の兵士を斬った時の事だ。


 普通なら、剣を構えてフルフル震えながら「やめてくださあぁい」なんて言っている内に斬り伏せて終わりだっただろう。

 召喚者が相手な以上、そう簡単ではないかもしれない。しかしどちらにしろ、回避を優先させるのが常識だ。

 しかもあいつはこの世界に来たばかりだという。


 なのに、僅かの躊躇ちゅうちょもなく抵抗し、兵士を斬った。

 それどころか、自分から踏み込んだのだ。そうでなければ、襲って来た人間の胴を両断など出来はしない。

 本当に高校生か? サイコパス? それとも特別な訓練を受けてきた訳ありの人間?

 何にせよ、普通の子供とは思わない方が良いという事か。

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