第26話 このシステムを作った奴の顔が見てみたい

 一人倒されたら大人しくなる……なんて、世の中甘いものではない。

 いや、そうあって欲しかったがね。


「□※●!」


 間髪入れずに次が来る。考え込んでいる余裕なんてありはしない。

 ここで物語の主人公だったら……神のような力を持っていたのなら、彼等の体力と戦意が尽きるまで受け流して、そこから話し合いにもっていけたのかもしれない。

 或いは、人殺しなんて絶対に出来ないほどに優しい人間だったなら……。


 2人、3人と、襲ってきた兵士を斬り伏せる。

 感じる――そのたびに舞う血飛沫が、俺の後悔を赤く塗り潰していくのを。


「おいおい、分かっているのか? お前にとってはゲームかもしれないが、彼らはこの世界に生きる人間だぞ。地上には家族だっているのだがな」


「そう思うのなら、なぜ俺を襲えと命令した!」


「言葉が分かった……ってわけじゃないだろうな。まあ、あの状況からなら馬鹿でも分かるか。言っただろう。この世界では、嘘つきは信用されないのさ。お前の話には幾つもの嘘があった。信用には値しない」


 男の両目――瞳孔の奥で何かが光る。紋章の様な、少し茶色い淡い光。

 同時に左右からそびえ立つ岩の柱。先端は尖っている細長い円錐形。それが地面から尚も伸びながら、俺に襲い掛かって来た。

 あえて言うのなら、石の触手。


 ――これがアイツのスキルか!


 発動した瞬間、目で分かった。

 いや、目!?

 勇者が何か変なことを言っていた。だけどそれどころじゃなかったから、今まで完全に忘れていた。

 俺の目はどうなっている?

 鏡なんてどこにもなかったから確認なんてしてこなかった。

 水面だって気にしたことも無い。俺の目が何か違うのか?


 待て待て、そんな事を考えている場合じゃない。

 左右から襲い来る柔軟な石の槍。あんなもの、直撃したら確実に死んでしまう。

 しかも相手はそれだけじゃない。人間の兵士達も襲い来る。

 ある意味幸いなのは、石の槍の攻撃が限定的な点だ。おそらく兵士達を避けているからだろう。

 だけどそれもいつまで続くか分からない。人数が減るほどに、あの自在に動く石槍は自由度を増す。


 何人目かの兵士を盾ごと斬り裂いた時、俺の腹はもう完全に決まっていた。

 俺には優先順位がある。俺も含めて、人の命は大切だ。それは別世界の人間だって変わらない。

 だけどそれ以上に、奈々なな瑞樹みずき先輩、龍平りゅうへい達の方が上だ。

 それに対して、ここの兵士達や2人の召喚者の命は、俺よりも軽い。

 それでも――、


「剣を引け! 戦わないなら俺も剣を収める。だが続けるなら、俺は全力で抵抗する!」


 まだ戦わない事に未練があった。それは本当に愚かで、命を賭けた戦いの時にやって良い事じゃなかった。

 叫んだ時に俺の動きは止まる。もちろん十分警戒はしている。決して無防備に行動した訳じゃない。

 だけど――とすっと軽い音と共に、俺の胸には1本の矢が刺さっていた。


 ぼんやりとした目で見ると、兵士の陰に隠れて弓兵が見える。乱戦の中、しっかりと狙っていたのか。

 2本、3本。体に矢が刺さる。終わるのか、ここで。

 今度は現代に帰るのか? それとも、ここで死ぬのか?


《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 ――な!?


 今まで俺の体があった場所に、矢がぽとぽとと落ちる。


《パンパカパーン。おめでとうございます。スキルが強化されました》


 頭に響く、場違いな高い声が無性にイラつく。

 作った奴の首を鶏のように締めてやりたい。

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