第25話 戦って勝てるとは思えないし戦う気だってない

「大体分かった。お前が何も知らない事は嘘じゃないようだ。どんな馬鹿でも、こんな場所まで独りで来るとは思えないからな」


 多少馬鹿にされている気がするが、話し合いが成立するなら良い事だ。


「だがそのスキルがハズレっていうのが分からないな」


「俺も分からないし、周りからは大笑いされたよ。俺はスキルなしのハズレだってな。発動するためのアイテムっていうのも、当然貰えなかったよ。何でそうなったのかを聞きたいのは俺の方だ」


「なるほどね。これで決まったな」


「ええ、そうね」


 何が決まったんだろう?


「どこまで知っているか分からないが、迷宮探索ってのは結構命がけでね。当てもなく、こんな真っ暗な世界を彷徨さまようんだ。そのストレスたるや、相当なものだよ」


 確かにそうだろうな。食料や水が尽きるかもしれない。モンスターが襲ってくるかもしれない。さっきの大変動の話だと、地図なんて無いんだろう。

 セーフゾーンにいれば安全なのだろうが、構造が変わるのは厄介だ。

 行きと帰りが同じ距離とは限らないし、同じように進める保証もない。


 制限時間内に次のセーフゾーンを探しながら、上へ下へと探索を繰り返す。

 上ではゲームみたいなものだと言われたが、ここでの感覚は現実そのものだ。死の恐怖に変わりは無い。

 しかもやり直し不可の一回勝負。気持ちは分かる。


「それにな、召喚者同士での殺し合いなんて事もあるんだ」


「な……」


 絶句した。それは想定していなかった。


「犠牲を出しながら苦労して貴重なアイテムを持ってくる。それを見た他の連中が思うのさ。そいつを奪えば、自分たちは苦労しないで済むじゃないかとね」


「ふざけているな」


「ああ。だがここがゲームの世界ならばと思えば、罪の意識は低い。帰ればそもそも悪事の記憶なんて消えるしな。それに自分たちで持ち帰れば人生の勝利者になれる。それもまた有りなんだよ」


 嫌な話だ。やっぱり一刻も早くみんなと合流しないといけない。

 多分、スキルが発動した今の俺なら留まる事が出来る。もちろん成果を出せなければ帰還させられるのだろうが、もうスキルなしのハズレって訳じゃないしな。


「だから俺達には大事なルールがある」


 ……ん? ルール?


「それは嘘つきを絶対に信用しないって事だ。○○■※ ▽ ■※※!」


 ――な!?

 そう思う猶予もなく、一斉に周りの兵士達が襲い掛かってくる。

 まるでスローモーションのように感じる中、あの男も女性も平然としている。考えるまでもない。命令を出したのは奴らだ。

 なんで? どうして? 分からない。だけど――、


「俺は死ねないんだよ!」


 一番近く。後ろから剣で襲って来た兵士の胴を勇者の剣で薙ぐ。

 だけどその瞬間、失敗に気が付いた。

 身を護るために咄嗟とっさに反撃してしまったが、相手は重厚な鎧を身に纏った兵士だ。幾ら勇者の剣とはいえ――、


 だが体は止まらない。そして、その心配は杞憂きゆうであった。

 まるで熱したナイフでバターを斬るように、すんなりと金属の鎧に刃が通り、そのまま何一つ抵抗を感じることなく反対側まで斬り裂いた。


 即死だったのだろう。信じられない程の血を吹き出しながら、男の上半身は襲って来た表情のまま地に落ちた。

 向こうも驚いたかもしれない。だけど何より俺自身が驚いた。


 普通だったら不可能だ。

 金属鎧を着た人間を、抵抗もなく真っ二つ。こんなの、どんな達人だって無理だろう。

 これが勇者の剣の力なのか? 確かに龍を斬る程の剣だ。出来たっておかしくは無い。

 だけど、心の中で何かが否定する。俺にそんな技量は無い。


 考えてみれば、最初から不自然だった。

 最初石の様だった竜の肉。だけどすぐに苦労せず切れるようになった。

 食べる事だってそうだ。慣れたとか言って自分を誤魔化してきたが、慣れでどうにかなる次元の話じゃない。

 慣れたら石が切れるか? 食べられるのか? 馬鹿な。俺の中で、確実に何かが変わっている。

 今ならはっきりと自覚できる……。

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