【 人との合流 】
第22話 いくら怖くても人間から避けて生きていく事は出来ない
入り組んだ迷宮は、ハッキリ言ってお手上げ状態だ。右へ左へ上へ下へ、自分が本当に進んでいるのかも実感がない。
まあ上まで一直線なんて期待はしてはいなかったけどね。
それでも進めるのは、人が通った跡があるからだ。
目印らしい文字。幾つもの
もっとも、召喚者と意思を共有するために統一しただけかもしれないが。
それにしても、彼らは何日かけてここまで来たのだろう。
迷宮と言われたが、そもそも下へと続いているとは限らない。そんな事すら聞いていなかった。改めて、あの時の精神状態の酷さがよくわかる。
だが拠点は間違いなく上だ。そうでなければ、勇者は『こんな下層』とは言わない。
だが
持ってきた竜の肉はほぼ食べ尽くしてしまった。もっと補充して来れば良かった……と言うより、出発前にもう一度あの部屋に寄るべきだった。
だけどそんな後悔、今更しても仕方がない。
ただ幸い、空だったとはいえ革の水筒を途中で拾えたのはラッキーだった。
今までは服さえなかったからな。革なんて真っ先に食われる対象だろう。
こんなものが残っていたって事は、人間の
それに水も数ヶ所で湧いていた。壊れているのが多かったが、井戸を掘った形跡もあったし水も汲めた。
最後の晩餐用に肉を残して以来、食事は毎日ダンゴムシ。何処にでもいるので、ある意味食料には困らない……味はこの際無視しよう。
それで不思議に思う。なぜ誰にも会わないのだろう。
広い迷宮なのだろうが、俺が通っている道は大規模な人間の行動跡だ。つまりはあの軍隊が進んだ道を逆進しているわけだな。
彼らへの補充兵。補給物資。負傷兵の帰還。人の往来はあって当然だ。なのにそれがない。
勇者が率いてきた軍勢は、全員あの黒い竜や大トカゲなどのモンスターに殺されたのだろうか?
だがそのモンスターにも出会わない。
「やっぱり上に数日留まれば良かった」
もちろん、皆の邪魔をしないという条件付きだが。
観光は許されていたのだから、迷宮の事も聞けただろう。まだ100パーセントとは言えないが、どうせ殺すのだしな。
こんな事を考えたのは何度目だ? そう考え、
考え続ける事は良い。だが答えの出ない考えは永遠に廻り続け、いずれ呪縛となる。そして答えっぽいものを見つけてしまうと、ついついそれに飛びついてしまうんだ。それが間違っているなんて考えもせずに。
状況が分からない時こそ、余計な事を考えてはいけない。ここは未来を考えるんだ。合流したら、先ずなにを話そう……そういった事をだ。
こうして思考を何とかポジティブに切り替えようとした時、遠くから声が聞こえてきた。
「〇〇▲※ ◆◆※〇●〇」
「※□〇▲ ◆※◎▽◎ ※※◇」
……さっぱりわからん。そりゃそうだな、現地語だ。
俺達の言葉を話せる人間はどれくらいいるんだろう?
俺が知る限りでは、例の女神官と周囲にいたフード連中。それに勇者くらいだな。
黒龍が話せたのは意外だが、それは置いておこう。
とにかく、実際にはもっと沢山いるはずだ。それなりに居てくれないと、召喚者との意思疎通が困難になってしまう。
でもさほど心配はしていない。召喚者は貴重な戦力らしい。無用に危害を加えてくる事は無いだろうし、言葉が通じなくても身振り手振りで上まで案内してもらえばいい。
こうして俺は声の方向へと進んだ。
楽観的な、安全が確約されたうえでの不安。そして先の事。俺はこの時、これから起きる事なんて何一つ予想してはいなかった。
無知だからと言って許される事ではない。これは俺の原罪。一生背負って行く事になる、沢山の……そして最初の罪だった。
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