第16話 生きるためだったら生ゴミだって食べるさ
朝――と言って良いのだろうか? だめだよな、当たり前だ。
朝も夜も分からない地下世界。幸い俺は見つからなかったし、ここから落ちる事も無かったようだ。
寝返りをするほどの体力も残ってはいなかったのだろうか。ここに来てから口にしたのは鍾乳洞の水だけだしな。我ながら悲しくなる。
下はもう、すっかり静かになっていた。
連中の巣でもない限り、食料が無くなれば移動する。当たり前の事だ。
俺が見た瞬間から始まっていたのではない限り、もっと沢山の人間がここで死んだ。
俺と同じ召喚された者か? いないとは言わないが、数が違いすぎる。それに、そんなに簡単に倒されるとも思わない。
だから初めて見た時も、
でも皆の顔を思い浮かべると、心の中がズキンと痛む。
この世界に絶対はない。帰るはずの連中が死んだ。いや、まだ分からないが。
その一方で、ハズレの俺が生きている。あいつらも、これからどうなるか分からない。
どのくらいの人数が減ると、召喚は行われるのだろうか?
俺達のような例もあるだろうけど、今も結構な数の人間が消えているはずだ。
見えない制限時間が俺の心を締め付ける。とにかく……進もう。
崖を降りるのは恐怖だったが、慎重に降りてみると意外と何とかなった。
上からだと垂直な崖に見えたが、遠くの外周を見た通り、ここは盆地だった。
もちろん落ちれば死ぬが、壁の角度は思ったよりも緩かったんだ。
おかげでこうして――トンと足が地面に着く――無事到着。
だけど下の惨状は、上から見た物とは比較にならなかった。
散乱する微細な肉片や血に集まったのか、
ハッキリとした人間の死骸は無い。今度は骨まで食われている。
落ちているので使えそうなのは金属の武器だけだ。これだけは食べられなかったのだろう、選り取り見取りだ。
槍を拾い、勇気をもってダンゴムシを突き通す。
硬い――思ったよりも数倍は固い。だけど全力なら、地面まで突き通すことが出来た。
この位なら、何とかなると安堵する。
精々15センチくらいの小動物。しかも動きは鈍い。こんなものを倒した位で喜んでどうすると突っ込みたくなるが、それでもこれは偉大なる一歩だ。
近くに落ちていた
ガッ、ガッ、と、骨を断つような嫌な音が響く。こいつ本当に硬いな。
動きが鈍くなったところで後ろ半分を切り落としひっくり返す。
まだ残っていた脚がミチミチと動く。体も死んでおらず、なんか動く。もう嫌で嫌でしょうがない。
自分だって、好きで解体ショーなんてしている訳じゃない。これも生きるためだ。
彼らが持っていたであろう食料は、何も残ってはいなかった。
そりゃ人肉を食べるんだ。人間の食べ物も食べるだろうさ。いや、これ以上は考えない様にしよう。
ダンゴムシを逆さまにして地面に置くと、何度も鉈を振り下ろした。
情けない……悔しい……そもそもここまでやって食べられるのか? というか本当に食べるのか、俺。
つーか、毒とかあったりしないだろうな?
即死毒もダメだが食中毒だって命に係わる。
だけど人間食べなければ死ぬ。というか、もう死ぬ、限界が近い。
どうせ食べなければ、結局は死ぬんだ。
バラバラにした白い肉片を口に入れる。
生臭い……というより、腐った生ゴミの味がする。
思わず反射で吐き出しそうになるが、手で押さえて耐える。ボロボロと涙が
だけど
生きるために、死なない為に、またみんなに会うために。
半分の肉を食べ終わった頃、俺の疲労は思ったよりも回復していた
鼻から抜ける腐敗臭はまだすごく、少しでも油断したら戻してしまいそうになる。
だけどこれで生き延びた。見ればこいつらは逃げる様子は無い。数も多い。
あまり考えたくはないが、毒がないならこれが俺の主食となるだろう。
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