第14話 死にたくないのなら進むしかない

 どのくらいの頻度で召喚されているかは分からない。だけど時差があるのは確実だ。なにせ、力を得て戻った者たちがいるのだからな。

 だけどそれは少数らしい。ならその他は?

 話の内容が真実なら、力も記憶も失って日常に戻っている事になる。


 だがもし帰ることが出来ないのだとしたら?

 その時はかなりの人間がこっちの世界で死んでいる事になる。

 でもそれはおかしいだろう? だって俺達の高校だけで11人いたんだぞ。


 もし同じような感じで召喚され死んでいたら、今頃社会は大騒ぎだ。

 どこそこ高校生、1夜にして10人死亡とかな。

 だけどそんなニュースは聞いた事が無い。だからあの時疑わなかった。


 そう考えると、先輩たちはちゃんと帰ったんじゃないのか?

 何せここはゲームの様な世界。例えばだけど、こちらにはこちらの肉体があって、向こうには向こうの肉体がある。

 そうだよ。でなければ、向こうの世界の肉体は消えている事になる。

 そしてこちらで死ぬと、精神は元の世界へ帰ってこちらの仮の肉体は残る。一件落着だ。


 そうやって納得しようとした俺を、あの言葉アナウンスが現実に引き戻す。


《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 この世界では死なない。単に召喚の糸が切れるだけ。そう、確かそんな事を言っていた。

 それが世界の法則とかも言っていたな。

 ならなぜ、『避けられない死』なんだ? 死なないはずだろ?


 それとも単に、俺のこのスキル……いや、もしそうなら呪いと呼んでいいが、そのせいで俺だけが帰れないのか?


 思考は巡るが建設的な事は何一つ思い浮かばない。

 そりゃそうだろう。俺は何も知らない。判断基準が何一つないんだ。


 そんな事を考えている内に、3人の死体はもう骨と服の一部を残して食い尽くされていた。

 スキルを使うアイテム……見せてもらえば良かった。

 なぜかと言うと、見当たらないのだ。それらしいものが。


 だけどあの中に飛び込む勇気は無い。ただの芋虫? 冗談じゃない。アレが弱いと誰が決めたんだ?

 本当にゲームなら、最初の敵相応なのだろう。だけど、これは誰かがバランス調節を施したゲームとは違う。

 しかもやり直しは不可能ときてる。

 一見雑魚に見えても、それぞれが俺を凌駕する力を秘めている可能性がある。

 武器もない。鎧も無い。スキルも無ければ場所も分からない。

 ここは余計な事はしないに限る。


「とにかく進もう」


 行くあてなんて何処にもない。だけど、ここに居たって飢え死にするだけだ。

 それとも、またスキルが発動して助かるのか? どうやって?

 分からない事を当てにしても仕方が無い。とにかく先に進もう。

 芋虫の群れを避けるように、3人の遺体とは反対方向に俺は進み始めた。





 ◆     ■     ◆





 もし観光で来ていたのなら、この光る美しい鍾乳洞に心を奪われていただろう。

 瑞樹みずき先輩や奈々ななと一緒に来ていたら、きっと心が躍りまくっていたに違いない。

 何処か子供っぽい奈々ななもそうだけど、瑞樹みずき先輩もそういう時は子供のような笑顔を見せる。

 付き合っているのは奈々ななだけど、先輩も俺にとっては掛け替えのない大切な人だ。

 何とか、今の状況を伝えないと。


 だけどなんて伝えるんだ?

 俺の推理は推測とも呼べないものだ。しかも知った所で、今の所はどうしようもない。

 死んだらどうなるのか? この本質的な事を、最初に軽く流してしまったのは失敗だ。

 だけど聞いて意味はあっただろうか? 間違いなく無いと断言できる。都合の悪い事は絶対に言わないだろうからな。


 そう考えると、これは不都合な情報なんじゃないのか? それとも考えすぎか?

 一応、それなりに説得力のある材料が手に入らない限り、3人の死は秘匿しておいた方が良さそうだ。


 幸い――いや、そうは言えないが、スキル自体は発動した。

 もう一度最初からやり直してもらえば、スキルを発動するアイテムも貰えるかもしれない。

 そうだ、先ずは最初の地点に戻る。そして3人にだけはこっそり事情を伝えよう。

 何が真実かは分からない。だから見た事を正確に。そしてこれからの事を話し合おう。

 そんな事を考えている内に、俺は3人の白骨がある場所に辿り着いた。


 ふざけるな!

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