第10話 ハズレってなんだ?

 ……改めて見ると、凄い格好だな。

 目の前にいる神官風の女性。普通に生きていたら、絶対出会う事は無いだろうと思えるほどの美人。

 更に青を基調に金の刺繍が施されたドレスは所々が開いており、上乳も下乳も丸出しだ。

 下に目を向ければ白い太腿が眩しく、俺の様な純情少年には刺激がきつすぎる。

 スケベ心を起こして長く見ていたいというほどの勇気もないので、さっさと終わらせてほしい。


「では確認します――貴方のスキルは……」


 そう言うと、他の皆と同じように俺達の間に光の膜が出る。


「貴方のスキルは……」


 いや、早く言ってくれよ。

 というよりも、頭の中にスキルの説明が聞こえたって最初の先輩が言っていたと思う。確か栗森くりもり先輩だったか? まあ名前なんてどうでも良い。

 だけど俺に何も聞こえない。それに光の膜が目の前にあるが、そこは真っ白で何もない。

 ここにアイテムがあるんじゃなかったのか?


 手を伸ばすと、何か柔らかなものに触れた。布越しだが人肌の様に温かい。

 これか? 取り敢えずつかんで引っ張ってみる。

 その瞬間だった。突然膜が消え、パンッ! という乾いた音が響く。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。だけど杖を持った左手で胸を押さえ、真っ赤な顔で震える女神官の様子。そして右手の位置を見て、俺が平手打ちをされたのを理解した。


「い、いや待てよ。今のは事故みたいなもので――それより、俺のスキルは何だったんだよ」


 周りがヒソヒソと話している。そりゃ思い切り乳を掴んで引っ張ったらそうだろう。だけど今のはどう考えても事故だ。

 というより、向こうの不備じゃないのか?

 なんだか堪え切れず、俺は大声でまくし立てた。


「説明とか何も無かったぞ。アイテムもだ。何か失敗したんじゃないのか? 悪いがもう一度やってくれ」


「いえ、貴方のスキル自体は分かりました。ただ珍しいケースでしたので、貴方がたの言葉で何というのかを考えていたのです」


 なんだ。要は説明する言葉が見つからなかったというだけか。なら話は早い。


「じゃあ改めて聞くが、俺のスキルは何だったんだ?」


「その……誠に言いにくいのですが、ハズレです。ええ、それ以外にありません。貴方のスキルはハズレです」


 大事な事なのか2回言いやがった。


「それで、そのハズレってスキルは何をどう外すんだ? 回避系か? 開錠かいじょう系とか? というか、何の解説も無いんだが」


「ただのハズレです。それ以上でもそれ以下でもありません」


 おごそかに宣言されたその言葉を聞いて、周囲が一気に騒ぎ出す。


「は、ハズレって何!? あいつハズレって言われたの?」


「それよりあの野郎、堂々と乳揉んでたぞ」


「サイテー」


「あんなんだからハズレとかになるんだろうな。うけるわ」


「でも最初に言ってなかったか? スキルは一人一つって」


「どうせ乳揉むスキルだろ。つか水城みなしろ姉妹と一緒にいる奴じゃねーか。あの野郎、もしかしたら姉妹の胸も……」


 最初は疑問。だが次第にそれは嘲笑となり、最後には大爆笑に変わっていた。

 そんな中、恥ずかしさで逃げ出したい気持ちを抑えて、俺は冷静に考えていた。


 これまでの緊張感。今後へ向けて、少しの期待と大きな不安。スキルという未知の概念に対する戸惑い。そういったものが見えない空気となってこの部屋には充満していた。

 そこに現れた、純粋な格下の存在。それまでの空気を払拭ふっしょくするかのように、部屋全体を包んだ笑いと嘲笑、それに罵声は、いつの間にか瑞樹みずき先輩や龍平りゅうへいをも巻き込んでいた。


「いや、なんかすげーよお前。ハハ、ハハハハハ。ここでハズレって……腹痛え」


「なんか敬一けいいち君らしいというか……その、気を落とさないでね」


 もう笑う寸前をこらえている感じだ。

 奈々ななはぷくーっとフグの様に膨れていたが、あれは事故だよ本当だよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る