第9話 世の中意外性というものはある物だ

 元々、俺と奈々ななは中学の頃からの付き合いだ。

 とは言っても、恋人同士イチャイチャって程ではない。同じアパートの2階と3階。中学に入学間近の頃からの幼馴染であって、ごく普通に一緒にいるのが当たり前という関係といえる。

 だけど恋愛感情が無いと言えば嘘になる。のろけではないが、一応相思相愛の関係だ。

 それに先輩が加わって、よく3人で公園や河原で遊んだものだ。


 二人が男子に人気がある事は俺も知っている。性格は違えど、二人とも美少女で巨乳。人気が出ない方がおかしい。

 というか、やっかみはしょっちゅうだった。

 中学から高校まで、それが止んだ事は一度も無い。

 そこまでするならお前も来いよと思うが、自分からは声を掛けられないらしい。情けない話だ。


 そんな中、いつの間にか龍平りゅうへいが俺達の輪に加わっていた。

 俺にとって初めての男友達――いや俺は親友だと思っているが、まあその辺りはおいおいとな。





 そんな間に、奈々ななのスキルが決まったらしい。だけどこれまでとは周囲の反応が違う。

 もちろん俺達は何の事かは分からない。

 だけど神官らしい女性もフードの連中も、日本語で会話する事を忘れたのか訳の分からない言葉で言い合っている。


 光の膜の中から取り出したのは一冊の本。白い表紙は見えるが、それ以外はよく分からない。


「うん、使い方が判るって、こういう事なんだね」


 なんだか得心したような、いつもと違う雰囲気をまとって奈々ななは戻って来た。


「どんなスキルだったんだ」


 周囲のフード連中はまだざわざわ話し合っているが、こちらは出来る限り平穏を務めて聞いてみる。

 どう考えても、常識外のスキルが出たのは間違いない。


「うーん、名前は言葉にするのが難しいって言われたけど、あえて言うなら神罰かな?」


「神罰? お前何か神様とか信仰していたか?」


「えっと、そういうのじゃなくてね。神話とかに出てくる、洪水を起こしたり雷を降らせたり山を噴火させたりとか、そんなの」


 てへっと笑うがそういった話じゃないだろう。そりゃあの連中が騒ぎ出すのも当然だ。

 なにせ広域破壊兵器の爆誕である。今後は奈々ななの気分次第で世界すら変わってしまう可能性がある。


 迷宮攻略とかもどうなるんだ?

 まるで蟻の巣に水を入れるように、迷宮内に大洪水なんて流しこんだら……。


「そんな危険なスキル、迷宮で使えるのか?」


「うーんと、力を抑える方法を少し練習したいかな。今使ってみるとどうなるかは大体予想が付くんだけれど……」


「うん、止めておこうな。あの人たちも困っているみたいだし」


「そうだね。出発が他の人たちとは遅れちゃうけど、みんなは待っていてくれるよね?」


「当たり前だろう」


 奈々ななを置いて3人で行くなんて有り得ない。

 それに事情が事情だ。後から奈々ななだけを行かせる事も出来ないだろう。

 自動的に、俺達4人は少し遅れて迷宮入りする事になるだろうな。


「それでは次の方、お願いします」


 ようやく落ち着いたのだろう、俺の番がやって来た。

 フードの連中が奈々ななを何処かへ連れて行こうとするが、まあ普通に拒否している。

 やっぱり俺のスキルも気になるのだろう。興味津々と言った感じだ。分かる。


「頑張ってね」


「まあ頑張るとかなんだけどな。気楽に行けば問題無いさ」


「待っているからねー」


 先輩と龍平りゅうへい、それに奈々ななの声援を受けて、俺は神官風の女性の前に立った。

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