第8話 先輩も龍平もとても良いスキルだった

 瑞樹みずき先輩もやる事は一緒だった。

 詠唱が起こり光の膜が現れ…………。


「おめでとうございます。貴方のスキルは広域感知エリアサーチです。発現は稀で、いわゆるレアスキルです。必ずや、貴方や仲間たちの探索を助けるでしょう」


 そう言われると、両手で1メートルほどの杖を抱えて先輩が戻って来た。

 恥ずかしそうな小走りだけど、なんか顔がにやけている。レアスキルという響きが気に入ったのだろうか?


敬一けいいち君、奈々なな。私のスキル、広域感知エリアサーチだって。レアスキルだって」


 弾むようにそう報告する先輩を見て、やっぱりと思う。

 優等生と言う仮面に隠れているが、実は結構なゲーマーだ。


「それでどんなスキルなんです?」


「えっとね――」


 手にしていたあまり飾りっ気のない杖を掲げて目を閉じる。

 すると微かにポンっという音が聞こえたかと思うと、見えない何かが俺の中を通り過ぎたような感覚に襲われた。


「それでどうなるの?」


 奈々ななは興味津々だが――あれ?


「えへへ。今のはね、敬一けいいち君だけを対象にしたの。今の私の技量だと、100メートルくらいかな? 探知された人は分かるけど、そうじゃない人は分からないのよ」


「ああ、それで俺だけが気付いたんだ。ん? 今の技量?」


「うん、スキルを手に入れた時に色々と分かるの。理解したっていうのかな? 今まで忘れていた事を急に思い出した感じ。これも練習を繰り返すと、もっと広範囲にしたり、対象を複数にも出来るのよ。ただ問題は、知らないものは探しようが無い事かな」


「へえ、それは便利だ」


 迷宮は危険な場所だという。ゲームという名称を先人が付けたのだとしたら、俺らの知っているような怪物が居るかもしれない。

 そういった奴の場所を事前に知れたら、実に心強い。

 それに貨幣や宝石、あと確か鉱石なんかも探すとか言っていた。これも一度原石さえ見せてもらえば探し放題。埋もれていたって、掘れる距離にあるなら手に入れるのも容易だろう。かなりのチートスキルなんじゃないのか?


 そのあと3人の順番が終わった。2人はかなり喜んでいる様子だが、1人の落胆が激しい。

 役に立たないスキルだったら帰還……早くもその片鱗を見た気がする。

 自分がそうだったらと思うと不安で不快だが、だけど結局は向こうに戻ったら全部忘れるわけだ。

 なら、気にしてもしょうがないか。


「よっしゃ、いよいよ俺の番だ!」


 気合満点の龍平りゅうへいの声が響く。

 ここからはドキドキの見守りタイム。ただもう周りの声がうるさすぎて、当人同士の会話までは聞き取れない。

 出来ればいいスキルを引いてくれよ。最低限、即帰還なんてのじゃないやつを。


「いやっほぉーう!」


 右手を掲げてジャンプ。あれは相当良いスキルだったに違いない。

 あ、走ってこっちに来た。もう待ちきれない感じだ。


「俺は肉体強化だったぞ!」


「そのまま言葉通りに受け取っても良いのか?」


「多分そうじゃね? 腕力とか脚力とか、そういったのが強くなるんだ。極めると胃腸や血管なんかも強化できるみたいだぞ」


 一見すると後半は馬鹿っぽいが、考えようによっては食中毒や毒耐性とも取れるのか。

 こちらも戦いが避けられないと考えるなら、超有効なスキルだ。

 それこそ、パーティーに最低限1人は欲しい戦闘係。

 いや、それだけじゃないな。ゲームの世界ではあまり再現されないが、力が強いというのはそれだけでとてつもないアドバンテージになるんだ。


「じゃあ行ってくるね」


 そう言いながら小さくガッツポーズをすると、いよいよ奈々ななの番となった。

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