ミカの家で (2)

それから数日後、私はマミの死亡届を出した。彼女とのパートナーシップを結んでいたおかげで、相続の手続きまで滞りなく進められた。


仕事を手伝うだけなのに、わざわざ届けを出す必要があるだろうかと思っていたけれど、最初からこのつもりだったと思えば合点がいく。役所での手続きなんてマミにとっては些末なことのはずだから、人間の姿を捨てられない私への気配りというところか。


私は心のどこかで、マミが私を呼び出したのは、私の過去を責めるための壮大な復讐なのだと思っていた。しかし、マミはもうずっと私よりも先に行っていて、その姿を私に見てほしいと言ってくれた。だから、人間の時間軸や些末な過去の恨みなんてもうどうでもいいのだ。


でも、残された私は? 私は人間の時間軸で、過去をくよくよ気にしながら生きていくしかないのだろうか。もし、そうだとしたら。


「マミって、すごく変だわ。昔も、今も」


彼女を少し転がしてから、砂を振りかけて何度か撫でてみる。すぐには応えてくれないけれど、確かにマミはこの大きな棺の中で生きていた。


マミは完全な球体だなんて言っていたけど、できあがったボディは少しいびつだった。ボウリングのボールとして使う分には困らないだろうけど、少なくとも私には、彼女の上下がよく分かった。


「ねぇ、マミ。私のお墓に、なってくれる?」


……なんて、まだ気が早いかもね。


私とマミの時間が、また少しずつ離れていく。壮大な時間を過ごすマミの横でこのまま老いていく私を、彼女はどう思うだろうか。


それを考えるのは、もう少し後でも良さそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グラナイト @amane_katagiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ