ミカの家で (1)

それから、まったく予定通り、一週間後の午前中にマミが石の塊になって帰ってきた。配達員のおじさんが「重いですよ」と手渡すしっかりとしたダンボール箱は、一見すると大玉のスイカでも入っていそうな立方体で、そこに十キログラムほどのずっしりとした重量感が収まっていた。


私は今、マミの人生を胸に抱えているのだ。全身の力が抜けそうな妙な達成感と同時に、物言わぬ岩塊になった彼女に対する後悔の念がじわりと広がった。


そっと床に箱を置く。厳重に貼り付けられた迷路みたいなガムテープを順番に剥がしていくと、丁寧に閉じられたフラップが現れた。


箱を開けると、まず目に入ったのはクリアファイルに入った死亡診断書だ。


かつての肉体はもうどこにもなくて、もうこの死亡を証明する紙切れだけが彼女の存在を証明している。死亡診断書には当たり障りのない死因と、適当な死亡時刻が記入されていた。


マミは発泡スチロールのブロックで上下から固定されており、取り出すと完全な球体のスタイリッシュなフォルムが私を迎えた。


黒くてつるつるした見た目の表面は全体が感覚器になっていて、肌全体で広い範囲の電波や振動を感じとることができるらしい。触ってみると、表面はかたくてひんやりとしている。試しにノックするように叩いてみると、中の微細な空洞を振動が駆け巡って水琴窟のような音が響いた。この刺激がマミにとって快いものなのかは分からないけど、たまに聴きたくなる音だ。


箱の底には袋に入った細かい砂が敷き詰められていて、持ち上げると袋の中でさらさらと流れていくのが分かった。マニュアルに書いてあったマミの寝床だろう。たとえ球体の表面が傷ついても、この砂の上に置いておけば治癒するらしい。


「あら、これって……」


と、砂袋のもう一段下に、簡素なビニールで包装された布が入っていた。


「――っ!」


それがマミが最期に着ていた服だと気付いた時には、マミの肌にぽつぽつと大粒の涙が降り注いでいた。


空っぽのワンピースは、彼女がもう人間の時間軸にいないことを物語っている。私と彼女の間には、もう埋めようもない隔絶が広がっていた。

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