第3話

「…二人が?ちなみに何回目なんですか?」


「十回だ。さきほどのお前の願いでやっと成立したのだ」


「え?だって、私と彼女は、ここにお参りしたのは…確か、九回で、十回目に、そうもうすぐ初詣も十周年だねなんて言ってたんですよ?だから、彼女は足りてない」


 不可思議な少女との不可思議な問答、私は自分でおかしなことを言っている。


「彼女は二十七年前の大晦日に一人でやってきた。となりにいる人とずっと一緒にいたいと、泣きながら祈っていた」


 少女は彼女にそっくりな顔で、彼女がその時に浮かべていた表情をしていた。そんな気がしていた。

 ばかだな。体調が悪いのになんで出歩いたりしたんだ。


「病院に行く前に、家族に付き添われての参拝だ。責めるな」


「…それで、十回の願いが達成して、該当者ですか?彼女はもういませんが、私はこれからも彼女を忘れずにいられるということですか?」


 そんな条件に該当したから、今更なんだというのか。


「ああ、言い忘れていた。そもそもポイントが溜まったので特典を授けようという話だ」


「ポイント…特典?」


「よくあるだろ、ティッシュや割引とか。で、お前に渡すのはこれだ」


 紙を渡される。

 表記されている文字は”待ち人 また会える”とある。裏には朱色の「済」の文字が十個。


「…おみくじですか…」


「ふふふ。効果のほどは後で分かるだろう。といっても、ここでの記憶も忘れてしまうがな」


 おみくじから目を上げると、そこには誰もいない。

 

 私は、なんでおみくじなんて持っているのか。

 ”待ち人 また会える”それだけが書かれた紙片だったが、社務所の横に多くのおみくじを実らせた神木に結びつけることはせず、大切に折り畳み、ポケットに仕舞った。

 やはりお参りすると何かしらすっきりする。

 これから、年老いた両親に、自分自身が受けた余命宣告の話をしなくてはならないが、自分の抱える不安は少なくなっていた。

 親不孝には違いないが、せめて生まれ変わったらまた両親の子供に生まれたいものだ。


●●●●


「ねえ、何をお祈りしたの?」彼女はそう言って探るような笑顔で問いかけてくる。


「…毎年、変わらないお願いだよ。そっちこそ」


「私も変わらないなぁ。これからも、飽きずにいてね!」


「こちらこそ、愛想を尽かされないよう気をつけるよ」


「ね、私たち、いつまで一緒にいられるかな?」


「さあな、どっちかが死ぬまでじゃないか?」


「死が二人を分かつまでってやつね。なら良し。あ、お守り買おうか」


 僕が買って来るよ。と、お守りを売る社務所に向かい、さてどんなお守りを買おうかと思案する。


「はい。通算二十回分のポイントおめでとう。今回はこれね」


 年若い巫女さんに白い袋を渡される。


「ああ、ありがとう」僕はそう言いながら当たり前のように受取り、彼女の元に戻る。


「何を買ったの?」彼女の問いに袋を開ける。


「…安産祈願……だ」


「え~なんで知ってるの?びっくりさせようと黙ってたのに!」


「は?せめて夫である僕には言えよ」


「でも、なんで知ってるの?昨日だよ、お医者さんに言われたの」


「え~と、神様のご神託かな?きっと、いい子が産まれるよ」


「何それ。変なの」彼女はそう言って笑う。


 お守りを仕舞い掛けて、ふと、お守りの口元の紐がほどけて、中に紙が見えた。


「こら、罰当たり」彼女に窘められるが、取り出した紙には”待ち人 いない”の文字と、朱色で押された二十の済み印。


「なんだこれ?」僕は紙片を手に持つが、不思議と嫌な感じはしない。


「これはあれだね」彼女は続けて


「神様のポイントカード」と言って笑った。


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神様のポイントカード K-enterprise @wanmoo

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