第3話 女神様。
「急にこのような事…ご迷惑ではなかったでしょうか…」
キラキラとした銀髪が儚げに映る。皇子がためらいがちに聞いてくる。私もそうだがダンスをしていても余裕はあるようだ。腰に手を添えられ、体が密着する。綺麗な顔に似合わず、意外とがっしりした体つきが良く分かった。
「いいえ、今回の英雄に声をかけられて光栄ですわ。」
私は皇子を見上げながら答えた。ぱちりとあった目は逸らせずにお互いを見つめる形になる。その時、初めて周りがざわついているのに気が付いた。視線が刺さる。お姉さまは扇子で口元を隠しながらも睨んでいる。周りの御令嬢方も何かひそひそ言っている。
私がそちらに意識を引かれていると、皇子の向きが変わる。お姉さまたちの視線を遮って私たちの間に入った。驚いてまた顔を見上げるとふっ、と緩んだ表情が私に向けられていた。そしてそのまま口を開いた。
「私は英雄などではありません。本当の英雄は月夜の女神様でしょう。」
彼は私から目線を逸らして玉座に座る王を見た。私もつられてそちらを見た。すると彼はいつのまにか私の方を見ていて、私を見て笑った。
「ところで御令嬢、どこかでお会いしませんでしたか?」
先程までの柔らかな笑みとはどこか違い、私は少し怖くなる。
これ…バレたりしてないよね…。
本能的に後ずさりそうになる私は踏みとどまったが、微妙な体制になってしまいそのまま後ろに倒れ…そうになった。
ふわっと体が軽くなったと思えばいつのまにか私は皇子より上にいた。彼は倒れそうになった私の腰をを支えそのまま持ち上げ、くるりと回った。周りがわっと沸き立つ。彼はそっと私を降ろしにこりと微笑んだ。
「申し訳ありません。皇子、」
「シルヴェスターで良いですよ、オルコット嬢は何と呼べば良いですか?」
?? 私なんかに名前呼びを許可していいの?
「えぇっと…アーリアで良いですよ…?あの、お声がけしていただいたことはありがたいのですが、私で良いのですか?」
「それはどういう意味ですか?」
皇子のニコニコした視線が圧と化して私に詰め寄る。気づけば曲は二曲目になっている。私はたじたじになって答える。
「えっと…、私は少し腫れ物扱いされていて…あまり…」
私が口ごもりながら気まずげに喋るとそれを遮ってシルヴェスター様が口を開いた。
「私もです。」
「…それは、私も同じ腫物だからお誘い頂けたということなのでしょうか。」
それだから何なのか、と言われたら特にこれと言った感情はないが向こうには背徳感があったのだろうかと少し図ってみたくなった。私はじっと彼を見つめる。
「いえ、貴方をお誘いしたのはただ、共に踊りたかっただけです。」
優しい視線が私に降り注いだ。それは曇りなき眼で、私はどこかでこの眼を見たことがあった。深いブルーの眼は宝石のようで澄み渡った空のようで、ただ見つめただけでは答えは出なかった。
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