少女は振り返らない

「ひでー有り様だな。なにがあったんだ?」


 ぼろぼろになった店内を見回して、メリルが呆れた声を出す。


「憶えてないの?」


「自分の髪を刈ったところまでは記憶があるんだけどよ。それ以降は全然」


 あっけらかんと言い放つ少女に、直子なおこは丸くなった頭を抱えた。


「ホント恐かったんだから。最後にはあんたも気を失うし」


「まあいいじゃねえか、なんとかなったんだから」


「それはそうだけど……」


「んな顔すんなって、アタシらが破壊しちまった物とか場所は、あとから魔除まじょが違和感ねぇカタチで修復するからよ」


 軽い調子でいいながら、メリルは倒れているヒカルをひょいと担ぎ上げる。


「その子、どうなるの?」


「とりあえず連れ帰って魔除に引き渡す。そのあとどうなるかは、アタシにもわからねぇ」


 疲弊した顔で訊ねる重美えみに、メリルはそう答えてから言葉を続ける。


「お前らには世話かけたな。でもおかげで助かったぜ」


「いーってことよぉ! 私もキライだった自分の髪が役に立たったみたいで嬉しかったし! ね? 直ちゃん」


 快活な魔崩少女に感化されたのか元気に応える重美の隣で、直子はおもむろに頷いてから、


「髪といえば、あんたの髪もすぐに生えてくるの?」


 すでに変身は解け、特徴のない容姿のなかで片方だけ刈り上げた髪型が際立っているメリルを指差した。


「あー、なんたって初めてのことだからわからねぇけどよ。もしかしたらずっとこのままかもな。まあ、これはこれでカッコいいだろ?」


「あんたが良いなら良いんだけどね」


 微笑みながら直子が言ったとき、


「ぶはっ、直ちゃん! なにその頭!」


「え? ――えぇえええ⁉」


 急に重たくなった自身の頭部に手をやり、直子が声を張り上げる。


 そこには、立派なアフロヘアが出来上がっていた。


「ちょっと! なんで重美はあんなかんじで、私はアフロなのよ!」


「アハハハ! いいじゃねえか、ファンキーで!」


「これじゃ帽子なんかでも隠せないでしょ! ちょっと、もう一回刈ってよ! やり直し!」


 笑いながらこちらに背を向けるメリルに、直子は食い下がる。

 しかし、少女はもう振り返らない。


 口元で呪文めいた文言をつぶやいた瞬間、その姿が徐々に透き通っていく。


「ま、しばらくは新しい髪型を満喫しな! じゃあな!」


「こらー! 戻ってきなさい!」


 両手を振り上げて叫ぶ直子の声は、跡形もなく消えてしまった少女にはもう届いていなかった。

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魔崩少女マジ刈ル☆メリル! 猫蚤 @cat-flea

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