最終話 ありがとう

「タダオミおじいちゃん、私に勇気をください」


 仏壇の前で私は手を合わせた。

 遺影のおじいちゃんはいつもニコニコ笑ってる。

 おじいちゃん子だった私は、いつもおじいちゃんに沢山のゲームを教えてもらった。


「ガイアよ。ゲームは素晴らしい。わしに沢山の勇気と希望を与えてくれた」

「へぇ」

「ゲームという異世界で勇者になったわしは沢山のモンスターを倒した。いつしか、わしは現実の世界でも勇者として振る舞おうと決めた」

「どうして?」

「現実の世界は辛いことが多い。自分を勇者だと思って奮い立たせないと目の前の困難と闘うことさえ出来ない」


 縁側で私を膝の上にのせ、タダオミおじいちゃんはいつもそんな話をしてくれた。

 現実と戦うために勇者になり切る。

 そのためにゲームの知識や体験が必要なんだ。

 私はそう思った。


「よしっ!」


 私は気合を入れるため、頬をパチンと叩いた。

 私も勇者になる。

 勇者になって、一番大好きな人に告白するんだ。



 学校へと続く道は、いつも通り平和だ。

 とても日本がB国と戦争しているとは思えない。

 昔、A国と戦争していたというが、タダオミおじいちゃんが言うには日常生活は至って平和だったそうだ。


「だけど、わしは戦争に参加していた」


 おじいちゃんは冗談ぽくそう言っていた。

 私はその先は訊かない様にしていた。

 知らなくてもいいことは世の中に沢山ある。


「おはよう」


 リンネだ。

 声を掛けられて振り返る。

 私より背が小さくて、長い黒髪が特徴的。

 セーラー服に包まれたまだ凹凸のない少年の様な身体。

 小さな白い顔はビスクドールの様だ。


「リンネさん。おはようございます」

「ガイア、同い年なんだから敬語やめろよ」

「誰にでも敬意を払って敬語で話す。これは私の美学です」

「勝手にしろ」


 リンネがそっぽを向く。


「あ、そうだ。今日、七夕でしたね。織姫と彦星が年に一度出会う日。素敵です」

 

 私はその日、あの人に告白する。

 体育館裏に呼び出すメッセージはもう昨日の夜、発信した。


「お前、頭の中スポンジケーキで出来てんのか?」

「まぁ、女子ならそういうのときめくでしょ?」

「……決めつけんな」


 リンネの顔がちょっと赤かったのが気になった。



 放課後、体育館裏へ急ぐ。

 いた。

 ユウタさん。

 詰襟の学生服の第一ボタンまできっちりとめる律義さ、真面目さ。

 大好き。

 ドキドキしながら一歩一歩彼に近づく。


「ユウタ」

「あっ、リンネ」


 何!?

 リンネもユウタさんを呼び出してた!?

 そっ……そんな、彼女も彼のことを!?


「ユウタ。私、ずっと前からお前の事知ってたような気がするんだ」


 それは、私のセリフですっ!


「うん。僕も。初めて君を見た時からずっと……」


 リンネのいつも冷静な顔が真っ赤だ。


「ユウタ。私と……」

「ダメーっ!」


 気が付くと私はユウタとリンネの間で、両手を広げ立っていた。


「ガイアさん……」

「ユウタさんは……私の……私のっ……」


 言っちゃえ!

 私!


「あっ! そろそろ家に帰らなきゃ」


 ずこっ!

 こける私。


「今はやりのゲーム『魔道クエスト』。やらなきゃ! ヒロインのエルフがメチャクチャ可愛いんだよね!」


 ユウタは私達の前から走り去って行った。

 私とリンネは頷き合った。

 ユウタを挟み撃ちにして捕らえる!


おわり

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ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。 うんこ @yonechanish

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