第8話 独白
これは誰が読むでもない。ただの記録である。
僕は視力と上半身以外全ての感覚を失った。
歩けない。耳も聞こえない。声も出ない。味も感じない。だから、ベッドの上でこうやって物を書いている。
最近、毎日夢を見るんだ。
僕の家族の夢だ。
妹の夢だ。
愛花の夢だ。
もう何年会っていないだろうか。愛花はきっと物心がつくかつかないかの頃だったろう。所謂、生き別れってやつで僕らは会うことができなくなった。理由は――いや、それはもうさほど重要なことじゃない。――運の悪い事件だった。
夢の中の愛花は成長していて、多分中学生くらいだった。
沢山話しをした。夢の中では、僕は何でもできた。歩くことも、会話をすることも、何でも。
そんな世界だったから、僕は楽しかった。幸せだった。だけど、愛花はそうじゃないようだった。あの子は、もうすぐ死ぬらしい。
だから、僕は僕の命をあの子に託すことにした。無論、夢の中の話だから、それであの子が救われるとは思わない。というか、あの子の余命が幾ばくも無いということ自体、ただの僕の妄想かも……。
あの子が、愛花が生きたいと望むのならば、僕は次、愛花に会うときに、そうしよう。僕よりあの子の方が生きるべきだ。
愛花が元気に生きているのなら、僕はそれでいい。
愛花よ、どうか生きて。
以上の記録が、栢山
霧雨の降る街で 水村ヨクト @zzz_0522
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