あるカクヨム作者の脱稿夜会

陽雨

第1夜 私についてご紹介

 皆様ごきげんよう。

 わたくし陽雨ひさめと申す者。

 今宵はビールを片手に失礼。


 今日飲んでいるのは、「アサヒスーパーマグナムドライ」の350ml缶だ。

 というのも、喉に何かしら強い刺激が欲しく、


「じゃあ辛口のアサヒがいいじゃない」


 と近くのセブンイレブンでカゴに詰めてきた次第。


 肴にはチー鱈を買ってきた。セブンイレブンにはセブンイレブンブランドの「なめらか触感のチーズ鱈」がある。やっぱりこういった炭酸系のお酒には、濃厚な味のチーズが合う。


 例えばビールを先に口に流す。喉にぐっと衝撃が来る。「クー!」と喉を振るわせたくなる気持ちを抑えて、チーズ鱈を口に放り込む。さっぱりとした口の中に、マスカルポーネの甘さがふわりと広がり、そのミルクのコクに口の中全体が甘ったるいような気持ちがするのだ。


 逆もよい。


 口の中にチーズ鱈を放り込むと、チーズの濃い味がぶわっと膨らむ。

 しかしよくよく舌触りを確かめると、そこにはすり身になった鱈が間違いなくおわしめすのだ。その味は、じっくりと確かめてようやく気づく憎い演出。そこまで味わい尽くすと、チーズ鱈の風味が喉から鼻にかけて一気に通り抜けている。

 そこで勢いよくビールを流し込むのだ。このとき喉に来る刺激を受けて、私は初めて「クー!」と喉を震わせる。


 一つで二度おいしい。

 だからこそ炭酸系のお酒とチータラは不動の組み合わせの一つと自負する。


 

 さて、何で酒を飲んでいるのかというと、酒がないと緊張してうまく話ができないからだ。

 この夜会では、どちらかというと私の飾らない独白でありたい。

 新しい小説を書くたびに、色々なことを考えながらその一部を紡ぎ、文字に起こす。

 しかし、救い取れなかった思いや言葉はあまりにも多い。


 だからこそ、脱稿をするたびにそれらの言葉を文字に残し、思いをざっくばらんに伝えられる場所が私には必要だった。


 だからこそこの「あるカクヨム作者の脱稿夜会」を書きたいと思ったのだ。


 しかしそういった思いの丈をここに残す前に、私のことをきちんと伝えねばならぬ。

 

 まずは私の名前だ。太陽の陽に、雨と書いて、「ひさめ」。陽雨ひさめ、それが私の名前だ。


 何故、陽雨という言葉を使っているかと言えば、もともとこれは私がネット上で「レインズ」という名前で活動を行っていたことに端を発する。


 もともと私は雨、という天気が好きではない。


 だって面倒臭いじゃないか。

 雨は濡れる。外出する気を失せさせる。外がどんよりと暗くなる。


 だがその一方で、雨が無ければ作物も育たない、飲み水も手に入れられない。

 

 そんな二面性がなぜだかとても親しみやすくて、そして雨というものが生み出す副産物も好きだった。


 思い出すのは私の幼少期。

 当時の私はアパートに住んでいて、夕方バスで家に帰ってくると、傘を差してアパートのホールへと入る。

 コンクリート造りの6階建てのアパートは寒々しくて、その当時6階に住んでいた私は、階段を上るにつれて、外の景色がだんだんと高くなり、雨霞あまがすみで白く化粧をした街を見下ろしながら家に入った。


 家の中は3LDK程度の広さで、その中で私の母が家族の洗濯物を部屋中にひもを張り、部屋干しをしている。

 その部屋はむわっと熱気があり、しかし蛍光灯で照らされて明るい部屋は、なぜだかとても温かみを感じる、そんな幼少期の思い出。


 言われてみれば雨音も私は好きだった。


 「Rainy Mood」というサイトがある。

 そこはひたすら雨音を流し続けるという、不思議なサイトだが、しかし私にとってはとてもウマが合うサイトだった。

 耳元に流れる雨の環境音。時々響く雷の音。なるほど私という人間は、この環境音で集中ができる人間らしい。


 学生時代はその音をイヤホンで聞きながら、勉学に励んだものだ。


 だからだろう。ネットで活動を始めようとしたとき、真っ先に「レインズ」という言葉が思い浮かんだ。


 その活動の中で、私は「狐の嫁入り」という天気のコントラストに惚れ、その活動名を「太陽が差し、雨が降る」というイメージができるような、「陽雨」にすることにしたのだ。


 さて、酒もチーズ鱈ももうなくなってしまった。


 今日の夜会はこの辺でお開きとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る