ネナベの私とネカマの君が現実世界で会ってしまっているのは間違っている。

もる

第1話

ネトゲの中のチャットの文章は『』で表現しています。


ミアがログインしました。


『やっと来たか、遅かったな』


『妹を迎えに行っていたのでちょっと遅くなりました。サロさんはいつも早いですね』


『妹の迎えなんて偉いな。それに比べて俺は放課後にやることがないから早くログインしちまった。まあそんなことよりクエスト行こうぜ』


『はい、いきましょうか』


この人はネトゲ友達のミアさん。いつも優しくて清楚な女性でもう3年近く一緒にネトゲをしている。ネトゲは私が言うのもおかしいがネカマばかりだ。でもこの人は間違いなく女の人だと思う。


リアルで会って友達になりたいんだけど1つ問題がある。

それは私がサロという男キャラでネトゲをやっているということだ。チャットの口調も完全に男だし、向こうは絶対男だと思っているだろう。


だから中々会おうと言えずに三年経ってしまった。

こんなことだったら女キャラでやれば良かったかな。


『そういえばミア、あの限定コスゲットした?』


今回の限定コスはスーパーの牛肉を500g以上買うと1枚貰えるもので2枚集めなければ上下揃わないのでかなり難易度が高い。

今年が丑年だから牛肉なのはわかるけどそれなら牛丼とかにしてほしかった。


『牛肉についているモーコスですよね。私はもうゲットしましたよ。ほらー』


彼女のアバターは回転しながら牛柄の装備に着替えた。

こういう演出をするところも可愛いな。


『すごっ、あれ牛肉1kg以上買わないと集まらないよな』


課金額で考えればそこまで高くはないが生肉をそんなに買っても使えないので諦めてしまった。


『私が朝の料理と弁当を作っているので意外と簡単に集まりましたよ。余っても冷凍すればいいだけなので』


性格も良いし料理もできるなんて私の嫁最強過ぎない?


それに比べて、うわ…私の女子力、低すぎ…?


結局それからずっとミアさんと一緒にクエストをして気づけば夜中になっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昨日は夜遅くまでネトゲをやっていて完全に寝不足で、午前の授業は少し寝てしまった。 目を覚ますといつの間にか昼休みになっていて隣の席の佐竹が一人で弁当を食べていた。


「一人で食べてるの珍しいね」


「ああ、佐藤が課題提出してなさすぎて先生に呼び出しくらっててな」


「たしかにいつも佐藤と食べてたもんね。それよりもその弁当美味しそうだね」


「そうか?食べ飽きてるからあんまり美味しく見えないんだよな」


「そんなこと言ったらお母さん泣くよ」


「俺が毎日作ってるから泣かないよ」


これを男の子が作っているのか。

昨日は女子に負けたけど男の子にも女子力で負けているのは悲しすぎる。


「料理できるなんてすごいね」


「ありがとう、でもやらないといけなかったからできるようになっただけだよ」


なんか触れちゃいけないところを触れてしまった気がする。


「ごめん、素直に褒めたつもりだったんだけど」


「こっちこそごめん、一個食べる?」


「いいの?じゃあこれ貰っても良い?」


「いいよ、これは特に飽きていたから」


「美味しい!これなんて料理?」


「牛のしぐれ煮かな。妹の好物だから作りすぎて」


「佐竹って妹いたんだ。私一人っ子だから羨ましい」


「桂木は一人っ子なんだ。しっかりしてそうだから下にいると思ってた。」


「そ、そうかな」


ごめんなさい、全然しっかりしてないです。

多分家事の能力は佐竹にコールド負けしてると思う。


「あっ佐竹、このしぐれ煮のレシピ教えてくれない?ちょっと牛肉の料理作りたくて」


「別にいいよ。ちょっと待って」


佐竹は慣れた手付きで、材料と作り方を書いてくれた。


「小さじ、大さじって何g?」


「ホントに料理しないんだな」


「うっ」


「もっと簡単な料理のほうがいいんじゃないか?卵焼きとか」


「牛肉じゃないと意味ないの」


「あ、もしかして…いやなんでもない。とりあえずグラム表記も書いておいたからこれでわかると思う」


「ありがとう、作ってみるね」



とりあえず500gだけ買って試しに作ってみたけど、昼に食べた佐竹のしぐれ煮とは雲泥の差があるできになってしまった。


作るのに1時間くらいかかったのに…自分の女子力が憎い。こんなことなら肉だけ買ってお母さんに作って貰えば良かったかな。


料理していたのもあって、いつもよりログインするのがかなり遅れてしまった。


『こんばんは、今日は遅かったですね』


『おう、ちょっと料理に挑戦してて遅くなった』


『もしかして、牛肉料理ですか?』


『ああ、やっぱりあの限定装備欲しくてな。まあ全然上手くできなかったんだけどな』


『何を作ったんですか?』


『しぐれ煮。今日友達にレシピ教えて貰ったから試しに挑戦してみたんだ』


あれ?いつも爆速タイピングなのに急に返信が無くなった。トイレでも行ってるのかな。


『そのしぐれ煮のレシピ教えてくれませんか?』



佐竹から貰ったレシピをそのまま送ったら再び返信が止まってしまった。


『ごめんなさい、今日はちょっと体調が悪いから落ちますね。また明日。』


いつも深夜までやってるに珍しいな。まあ私も昨日は遅くまでやっていたし今日は早めに寝ようかな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おはよう、佐竹」

「おう、おはよう。今日の放課後ちょっと時間もらっていいか』

「なんか用?今言えばいいじゃん」

「いや、ここでは言いたくないから」


まさか告白?

たしかに隣の席で良く話すし、気も合うけどどうしよう。今まで告白されたことは何回かあるがみんなチャラくて気持ちがこもって無かったから断っていた。佐竹は真面目だし、告白されたら受けるかもしれない。

でも男の人と付き合うとネトゲをやる時間減っちゃうしどうしようかな。


放課後、緊張しながら屋上に向かうと佐竹がすでにいた。


「お待たせ」

「いや、俺も今来たから大丈夫。これ、やる」


もしかしてこれラブレター?目の前にいるんだし直接言ってほしかったんだけど。

紙を開くと牛丼のレシピが書かれていた。


「何これ?」

「牛丼のレシピ。しぐれ煮が上手くいかなかったみたいだからもっと簡単な牛肉レシピのほうがいいかなって」

「え、何で失敗したって知ってるの?」


「まだ気づかないのか。初めましてサロさん、ミアです。」


???


「何言ってるの?ミアさんは女の子じゃ」


「ずっと隠していてすまん。仲良くなっていくうちに中々言い出せなくて」


「佐竹はなんで私がサロって気づいたの?」


「しぐれ煮ってあんまり出てこないし、あのレシピは俺特製のだからすぐに気づいたよ」


「なるほど、じゃあ佐竹もサロが男じゃなくて女だってことは昨日まで知らなかったってことね」


「いや、それは2年くらい前に知ってた」


「なんで!?」


「うーん、なんとなく女の子っぽいなって思ったのもあるけど、語尾が『~だぜ』の男はあまりいないかな。それに男はダイエットの話しとかにはあんまり興味ない人が多いと思う。あとは~」


「もうわかった。勘弁して。」


「おう、とりあえず、今まで女のふりをしていてすまんかった」


「まあ、私も男のふりしてやっていたからお互い様ってことにしよ」


「ああ、そういってくれると助かる」


「でも、気づいたとはいえ、なんで私に言おうとしたの?」


「ばらしたほうが料理の相談とか聞けると思ったからかな。なかなかチャットだと説明しづらいしな」


「たしかに、それはそうかも。でも女で料理できないって引いたりしない?特に佐竹はかなり料理が上手いみたいだし」


「別に。料理なんてやれば誰でも上手くなるしな」


「そっか、ありがとう。じゃあ牛丼作ってみるね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


家に帰って佐竹のレシピ通り牛丼を作ってみたがやっぱり上手くいかなった。

取り敢えず佐竹に報告しよう。

でも、学校の口調とサロの今までの文章のどっちで打てばいいんだろう。

取り敢えずサロで打って突っ込まれたら私の口調にしようかな。


『ミア、俺は料理のセンスがない』


『牛丼もダメでしたか…』


やっぱり佐竹も今まで通りで合わせてくれた。ネトゲだとやはりこっちのほうが安心する。


『一応昨日のもあわせてモーコスはゲットできたから取り敢えず良かったんだがな』


『せっかくならこれを機に料理上手くなりませんか?』


『たしかに、俺も上手くはなりたいが…』


『じゃあ明日の放課後、練習しませんか?』


『おう。いいけど』


ノリで了承してしまったが、もしかしてこれデート?二人っきりで料理を作るなんてかなり緊張するんだけど。


そわそわしていたら、ほとんど寝れずにあっという間に次の日になってしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「今日の放課後大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


「どこで料理するの」


「そんなの、俺んちだけど?」


それは、そうだよね。勝手に学校の家庭科室を借りる訳にはいかないし、

男の子の家初めて行くけど大丈夫かな?


「うち行く前に妹を迎えに行っていいか?」


「うん、いいよ」


佐竹と二人で幼稚園に妹を迎えに行くことになった。よく分からないけどなぜか緊張してしまう。


「あーお兄ちゃんが彼女連れてる」

「彼女じゃないって」


「初めまして、桂木美羽っていうの。よろしくね」


「じゃあ、みうみうだね。私は佐竹ゆず」


「ぶっ。みうみうって」


「佐竹、笑うな」


「みうみう駄目だった?可愛いのに…」


ゆずちゃんは涙目になってしまった。ぐっ今のは佐竹が悪いのに。


「いや、ゆずちゃんに怒ったんじゃないよ。もちろんみうみうでいいよ」


「うん、みうみう」


ゆずちゃんの頭をなでなでしていると佐竹が驚いたような顔でこちらをみていた。


「一人っ子っていってたし子供苦手なのかと思ってたわ」


「失礼ね。私は子供大好きよ。それよりも佐竹が毎日妹の迎えにいったり料理が上手いことのほうが驚いたわ」


「うち、3年前に親父が死んでから母子家庭でな。母さんは時間が不規則で夜勤もあるから俺と姉貴で家事を分担してるんだ。」


なるほど、だから料理ができるのか。なんで私は毎回デリカシーがないんだろう。


「ごめん、私ってホントにデリカシーなくて」


「その、デリカシーの無さが桂木の良いところだと思うけどな。」


「それは、流石に失礼じゃない?」


「褒めたつもりだったんだけどな」


佐竹は少し笑って歩きだした。


「お邪魔します。」


「おう、まあ誰もいないけどな。早速だけど始めるか」


「うん」


「えーみうみうと遊びたい~」


「ご飯作ってから遊ぼっか」


「えー今がいい」


「しょうがないな。じゃあ俺は先に米とかサラダとか作ってるからそれまで遊んでてもらっていいか?」


「うん、じゃあおままごとしよっか」


「うん!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「夏樹、女の子連れ込んで何やってんの」


「少なくとも姉貴が思ってるようなことはしてない」


あれ?私何をやっていたんだっけ?

寝てたみたいだけど見たことない天井だ。

そうだ。ままごとをやっていたらゆずちゃんが寝てしまったから膝枕していたんだけど私もついつい寝てしまったのか。


でも布団の上に寝ているし佐竹が運んでくれたのかな。ちょっと恥ずかしいんだけど。

やっと頭がはっきりしてきたが、目の前に佐竹に少し似ている美人のお姉さんがいた。


「初めまして、夏樹の姉の杏子よ」


「お邪魔してます。佐竹君と同じクラスの桂木美羽です」


「美羽ちゃんね、あなたはここで何してるの?まさか夏樹に襲われてたり」


「いいえ、実は料理を教わりに来たんですけどゆずちゃんと遊んでたら寝てしまって」


「あーなるほど。だから今日は私と夕御飯の準備を交代したって訳ね」


「ああ」


「じゃあ私が教えてあげる。夏樹よりも私のほうが上手いし」


「いや、もう全部作ったんだが」


「なんでよ、アホなんじゃないの」


「気持ち良く寝てたから今日はもう無理かなって」


「じゃあ、ご飯はまた今度ね。夏樹ケーキでも買ってきてよ。あんた全然もてなしてないんでしょ?」


「お姉さん、そんなに気を使わなくても」


「いいのよ、夏樹いいから行ってこい」


「わかったよ。じゃあ行ってくる。

桂木、すまんけどちょっと姉ちゃんの相手してやってくれ」


「わ、わかった」


「さて、邪魔者もいなくなったし、色々聞こうかな」


「美羽ちゃんはいつからあいつと付き合ってるの?」


「すみません、付き合ってないです」


「え、そうなの?付き合ってない男の家で寝るのは流石に不用心じゃない?」


「そ、その通りです。でも佐竹君の前だとなぜか安心してしまって」


「あーあいつ、人畜無害って感じだもんね。それに料理だけじゃなくて家事全般できるし男ってより母って感じだもんね。あいつに母子家庭だってことは聞いた?」


「はい、さっき聞きました」


「そう、あんまり言いたがらないのにやっぱりあなたには心を開いているのね。母さんは仕事で家にいないことが多いからあいつと私で家事を分担しているのよ。だから料理以外もだいたいできるのよ」


「なるほど、結構ネトゲやっているはずなのに家事もちゃんとやっていて佐竹君はすごいですよね」


「あら、ネトゲやってるのも知ってるんだ」


「はい、実は…」


それから私は三年前からネトゲの友達だったことをお姉さんに伝えた。


「なるほどね…だからあなたには心を開いてるのね。美羽ちゃんありがとう」


お礼を言われたと思ったらお姉さんに急に抱きつかれたた。


「どうしたんですか?なぜお礼を?」


「詳しくはあいつの口から聞きなさい。でもあなたのおかげて夏樹はすごく元気になったってことだけ言っておくわ」


え、なんのことだろう?

全然心当たりがないんだけど。


「ただいまって姉さん何やってんの?」


「何でもないわ。じゃれてただけよ」


「じゃれてたって…余計なこと言ってないよな?」


「さあね」


「はあ。桂木、姉さんになんか言われたかも知れないけど気にすんな」


「嫌だ気になる。」


「え、何が気になるんだ?」


「三年前からネトゲの友達だってお姉さんに言ったらありがとうって言われたの」


「はぁ、姉さん。余計なこと言ってんじゃねーよ」


「私とゆずは外すから説明してあげなさい」


お姉さんは寝ているゆずちゃんを優しく抱き上げて奥の部屋に連れていった。


佐竹は頭を書きながら気まずそうに話し始めた。


「あんまり言うつもりは無かったんだけどな。実は俺が桂木とネトゲのフレンドになった時って父さんが死んだばかりで結構荒れててな。

そのころはゆずもまだ小さかったし、ほとんどやったことのない家事もやらないといけなくて大変でもう疲れきってたんだ。だからそんな生活から逃げたくて実際の俺と全然違う女の子のキャラで、ネトゲをやっていたんだ」


なるほど、たしかに出会った頃のミアはどこか暗かったイメージがあった。


「でも、サロさんと会って強引にクエストに付き合わされたりしてたらどんどん元気が出て来て、そのおかげで父さんが死んだことも、料理やゆずの世話も受け入れることができた。だからサロさん、いや桂木には本当に感謝してる」


「私は何もしてないよ。佐竹が頑張っただけ」


「ああ、ありがとな」


「もしかして、そのお礼で正体をばらしてまで、料理を教えてくれようとしたの」


「まあな」


「照れてて、可愛い。やっぱり言われてみればミアだね」


「うるさい」


「いちゃついてるとこ悪いんだけど、もう遅いしそろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」


「いちゃついてねーよ」「いちゃついてないです」


「ほら、息ぴったりじゃない」


「うるさい」「そんな事ないです」


完璧な女性という私の中のミアさん像は崩れてしまったが佐竹の意外な一面を見れたしネナベの私とネカマの君が現実世界で会ってしまっているのは間違っていないかもしれない。

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ネナベの私とネカマの君が現実世界で会ってしまっているのは間違っている。 もる @morurutto

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