スキルの無い俺が追放された帝国が滅びそうな件について

@asashinjam

追放

「スキルは無し、 か、 では追放」

「えぇ!?」


帝国では15歳になるとスキルの有無を調べられ

スキルを持って居なければ他国に追放される事になる。


「待ってくれよ!! 追放って・・・家には怪我した親父も居るんだぜ!?」

「お前の様なスキル無しの息子を持った事は父親も恥だと思うだろう

さっさと馬車に乗ってろ」

「待ってくれよぉ・・・」


引き摺られる男は一人で馬車の中に放り出される。


「くそう・・・」

「可哀想に、 まぁ気にする事は無いさ」


馬車の御者が男に声をかける。


「何でだよ」

「王国は王国で良い国だよー

スキルの無い奴でも楽しく暮らせるさー」

「そんな事言ってもよぉ・・・くそぅ・・・」


男は馬車の外に見える皇帝の城を睨みつけた。


「スキルが無い奴は人間じゃないのかよぉ!!」

「まぁ腹立つ気持ちも分かるけどさぁ・・・」


御者は宥めた。





一方その頃、 皇帝の城では皇帝が一人のアナキストからの調査報告を聞いていた。


「皇帝陛下、 我が国のこれからについての調査報告を纏め上げて来ました」

「うむ、 我が国は可笑しくなっている、 この原因を取り除き

何とかして他国よりも一歩先んじたい」

「可笑しくなっている、 ですか?」

「あぁ、 我が国はスキルを重視する政策を取っている

その為、 我が国のスキル所持者は国民の7割を超える

スキル持ち同士の婚姻で複数のスキルや上位スキルを持っている者も多い

他国と比べてスキルを持っている国民の割合は多い

更にスキルを持たない者は他国に引き取って貰っている

タダでも良いのに他国は金迄払ってくれている

国民の質は上がる一方だ、 しかしだ」


皇帝が言葉を区切る。


「我が国は他国と比べて強国か? と言われると首を傾げる

財政も金を貰っている分は潤っているが、 他国と比べても特筆凄い訳ではない

国民の質が高い筈なのに、 何故? スパイが居るかと思ったがそれも違う様だ

我がスキル優遇政策が間違っている訳は無いとは思うのだが如何だろうか?」

「結論から言いますとスキル優遇政策は誤りだったと言わざるを得ません」


皇帝は驚いた。


「な、 何故だ!? 有能な者を増やすスキル優遇政策が間違っていると!?」

「はい、 幾つか重要な点が有りますのでお応えします

まずはスキルを持っている事で才能が有る者が多く生まれるのは良いんですが

才能を重視し過ぎて技術が発展しません」

「技術だと?」

「例えるならば剣術で言うならば

【剣聖】のスキル持ちが居る時はそれで良いかもしれません

しかしそのスキル持ちの死後には何も残りません

他の国ならば【剣聖】の技を技術体系化して後世に残しますが

この国ではスキル持ちが多くその類の技術が発展しません

技術を後世に残さなくてもスキルが有れば充分ですし」

「ならば問題無いのでは無いのか?」

「他の国は技術体系を残しますので

この国のスキル重視政策とどっこいどっこいと言う所でしょう、 差は生まれません」

「そうなのか・・・」

「この国がスキル重視政策を取って500年、 最初の200年位は差が有ったかもしれませんが

長期の国の運営では・・・」

「うぅむ・・・」


頭を抱える皇帝。


「更にスキルを持っている為に自分のスキルで上に成り上がろうとする為の

足の引っ張り合いが多発しています、 この為、 効率は劣ると思います」

「・・・・・」


心当たりが無いとは言えない。


「それから有効なスキル持ち同士での婚姻は近親婚が多いケースが有ります

そうなると子が気性が荒かったり、 奇形の子が生まれる場合もあります

これは貴族に多いケースですね」

「そうなのか」

「また貴族にはスキルの有無を5歳から調べられるので

スキルの優劣で親の対応も変わり、 親からの愛情を受けられずに育ち

性格が悪くなるケースもあります」

「親からの愛情・・・」


自分も先代からそういう愛情を受けた覚えは無い。

もっと優秀なスキルを持った弟が居たからだ。

その弟は流行病で亡くなったが。


「それからこれが一番の問題点なのですが」

「まだ有るのか」

「スキルを持つ人達は難しい言い方をすれば遺伝子に特徴を持つ人達です」

「遺伝子に特徴?」

「遺伝子と言うのは人を構成する情報の事ですね

スキルを持つ遺伝子が有るから人はスキルを持つ、 という事です」

「ふむ、 それの何が問題なのだ?」

「スキルを持つ人、 と言う遺伝子特徴が似通った者が国の大半を占めるという事は

その遺伝子特徴を持った人に感染する病気が蔓延した場合

大規模な流行を示す場合が有ります」

「何だと!?」


弟の流行り病がフラッシュバックする。


「総括すると、 国の長期運営にスキル重視政策は合わない

それ所か長期に渡った政策の実施で近親婚が蔓延し子供に異常が起きやすく

病気にもなり易い・・・しかしながら対策は不可能です」

「な、 何故だ!? 問題が有る政策なら辞めれば良いだろう!!」

「スキルを重視する精神性はこの国の貴族達の中にも蔓延していますよ

国を変える前に貴方を変える羽目になると思います」


それでは、 とアナリストが皇帝の部屋から立ち去った。


「何という事だ・・・」


問題が有るのにそれを変えられない、 このままでは帝国の危機だ。

致命的な病気が流行れば全滅の可能性もある。


「・・・・・」


正に牢獄の様な状態だ、 死刑を待つ死刑囚の様だ。


「あぁ・・・」


窓の外に見える国外追放の馬車が酷く羨ましい、 この国から逃げ出したいのだ。







追放された男は王国で農家として一生を過ごした。

派手な人生では無いが満足のいく人生で子や孫に囲まれて生涯を終えた。


皇帝は長い人生を一人で過ごし、 親戚の娘と子を成した。

皇帝は酷く弱り、 子が成人する前に命を落とした。


スキルを重視してスキルを持たない帝国が崩壊したのは

名も無き男が追放されてから100年後の事だった。

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