第56話 旅

「なぁ?」

「黙って手を動かせ、進捗は良くないぞ」

「ちゃんとやっているよ!だがな!」

「これも仕事だ、しっかりやれ」

「はぁーーー」

 俺は街から街へ、山から海へ、極寒から常夏まで、世界を旅している自由人である。人は俺のような者を冒険家、探検家、開拓家など様々な呼び方をするが、その実は住む場所を持たない浮浪者である。俺の名はコール、そして一緒に作業している中年が近いと思われる男が、俺の保護者であるアキカゲである。俺の父親では無いらしい。最近知ったことである。


 今、俺達がいるのは真っ暗な洞窟で、未開の遺跡の調査、ではない。俺達がいるのは街の下水道であり、やっていることは汚物にまみれながらの清掃作業である。この仕事は街の日雇い斡旋所で見つけた仕事である。報酬は多くはないが、危険はなく、しかも確実に金になる仕事である。しかし、臭い、汚い、きついの三拍子がそろった仕事であるため、誰もやりたがらない。


「なぁ?」

「なんだ、腹が減ったなら持って来た弁当を食べろ」

「てぇめ、正気か?!この状況で飯なんて食えるわけないだろ!!」

「だったら無駄口を叩いていないで仕事しろ。金がないんだ、しっかり働け」

「く!クソ!」


 2人の男は仕事を続けた。朝なのか夜なのか、分からなくなりそうだったが、何とか夕方までにノルマを達成できた。

「ありがとうございました」

 帰宅途中にある斡旋所によって報酬を貰うと、そのまま宿まで向かったが、宿主から綺麗にしてから入るように言われたため、先に体に洗うことになった。


「ううぅぅーーーーー、寒みぃぃぃぃーーー」

 井戸の近くで衣服を洗うと共に体を拭いた。季節は冬が近く、凍える体を奮い立たせながら体を洗った。


「あ!こんなところにいた!!てぇっ、くさいぃぃーーーー」

 一緒に旅をしているレイナが帰ってきたようである。

「うるせぇ!仕方ねぇだろ!俺だって嫌だよ!!」

「えーーでも、おとさぁ、んじゃなくて、アキカゲの方は臭わないよ」

「当然だ、鍛え方が違うからな」

「そっかーーー、なるほどね。それなら納得!」

「ーーーーーーーーーーーー鍛え方でどうにかなるものじゃあないだろ!」


 レイナは医術の才能があるらしく、町々の診療所などの仕事を手伝うことが多いので、下水道清掃のような仕事に加わることは無い。


「コールは思い切りが足りないんだ。私に任せろ」

「な!やめろ!!」

「このままでは一緒の部屋で寝るに耐えん。外で寝てもらうぞ」

 コールは散々に水をぶっ掛けられた上に、体中を入念に拭かれた。


 そう、俺達は3人で旅をしている。子供、少年が羨む冒険者である。しかし、実際はその日に泊まる場所や食事にも困るような寂しく、残念な浮浪者である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者に選ばれたけど無茶苦茶弱い俺が全てを救うまで 火臥王 @barossa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ