エンドロール3

 直感というものがあるのならば、それに従って正解だっと井口と別れた帰り道思いながら歩いていた。

 彼に会って良かった。

 答えがわかったわけではない。でも、答えがわかったこと以上に何か自分の中で掴められた気がしている。

 辺りはすっかり暗くなり、ネオンが街に輝いていた。そういえば今日はクリスマスだ。人がいつもより多い気がした。その中にカップのチラホラいる。

 夢の中では莉英と一緒に過ごした年があったことを思い出す。

 どうでもよかった。 

 本当にどうでもいい。今はどうでもいい。

 BGMが聞こえてくる。

 クリスマスらしく、恋人たちが愛を育んていくバラードが流れていた。ありふれた曲、歌詞でいいとも何も思わなかったが、どこかで聞いたことがあるような透明度のある女性ボーカルの声だった。

 そういえば、大学で出会った奈央は大学卒業後歌手を目指すと言って就職しなかった。その後、彼女が歌手デビューしたかは知らないが、文化祭で聞いた声によく似ているなと思って聞いていた。

 彼女も大塚つながりでよく遊びに誘われたりしたが、今まで付き合ったことのないことがコンプレックスで彼女にアプローチすることができずに、結局大塚と付き合って大学卒業前には別れていた。

 もしも俺が恋愛経験があったなら彼女と付き合っていたかもしれない。

 そんなことを思うこともあったが、あの夢で証明された気がする。

 恋愛経験があっても彼女とは付き合うことはなかっただろう。

 同じということだ。仮に良い所まで行っても、莉英の時のように中途半端に終わっていた気がする。それはもしもだからわからないと言えばわからないのだが、そんな気がした。

 どうでもいい。

 心が現実を作る。

 もしもとよく使うが、どういう設定であれ、それを自分で望むか望まないか。本気か本気じゃないかなのではないか。

 それでいい。 恋人ができること、いることだけが偉いわけじゃない。幸せじゃない。

 普通の人から見たらいいわけに聞こえてくるだろう。

 それでいい。本当にそれでいい。

 と、前から一組のカップルが近づいてくる。男の方は知らない顔だったが、女性の方は髪の毛も伸びて化粧も大人っぽく濃くなっていたが、莉英に似ている気がした。俺に構うことなく手を繋いで仲良く歩くその二人はすれ違って去って去っていった。

 幸せそうだった。楽しそうだった。

 さて、これからどうしよう。

 夜の闇は時刻を刻むにつれて膨らむ。ただ、その闇に光が刺す時は一気に明るくさせる。

 昼間は永遠に続かずにまた夜になるかもしれない。ただ、夜も永遠には続かない。

 そしてまだ夜明けまで時間がかかりそうだが、俺の心はもう夜明けを迎え始めている気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シェア彼女 AKIRA @11821182ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ