第9話

「グルルアァ!!」


「ラアッ!!」


ドガッ


「ゲギャギャ!」

「ガアア!!」


「舐めんなぁ!!」


ズガッ

ドズッ


 おれが[迷死の森]に落とされてから、おおよそ一週間がたつが、その間絶え間なく魔物と死闘を繰り広げている。

 おれは武器防具を持たずにこの森に落とされたので、最初はスキルで対処しようとしたが[斬糸]での攻撃も[鋼糸]での拘束もほとんど意味を成さない場合が多かった。

 さらに[裏山]では調整されていて弱い魔物しか出ないとはいえ、まともな攻撃を受けたことも数える位しかなく、喰らってもダメージなんてなかったのがまるで嘘のようだ。

 

([迷死の森]とよばれるだけあるってこと,,,,か)「っ!?」


 草むらからいきなりおれに向かって飛んできた何かをとっさに避ける。


(何だ!?)


 それは蜘蛛の糸だった。


「フシューゥ,,,シューゥ」


「おいおい、デススパイダーってマジかよ,,,,,,」


 デススパイダーとは前世の乗用車程度のサイズの蜘蛛の魔物だ。猛毒と堅固な外皮、その巨体に見合ったパワーと見合わぬ俊敏さをあわせ持つ中々の強敵であり、この魔物が周辺の森に居着いてしまい討伐することが出来ず滅んでしまった村がいくつかあるらしい。


「ははっ。」

(とうとう、ぶっ飛んじまったのかねぇおれは)


「シャー!!!」


 デススパイダーがそのスピードを活かしておれに飛び付いてきた。


(蜘蛛の癖に接近戦かよっ!!)


 おれはその飛び付きを回避しつつカウンターで拳を叩き込んだ。


「ぐあっ!?」


 その瞬間、拳に鋭い痛みが走る。

 その拳を見てみると骨も肉もグズグズに溶けていた。


(ウソだろ![鋼糸]で常にガードしてんだぞっ!?そもそも毒なんて喰らってねえのに!!)


「フシャー!!!」


「っ!クソっ!!」


 デススパイダーの猛攻を全て避け、一旦攻撃するのをやめる。


(どうなってんだ?とりあえず触れることができないんなら、一か八か、[斬糸]で,,,!)


「フシュシャー!!!」


ブチブチブチ!!


「まぁ、そら駄目だよな!!」

(他のデススパイダーより格下の魔物にも通用しなかったんだし予想はできたが,,,,,,)

(今、使い物にならない腕は落としておくか)


スパッ!ボトッ!


 おれの固有スキル欄に、何でもないただの[糸]があったがあのスキルは、最初本当にただの糸を出すだけの、何の意味があるのか分からないスキルだったがおれのレベルが100を過ぎた頃にある特殊な効果が出るようになった。


(よし!新しい腕ができた、前より再生速度も早くなってるな)


 特殊効果とは自分の身体に限れば、どれだけ欠損しようが、致命傷を負おうが再生することができるというものだ。

 他社の身体には縫合程度の処置しかできないが自身に限れば怪我であれば即死以外の致命傷は全て治すことができるので重宝している。


「フシューフシュー」 

ポトッポトッ


(ん?あいつの身体からなんか滴ってるのか?)


 デススパイダーの足元を見れば、滴った何かが地面の草花を溶かしながら枯らしていた。


(あいつ毒を纏うこともできんのかよ!?)


 デススパイダーを知ったのは家の書庫に忍び込んだ際に魔物のことを本で読んだからだがそこには毒を纏う能力があるなんて書いていなかったのだ。


「成る程,,,,こいつぁヤバイな」


「シャー!!!」


「オォラァ!!!!」


ドガッ!!


 また腕が溶ける。だが,,,,,,


(どんだけおれの腕を溶かそうが、溶かす度に切り落として治せばいい)

「言っとくが、おれを殺すのは骨が折れるぜ?」


「フシュシャー!!」


「ウオラァ!!」

 







 そこからはどれだけの時間が経ったのか、何本の腕や足を切り落としたのかよく分からない。

 気づいた時には目の前に絶命したデススパイダーと猛毒とおれの血が撒き散らされた地面一帯が残るのみだった。


「ハァハァ、ハハッアハハハハ,,,ウッ?!ゲホッゲホッ!!」


ドサッ!


 激戦直後で体力が残ってなかったおれはその場に倒れ込んでしまった。

 だが、一人の姉を抜いた家族に邪魔者として蔑まれて、殺されかけて自分でも思わぬ、暗い感情を抱えていたおれは産まれて初めて心の中がスッキリしていた。


「精一杯、闘うってこんなに楽しかったんだなぁ」

(思えばこの世界に産まれついて初めてかもなぁ。誰のことも気にせず思いっきりなにかしたのって)


 思い返すと、屋敷にいた時はシルハやレリア姉のそばにいても父や兄、そのそばにいる執事や使用人を気にして何もしてなくても生きづらさを感じていた。


「おれはこの世界でなにがしたかったんだろう,,,,,,,,,」

(強く,,,なりてーなぁ。おれが生きるのを誰にも,,,,,,いや、[あいつら]に文句いわれねぇ程の強さが欲しい)


 ただ、闘うことが楽しかっただけなのかもしれない。心の奥底でおれを捨てた元父や元兄に対する憎しみを抱いていたのかもしれない。

 それでもこの時のおれは単純に文句いわれないだけの強さを欲したのだ。

 未来の自分にこの思考を見られていたら、我ながら思考の飛躍がすごいな、なんていわれていたかもしれない。

 そして、この決心がもとになりおれの運命は少しずつ動いていくこととなる。


「どうせ目指すなら天辺だな![あいつら]にも誰にも文句言わせねぇ最強の男になってやんよ!!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その決心から、おおよそ二週間程経った頃ーー



(ん、何だ?これ、結界,,,,,,?)


 そこにあったのは[迷死の森]の中に存在するのは明らかに不自然な程に高度な結界だった。


(スゲーこんな高度なの、うちの屋敷周辺にすら貼られてなかったぞ)


 結界というのは犯罪者の侵入や街に魔物が迷い込まないように、街全体あるいは住宅にかけるものである。

 それが街中ではなく強力な魔物が跋扈する[迷死の森]にあるという事は、結界をかけられる程に知性ある生物、あるいは魔物の上位存在の存在していることの証左でもある。


「誰じゃ!妾の支配領域に断りもなく入り込もうとする不届き者は!!」


「おお、何だぁ?」


 どこか幼さのある声の方向に振り替えると、そこにはとても可愛らしい少女がたっていた。


(この森にこんな子供が,,,,,,?いや、見た目に騙されたらヤバイのかもしれない。さっきも支配領域がなんたらって言ってたし、もしかしたらこの結界をはったのはこいつかもしれんし,,,,,,いや、でもなぁ)


「なあ、この結界張ったのはお嬢ちゃんなのか?」


「お、おじょ?!こ、この人間の子供風情が!不遜であるぞ!!妾を誰と心得る!!!」


「[迷死の森]にいる変な子供」


「んなっ?!ふ、不遜すぎる,,,,,,というか[迷死の森]にいる変な子供ならお主もじゃろうが!!」 


「おれのことはいーんだよ、今はそっちの話だろ?」


「何でお主はそんなに偉そうなのじゃ?まあいい。妾の正体を聞けば腰を抜かして命乞いするであろうしな」


(早くいってくんねぇかな)


「その耳をかっぽじってよぉく聞くがよい!!愚かな人間よ!!!」

「妾の名はグウェル・リルアーツ・ゲルマニウム・フェイリア!!」

「強大にして偉大なる魔王である!!!」


「,,,,,,,,,,,,,,,,,,はあ?」


 これがこれからの生活を共にする魔王との出会いであった。

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ゴミ職業で異世界無双‼️~家を追い出されたけどチートで強く生きていきます~ ヤサク @katou1215

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