第8話

「精々、母親に甘えるといいぜ?アルバート。この先、会えるかどうかもわかんねーだからさ。ククク」


「はーい、たっぷり甘えさせていただきまーす」

(会わす気なんてハナからねー癖に嫌味だなおい)


「フン!」


 兄との会話はおそらくこれが最後だろう。だからといって別段、寂しくも悲しくもないのだが。なんせ、俺を殺すのにスゲェ積極的で実行犯役を買って出る程だったのだから


「アル、楽しんでね。それと帰ってきたらどんな人だったか教えて?」


「,,,,,,ああ、もちろん。飽きるくらいたっぷり語るよ」


「ん。楽しみにしてる」


「アルバートお坊ちゃま、道中お気を付けて。心配はないと思いますが途中、[迷死の森]等の危険な場所の近くを通過するのでどうか」


「分かってるよ」


「アルバート様、そろそろご出立のお時間です」


「ああ、わかった。二人とも今まで色々ありがとう。それじゃ行ってくるわ」


「アル,,,,,,?」


「アルバートお坊ちゃま、どうかされたので?」


「んにゃ、二人から離れるんだしせっかくだから普段の感謝を伝えようと思っただけだよ。あっ、もしかして気持ち悪かった?」


「全然、気持ち悪くなんてない!すっごく嬉しかった!!」


「私も、せっかく感激しましたのにその様なことを仰られないで下さいまし」


「い、いやジョーク、ジョーク!ちょっとしたお茶目な冗談じゃん」


「全く面白くありませんわ」


「照れ隠しでも二度と言わないで」


「めちゃくちゃ怒られるじゃん俺」

「ーそれじゃそろそろ本当に」


「うん、いってらっしゃいアル」


「いってらっしゃいませアルバートお坊ちゃま」


「うん!いってきます!!」

(ーさようなら)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アルバートのぼっちゃん!そろそろ[迷死の森]の近くでさあ!!何かあったら馬を離すんで来た道を全力で戻ってくだせえ!!」


「分かった!!」

(あいつらの会話を思い出すとそろそろかな)


 俺の考えは当たっていたようで唐突に馬車がガタンッ!!と揺れる。自分の感覚を信じるとしたらどうやら馬車の片側の車輪が外れたらしい。


「な、何だ?!いったいどうなってやがんだ!!?アルバートのぼっちゃん!ご無事でー」


 御者のおっちゃんがおれの無事を確認するより早くに馬車が落下し始める。

 [迷死の森]に向かって父親と兄だったふたりの思惑通りに。


(このままおっちゃんを巻き込むのもしのびねーな)


 巻き込まれて落ちる馬とおっちゃんを崖の上に、糸を使って戻しつつ自分はそのまま[迷死の森]に落下させていく。


「ぼっちゃん!ぼっちゃーん!!クソッ!クソッ!!!」


(あの二人の思い通りになんのは腹が立つけど、あのおっちゃんは救えたし良しとするか)

(さて、あれが噂の[迷死の森]か。想像以上に禍々しいという不気味だなぁ)


 [迷死の森]には濃い障気のようなものが漂っており、かろうじてその森の木々は確認できるものの、生息しているはずの凶悪な魔獣の姿は一切確認できない。

 ただ、存在していないのではなく絶え間なく悲鳴のような雄叫びのような魔獣の鳴き声が聞こえてくる。


(不本意だったとはいえ、せっかく生まれ変わったんだし精々死なねぇように抗うとするか)

(それにチートもあることだ。この森でなら信じらんねぇくらい強くなれるかもしれない、そう考えると案外先のことが楽しみになってきたな)

(レリア姉,,,シルハ,,,,,,いや、考えるのはよすか。気合いをいれ直したんだし今思い出して凹む必要もないな、一歩間違えれば死ぬような場所にいくんだしな)


 そんなことをつらつらと考えていたら、地面がすぐそこまで迫っておりー


ドガァァァァァン!!!!


 と盛大な音をたてながら、おれは無事に[迷死の森]に落下した。


(痛っつつ、レベル上げておいてマジで良かったなぁ。結構、高いところから落ちたけど痛みだけで無傷だし)


 こんな感じで馬車と一緒に落下した影響で、自由に動くのに少しもたついていたら、そこらの茂みや草むらから、いくつものうめき声が聞こえてきた。


「さっそくのお出ましか。さぁ、どっちが獲物でどっちが狩人かご教授願おうか!!」


 死と隣り合わせのサバイバルの幕が上がる。

 












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