一時間で書いたやつぶっこむ所

神在月

【欠落したものが回復する】

舞台


どっかの地方都市にある共学高校の文芸部……を語るオタク達の溜まり場


人物紹介


平和ひらわつくる

 二年生、男、ピー君。

 エロに素直なおっぱい信者。まどかとは恋仲


霧吹きりぶきまどか

 二年生、女、ブッキー。

 ちょっといいところのご令嬢、よくネタにされる貧乳。ですわ系


彩葉さいはのぞみ

 三年生、女、イロハ

 おっとり巨乳な姐御系、天然気質で大体元凶、こう見えて生徒会長。


天賀あまがいたる

 三年生、男、テンガ。

 常識人の苦労人、あだ名については諦めた。一応部長で生徒会副会長。







 とある放課後のクラブ棟、『文芸部』の札が下がった部屋の中、個人用ロッカーの中に上半身を突っ込んだ女生徒が一人。


「あれぇー、おっかしいなぁー?」


 間の抜けた声を上げて中を漁る女生徒に、たった今扉を開けた男子生徒が言葉をかける。


「おい、なにやってんだイロハ、……っておいおいおい! ロッカーの中身を全部ぶちまけんじゃねえ! つかどうやってその量入れてたんだお前!?」


 見れば辺りには衣服や雑貨が散乱し、他のロッカーが開けないほどの体積を積み上げている。

 女生徒はロッカーから体を引き抜きつつ、声を掛けてきた男子生徒に笑みを向け、


「あ、やっほーテンガ、いやぁちょっと探し物でさぁー」


「そんなこた見りゃわかる、とりあえず他の部員のロッカー使えるようにしろっての……」


 男子生徒が額を押さえつつそう答えたとき、背後の扉を開けて二人の人影がやってきた。


「おつかれさまでーす、って何ですかテンガ先輩この状況、あたり一面に散らばった女性ものの衣服……下着は! 下着はないんです――いてっ!?」


「馬鹿な事言ってるとひっぱたきますのよつくる?」


「もうひっぱたいてるよね!? え? 今のは拳だった? ハイいい空気一名様入りまぁす!!――ケピョッ!?」


「おいお前ら、夫婦漫才してないでいいから片すの手伝え。――イロハ! さらに物を引っ張り出すんじゃねぇ!!」





「それで、結局彩葉先輩は何をやっていたんですの?」


 散乱した私物を再びロッカーに押し込んだ後、部室中央に置かれた机を囲みつつ、まどかがお茶を飲みつつそう切り出す。


「それがさぁ、明日ちょっと県のお偉いさんに挨拶いかなきゃなんだけど、その時着ける校章のバッチが見つからなくてさぁ」


「……なんでそれを部室で探してるんですの?」


 その疑問に答えたのはのぞみではなく、そのとなりに座るいたるの方で、


「あー、こいつは昔っから大抵の物をここのロッカーにぶち込んでんだよ、部誌の作成で寝泊まりする時もあるから着替えまで持ち込んでてな……」


「テンガには怒られるんだけどねぇ、家に置いとくと完全に消失するからさぁ」


 へらへらと手を振る望を見つつ、恐る恐る創が手を挙げる。


「あのーテンガ先輩、イロハ先輩の自室って……」


「聞かねぇ方がいいぞ、お前が妄想してる女子の部屋からはかけ離れた樹海だからな」


「それもう説明してますよね!? あぁ、天は巨乳に二物を与えないのでしょうか……」


「ピーくーん? ブッキーが奥にハサミ取りに向かったよぉ?」


 慌てて止めに走っていきました。



「まぁ彩葉先輩のことは別にしましても、探し物って探し出すと見つからないですわよね」


「ん? 霧吹もなんか経験あんのか?」


 ええ、とうなずくと、円は一度創の方へと視線を移し、それからゆっくりと語り始める。


「昔、父から貰った時計を無くしてしまった事があるんですの」


 父は特別厳しい人では無かったが、多忙で普段家にいないこともあり、自分としては怖いというか、少し苦手意識をもって居た。

 そんな父からの贈り物を無くしてしまった事で、当時まだ幼かった自分は泣き出しそうな気持ちになってしまったのだ。


「無くした場所はきっと小学校のどこかだとわかってはいたのですけれど、その日は金曜日で、気づいたのは放課後のことでしたの」


 しかも運の悪いことに、その日はちょうど父が帰宅するタイミングだった、次の登校日まで待つわけにもいかず、自分は思わず踵を返して学校へ戻ってしまったのだ。


「時刻は五時を回ったあたりでしたけど、冬で暗かったですし、子供にとっては怖かったですわね」


 人気のなくなった校舎の中、昼間使った教室を回っても、父から貰った時計は見つからなかった。


「気が付いたらもう辺りは真っ暗、あきらて帰ろうにも、自分がどこにいるかもわからなくなってましたわ」


 一人、膝を抱えて泣き出しそうになっていた時、不意に外から自分を呼ぶ声がしたのだ。

 最初はお化けの声かと思っていたが、次第にそれが父の声であることが分かった。

 父の時計を無くしてしまった負い目から、しばらくは動けなかった、けれどついには、自分はその声に導かれ、外へと出ていたのだった。


「父に見つかったとき、怒られる、とそう思ってましたわね」


 だが、自分を見つけた父は、怒るでもなく、ただ優しく抱きしめてくれたのだ。

 よかった、無事で本当に良かった、と震えた父の声を聴いた瞬間、自分の中の何かがはじけ、泣き出して縋り付いたのを覚えている。


「そのあと勿論叱られましたけど、父に対する苦手意識は、きれいさっぱり消えていましたわね」


「なるほどねぇ、それで、結局時計はどうなったのかな?」


 黙って話を聞いていた望が、そこでふとそう尋ねてきた。


「ああ、それでしたら……」

 


 ――どこかの馬鹿な少年が、見つけて届けてくれていましたのよ



 そう言って円は、横で寝たふりを決め込む恋人を見つめるのだった。







数日後


「それで結局、校章は見つかりましたの?」


「うん、見つからなかったから、家にあったテキトーなバッチ着けてったよー?」


「お前、全国紙でアニメのバッチ着けた写真載ってるからな!?」


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