第131話 誕生日パーティーin紫条院家(前編)
時は夕刻。
俺こと新浜心一郎は今、紫条院家のお屋敷のリビングでテーブルについていた。
こんな時間まで俺が女子の家にお邪魔しているなんて普通はありえない事だが、本日だけは許されるに足る理由がある。
なにせ今日は春華の誕生日パーティーであり、俺は唯一のゲストとして春華に招待されたのだから。
(しっかし……俺が知っている誕生日パーティーとは一線を画すなこりゃ。ホテルのパーティー会場みたいだ)
少人数のホームパーティーなので場所こそリビング(とはいえ一般庶民の家におけるリビングの四、五倍の広さがある)だったが、部屋が『飾り付け』どころか『改装』されており、高級レストランもかくやという格式の高い空間へと変貌していたのである。
さらに和洋中が網羅された絢爛な料理がテーブルに並んでいるが、生半可なビュッフェなんか目じゃないほど美味い。(なんと春華のお母さんである秋子さんや家政婦さん達が自前で用意したらしい)
さらに誕生日ケーキは芸術品のように豪奢な上にウェディングケーキばりのビッグサイズであり、結婚式か?とツッコミたくなる。
(春華に連れられるままにこのセレブ感溢れる会場にお邪魔して、最初はちょっと緊張したけど……秋子さんの明るさに助けられたな)
なにせ、出迎えの挨拶からしてこんな感じだったのだ。
『ふあああああああああああぁぁぁぁ! よく来てくれたわね新浜君! いやー、この子が誕生日に男の子を連れてくるなんてもう、お母さんは感動で泣いちゃうわ! え……え!? す、すでに誕生日プレゼントも渡した!? ああもう! 超攻め攻めじゃない君! どうしてそういう私の希望通りの事をしちゃうの!』
春華の母親である秋子さんは、俺が敷居を跨いだ瞬間からとてつもなくハイテンションであり、俺と春華に抱きついたり、俺が誕生日プレゼントを贈った経緯を聞いて大興奮していたりと、現在進行系でメチャクチャはしゃぎっぱなしだ。
なお、カメラ係と化している家政婦の冬泉さんも今日は妙にノリノリであり、先ほどから秋子さんの要望に応えてシャッターを切りまくっている。
「ほらほら、春華! 今度は新浜君の隣で撮りましょう! ほら、この特別ケーキを前に置いたアングルで!」
「そ、そうですね! じゃあ、ちょっとお願いできますか、し……あ、いえ『新浜』君?」
さっきから記念撮影に夢中である秋子さんを伴って、春華がおずおずと俺に声をかけてくる。
……なお、流石にご両親の前なので名前呼びはお互いに自重している。
俺は制服のままだが、春華は本日の主役という事で大人っぽいネイビーの薄地なドレス(冬泉さん曰くシフォンドレスというらしい)を着ており、その華美さとレース地の向こうに薄らと透ける肌にどうしても目が奪われる。
(もう何度こう思ったかわからないけど……本当に綺麗すぎる……)
生地を見ただけで相当に高価だとわかる一着は、高貴な顔立ちと雰囲気を持つ春華によく似合っており……どこかの国のお姫様と紹介されれば誰もがそれを疑わないだろう。
なお、紫条院家本家の基準としては春華の誕生日などというイベントは本来親族を集めて大々的にやる事らしいが、本人の希望でこうして『小じんまり』とやっているそうだ。
庶民には驚きだが、その主役たる春華がドレス姿なのもごく自然なことらしい。
「お、おお、もちろんだ。ガンガン撮ってくれ」
「そうですか! じゃあ、遠慮なくお隣を失礼しますね!」
俺が快諾すると、春華は俺の隣の席に座って嬉しそうな笑みを浮かべた。
華やかな宴席で眩しい程の高級な装いに身を包んでいるからこそ、その童女のような純粋な笑みの可愛さが際立ち……つい見惚れてしまいそうになる。
「ふふ、それでは新浜様はお嬢様にもっと寄ってください。でないとフレームに入りませんから」
「え!? は、はい、ええと、それじゃあ……」
微笑ましそうに笑みを浮かべる冬泉さんに言われるがままに、(秋子さんもその隣でニヤニヤしている)俺と春華は座る椅子ごとお互いへと身体を寄せる。
そして――当然の帰結として俺達の肩はぴたりとくっつき、微かに伝わる少女の体温に俺の頬はかっと熱くなる。
この距離まで春華に接近したのは初めてではないが、やはりこのとてつもなく甘い女の子の香りは前世から彼女ナシの俺には刺激が強すぎる。
そしてそれは、どうやら俺だけの事ではなかったようで――
「な、なんだか恥ずかしいですね……家族の前だからでしょうか……」
こういう事にあまり意識しないはずの天然少女は俺のすぐそばで微かに頬を赤らめていた。
(うわぁ……またなんとも破壊力の高い……)
先ほどまでウキウキしていた少女が恥じらいを浮かべた様は、猛烈に男心をかきたてられる。
よそのお家にお邪魔して家族の視線が向いている中なのに、その胸を射貫くような魅力に見惚れてしまう。
「あーいいっ! お二人とも最高の表情です! そのまま! そのままー!」
そしてそんな俺のドギマギを余所に、冬泉さんはアイドルを激写するファンのような熱量でシャッターを連打する。
「いいじゃないっ! そうよ二人ともそのまま! あーっ、ほらそこ春華ったらこっちじゃなくて新浜君を見なさい! カメラ目線な笑顔じゃなくて心が自然と笑みを作った感を出さなきゃ駄目よぉ!」
そして、その後ろにいる秋子さんもやたらとテンションが上がっており、撮影監督かのようにこっちに指示を飛ばしまくる。
そしてそんな騒がしくも和やかな雰囲気の中――
俺の正面に座るとある人物は、先ほどから爆発寸前の怒りを抑えるかのように震えており……握り拳の圧力でテーブルはミシミシと音を立てていた。
【読者の皆様へ】
大変長らくお待たせしましたが陰リベ第6章を掲載開始します。
なお、以下の点をご承知おきください。
・書き溜めましたので本日から41日間、毎日7:00に更新します。
・申し訳ありませんが感想についてはあまり返信できないかもしれません。
・最終章であるためこれまでとはちょっと毛色が違う展開になりますが、
作者はハッピーエンドしか書けない体質ですのでその点はご安心ください。
・陰リベ書籍版5巻は令和5年10月1日発売ですのでどうかよろしくお願いします!
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