小説4巻発売記念番外編:もし海で心一郎が酔っ払ったら

【※注意 本エピソードはWEB版97話からの差分ルートです】

【書籍版小説から来た方は書籍版小説4巻を先に読む事を推奨します】



「ふぅ……疲れた身体にジュースが染み渡る……」


 俺こと新浜心一郎は、夕暮れのビーチで心地良い疲労感に包まれていた。


 今日は紫条院さんや級友の皆と海に行くという、前世ではありえなかったリア充イベントの日であり、現在はそのシメの浜辺バーベキューの最中である。


(波打ち際の浜辺で、大好きな女の子や気心が知れた友人達と憧れの串焼きバーベキュー……なんだこれ天国か?)


 前世においては、『学校:カースト底辺』『大人社会:限界社畜』というキラキラとは無縁だった生涯を思い返すと、今ここでこうしているのが本当に嘘のようだ。


(皆もかなり楽しんでくれているようで何より……ん?)


「ははははははは! いやぁバーベキュー最高だな! 世界が輝いて見えるぜ!」


 ふと見れば、一緒に海に来た友人である銀次がやたらと盛り上がっていた。

 両手を大きく天へ突き上げ絶叫しており、某猛虎球団が優勝した時の大阪人みたいになっている。

 

(どうしたんだあいつ? 今日は確かにテンション高かったけど、女の子がいる場であんなに大きい声ではしゃげる奴だったっけ?)


 前世の俺以上に女子への免疫がないピュアな銀次にしては何か妙だと訝しんでいると、筆橋と風見原もなんか様子がおかしい事に気付く。


「うふふふー……今日は友達の素肌を見まくった日だったよねぇ……ふふ、男子のゴツゴツした身体も美月の脚線美も堪能できたけど、やっぱり春華が最高すぎたよねぇ……いくらなんでも神がかり的にエッチすぎるってぇ……」


 ショートカットのスポーツ少女である筆橋は、とろんと上気した色っぽい顔でやたらとセクハラじみた事を呟いていた。

 だがまあ、『神がかり的にエッチ』は同意しかない。


「あーっはははは! 男女混合で海にきちゃってバーベキューとか私ってば超イケてる女子じゃないですか! ふぅぅぅ友達サイコー! 夏休みなのにぼっちで過ごしてる奴おりゅぅ~?」


 不思議メガネ少女の風見原は反対にテンションがぶち上げであり、なんか知らんが馬鹿笑いしながら目に見えない誰かに対して激しくマウントを取っていた。

 いやまあ、その気持ちはめっちゃ共感できるが……。


(何やってんだあいつら……? でもまあ、高校生の頃のノリってこんなものだったかもな)


 俺の精神年齢は肉体に引っ張られて感情も感性もかなり瑞々しくなっているが、(幼くなっているとも言える)それでも大人の記憶と意識もあるため現役高校生のノリがわかりがたい時もある。


 晩餐を楽しみまくっている級友達をとりあえず放っておく事にした俺は、バーベキューグリルから、よく焼けた串を手に取る。


 ピーマン、玉ねぎ、牛肉が連なるそれを丁寧に炙り、バーベキューソースで焦がした逸品。肉汁が滴るそれに歯を立ててグイッと――


(くぅぅうめぇぇぇ! 憧れ続けたバーベキュー串の味は最高だぜ! しかも高校生の肉体だから脂っこさも胃の容量も考えずにガンガン食え――ぐっ!?)


 つい美味すぎて勢いよくがっつきすぎたようで、肉が喉に引っかかってしまう。

 

 (ちょっ、ヤバい……! ガッチリ引っかかってマジで苦しい!)


 こんなアホな理由でまた死ぬとか洒落にならないんだが!?


「んー……? 新浜、お前喉に詰まったのかぁ? ほれ、ジュースやるから流しこめよぉ」


 いつの間にか側に来ていた銀次が差し出してきた缶を、俺はひったくるように受け取る。フルーツ味の甘い液体をゴクゴクゴクと一息に呷り、その勢いで苦痛の原因だった喉の詰まりはすぐに解消された。


「ふぅ……助かったぜ銀次。地味にピンチだっ……た……?」


 なんか、感覚がおかしかった。

 明らかに血流が早くなっており、身体が熱い。

 もやがかかったように意識が曖昧になり、現実感が急速に薄くなっている。


 今日一日海で遊び尽くした疲労という穴に……何か意識を蕩かすものが流れ込んできている……ような……。


「おお、生き返ったか新浜ぁ。ほれ、ジュースはまだあるから念のためにもっと飲んでおけよぉ」


「お、おお、さんきゅ……(カシュッ)んぐ……んぐ……ぷはぁっ! おお、なんかこれ、メッチャ美味いなぁ……」


 ありゃ……なんかこのかんかく、すごく覚えがあるような……?


 なんだったかななぁ……なんかどうにも思い出せないし、上手くものをかんがえられない。とにかく、いまのおれはふわふわでぽかぽかだ。


「そうだろぉ? ほれほれ、まだあるから遠慮すんなよぉ」


「おお……さんきゅぅ……」


 なんだか、かなりよろしくない状態になっているような気がしなくもなかったけど……なんかもうどうでもいい。

 この足元がふわふわして、しあわせな心地に何もかもをゆだねたい。

 

 んー……でも、なんだったっけな、このかんかくは。

 しゃちくじだいの、とってもつらいときによくあじわったような……。


「まあ、いっか……」


 あたまのなかからよけいなものをぜんぶけして、おれはただめのまえのジュースにいしきをむける。

 

 ふー……うまいなぁ、このジュース……。


 ■■■


 私こと紫条院春華は、バーベキュー会場のごく近くで開いていた折り畳み携帯をパチンと閉じた。


「お父様ったら、いくら心配だからってこんな時間に……ちゃんと今日は遅くなるって言っておいたのですけど」


 皆でバーベキューを楽しんでいる時に急遽携帯が鳴ったので出てみれば、お父様からだった。


 私が今日一日を海で過ごす事について許可は出したものの、いざ夕方を迎えると無性に心配になって電話したくなったらしい。


(まったく過保護なんですから……一緒に来ているお友達も全員とてもちゃんとしたメンバーなんですし、トラブルなんて起きるはずないです)


 最近私が家から離れるたびに心配を連呼するお父様にちょっとため息を吐きつつ、私は皆に所へ戻ってきた。

 

 さて、お肉もかなり食べたし、あとはゆっくり甘いものでも……。


「……あれ?」


 皆のところに戻ると、なんだか妙な状況のように思えた。


 山平君、筆橋さん、風見原さんの三人はなんだか緩んだ笑顔のままにだらーっとしており、頬が紅潮している。


 三人とも夢心地のような表情をしていて、何故か手元のジュース缶をチビチビと飲んでばかりいる。


「あれ、皆さんお疲れなんですか? ……って、え!? に、新浜君!?」


「おぉ……紫条院さん……電話はもう終わったのかぁ……?」


 私が最も親しい男子である新浜君の姿を認め、つい驚いた声を出してしまった。


 いつも大人びていて理知的な雰囲気を持つ新浜君は、今この時は表情も雰囲気も緩み、全体的にほわほわになっていたのだ。


 おまけに山平君達同様にとっても顔が赤くて、なんだか動きもぎこちない。


(ど、どういう状況なんでしょうこれ……!? まるで、たまにお父様が晩酌しすぎた時のような――)


 そこまで考えて、私はハッと気付く。

 新浜君がさっきからゴクゴク飲んでいるそのジュース缶の表面に、『これはお酒です』という表記がある事を。


「わ、わああああああああ!? だ、だ、駄目ですよ新浜君! それってお酒です! 新浜君、かなり酔ってしまっていますよ!」


「……へ? しゃけ……? ああ、なるほど……通りで、懐かしい味がするなと思ったよ……」


 私の驚きの声に、新浜君は素直にその缶を傍らのテーブルに置いてくれた。

 でも、すでにかなり意識はあやふやな状態に見える。


「も、もしかして私以外全員お酒に酔って……!? ど、どうしましょう……!」


 一体何故お酒がドリンクの中に紛れていたのかわからないけど、ひとまず酔った皆をなんとかしなければいけない――そう考えていると、新浜君がフラフラのままに歩き損ねて、その場に倒れそうになる。


「……! 危ないです新浜君!」


 私は咄嗟に新浜君の身体へと手を伸ばす。

 ガッシリとした男の子相手なので力のない私は身体全体で支える必要があり――自然と抱きつくような形になってしまっていた。


(わ、わぁ……新浜君ってやっぱり胸板が厚くてごつごつしています……それにお酒の影響なのかとっても熱くって……)


 昼間の海でも同じような事があったけれど、その時と違うのは私が新浜君の背中に手を回す形で密着している事だった。


 女の子よりも重たい男の子の身体、先日に借りたシャツと同じ強い新浜君の匂い、そして、熱くてたまらない彼の体温。


 そういった情報が一気に押し寄せてきて、私の頬は朱に染まってしまう。


「あー……今日何度も思ったけどやっぱり紫条院さんは綺麗だな……」


「な、なにを言っているんですかっ!?」


 耳元で甘く囁かれるような新浜君の言葉に、私は激しく狼狽してしまった。

 こ、こんな密着状態でそんな事を言われたら……!


「いっつも思ってるんだ……美人で、優しくて、心が綺麗で、純粋で……本当に素敵すぎる女の子だなって……今日も、一緒に海に来れて本当に良かった……」


「~~~~っ!」


 なおも私の耳朶に入り込んでくる言葉に、頬が燃えるように熱くなる。

 胸がお互いに触れてしまっているので、激しくなっている動悸もひょっとしたら彼に筒抜けかもしれない――そう考えたらさらに血流が加速してしまう。


(こ、これはお酒のせいです! ちょっと新浜君は変になっていて、言葉がおかしくなっているだけです!)


 そうやって自分の火照りを必死に沈静化しようとするけれど、そこでふとお父様がお酒について話していた事を思い出す。


『いいか、春華。お前にはまだ早いが、酒は人の理性をおかしくするのではなく、ただ緩めるだけだ。だから、ニュースでよく見る酔った勢いで暴れて……なんて奴の多くは元から問題がある奴なのさ。言い換えれば、酔った時の姿と言葉こそその人間の本音が表われるものなんだ』


(と、という事は……さっきのは新浜君の本音って事ですか!?)


 そう考えただけで、自分の内で花火が上がったみたいに感情が激しく爆発してしまっていた。

 新浜君の言葉が彼の胸の内そのままなのでとしたら、歓喜が溢れて出て止まってくれそうにない。


「ん……あー……悪い……。ずっと紫条院さんにもたれかかって汗臭かっただろ。紫条院さんはすごく柔らかくていい匂いがして、俺だけいい思いをしちゃってたな……」


「な、なっ……!」


 ゆっくりと身を離した新浜君は、謝りながらも私に頭をさらに飽和させるような事を言ってくる。こちらとしては、さっきから顔が赤くなりぱなしだった。


 さっきからの身体的接触や何の気なしに放たれる褒め言葉攻撃に、私は自分もまた酔っているのではないだろうかと思えるほどに感情が入り乱れていた。


 そして、そのせいか……ふと私の脳裏にとてもイケない考えが浮かんでしまった。

 も、もしかして……今の新浜君は……。


「あ、あの……新浜君。こんな時に変な質問ですけど……妹の香奈子ちゃんの事、どういう所が可愛いと思っていますか?」


「んー……香奈子かぁ? あいつは凄く強かなように見えて……結構寂しがり屋でさぁ。留守番させている時に俺が帰るとぉ……パッと顔を輝かせるんだよぉ。

そういう所がホント、可愛いなって……」


(こ、これは……)


 実はこの質問は、数日前に新浜君と電話で話した時にも雑談の一つとして尋ねた事だった。けれど新浜君にとって気恥ずかしい質問だったようで、その時は照れて言葉を濁していた。


 なのに、今はこんなにも赤裸々に――


(もしかして今は……新浜君は質問になんでも答えてくれる状態なんですか!?)


 そう認識した途端に、あらゆる事を聞いてみたい衝動が生まれる。

 けど、それは私は必死でそれを打ち消す。


(だ、駄目です! アルコールを利用してあれこれ聞き出そうなんて最低の事です! で、でも……折角ですから差し障りのない事だけでも……! そう例えば――)


『新浜君にはこれまでお世話になってばかりで、またお礼をしたいと考えているのですけど……どんなものを貰ったら一番嬉しいですか?』


(こ、これです! 今なら遠慮のない本当に欲しいものを聞き出せます!)


「あ、あの……!」


 特にやましい事なくこの珍しい状況を活かせる質問を思いつき、私は早速それを口にした。


「その……! 新浜君は、どんな女の子が好ましいと思いますかっ!?」


(は??)


 他ならぬ自分の口から発せられた問いに、私は数秒放心してしまった。


 な、何を言っているんですかわたしぃぃぃぃぃ!?

 

 思いついた質問とまるっきり違う事を発した自分の口が信じられず、私は激しく狼狽した。

 

 そ、そもそもどういう意図の質問なんですかそれは!?

 衝動的にもほどがあります……!


「好みかぁ……そりゃまあ、まず髪は長い方がいいなぁ……そんでもって背丈は俺よりちょっと低いくらい……」


「え……」


 その傾向が自分にあてはまる事に、何故か胸が跳ねた。

 さっきから休まらない鼓動が、さらに早くなる。


「性格は、とにかく優しくて笑顔が素敵な子だなぁ。頑張り屋で何にでも一生懸命で……はは、というか……」


 本当にさらりとした自然体で、新浜君は続きの言葉を紡ぐ。


「紫条院さんそのものが好みって言った方が早いなぁ……」


「――――」


 頭が、真っ白になる。

 思考と精神が衝撃で全部吹き飛んでしまって、自分が漂白されてしまった。


 いくら酔っているとはいえ、今のは流石に友達に対するジョークかリップサービス……そう考えて自分を必死に守る。

 そうでなければ、私は今にも全身から火を噴いてしまいかねない。


「~~~~っっっ」


 ふと気付けば喉が激しく渇いていた。

 自分の内から生じた熱で水分が残らず蒸発してしまったかのように、痛い程にカラカラに乾いており――


 ほぼ衝動的に、私は近くのテーブルに置いてあったジュース缶を手にとって喉に流し込んでいた。


(ふぅ……。…………あ、あれ……? 何か今、変な味が……あっ!?)


 そこで、ようやく熱にうなされたような意識に思考力が戻り、今自分が一息に飲み干したジュースが、新浜君が先ほど手放したお酒だった事に気付く。


「ありゃ……紫条院さんも飲んじゃったかぁ……」


「な、何をやってるんですかわたしぃ……え、なんですかこれぇ……。なんか、ふわふわして、ぽかぽかでぇ……?」


 そこで、もう限界だった。

 さっきから新浜君が与えて続けてくる熱、私の身体に入って意識を蕩かすお酒、そして、自分が無意識下に抑圧している何か。


 それがない交ぜになって、私の理性は熱い紅茶に注がれた砂糖のように、さらりと溶けてしまっていた。


「ふふー……んふふふー……」


 思考と熱が一体化してしまった私は、世界が単純になっていた。

 何も恥ずかしがったり、慌てたりする必要なんてない。

 

 今こんなにも幸せなのだから、それをもっと加速させればいい――


「新浜君……ふふ、ちょっと失礼しましゅねぇー……」


 心に一切の羞恥がなくなった私は、今度は自分の気持ちのままに腕を広げて――  

 今度は自分の意思で新浜君の身体を抱き締めた。


 胴から背中に手を回して、その身体にぎゅっと力を込める。

 ああ、心地良い。この固さと彼のにおいがとてもよい。


 どうして普段の私は、こんなに楽しい事をしないのだろう?


「そんなにも、私をよく思ってくれているんですかぁー……」


「おぉ、そうだぞー……紫条院さんより素敵な女子はいないしなぁ……」


「ふふふふー……本当ですかぁ……? なら、新浜君からも、もっとぎゅっとしてくださいよー……しっかりと、力強く……」


 離れないように、気持ちが伝わるようにぎゅっと――


「えぇ……いいのかぁ……?」


「いいんですよー……新浜君に、そうしてほしいんですー……」


 ふわふわに緩んだ気持ちで、私は腕の中の新浜君に笑いかける。


 そうして、私達はぽかぽかの気持ちのまま、お互いをぎゅっと抱き締め合う。

 

 ああ、とても安心する。

 新浜君は、とても特別だ。

 安らいで、満たされて、温かい――


「とっても……しあわせですー……」


 その天に昇るような気持ちを最後に――

 色々と限界だった私は、自分の内側に溶けるように意識を落とした。


■■■


「「…………………………………………」」


 夜道を走るワゴン車の中、二列目座席に座る私と新浜君は俯かせた顔を揃って真っ赤にしていた。


「いやはや、驚きましたよ。異変を察して皆様のところを駆けつけたら、お二人が仲睦まじく抱き合って寝息を立てていたのですから」


 運転席でハンドルを握る夏季崎さん――今回の海行きで運転手兼保護者役をやってくれたウチに勤める運転手さん――の声が広い車内に響く。


「しかしまあ、ご学友の皆様はまだ意識がありましたからな。車に乗って休むようにお願いしたら素直に動いて頂けたので大変助かりました。しかしお二人はガッチリと抱き合っており、引き離す事もできない状態だったのです」


 山平君達三人は車に乗るとすぐに眠ってしまったようで、今も三列目座席ですうすうと寝息を立てているのが聞こえてくる。

 正直、私もこのプルプルと羞恥に打ち震える地獄からそっちに行きたい。


「という訳で仕方なくお二人ごと抱え上げて車に乗せた次第で、先ほどお二人が目覚めた時に密着していたのはそういう事情です。ご理解して頂けましたか?」


「それは……その、ご、ご迷惑をおかけしました……」


 全ての事情を聞いた新浜君が、ひどく恥ずかしそうに頭を下げる。

 本当に湯気が立ち上りそうなほどに真っ赤だけど、私も多分同じような状態になっているだろう。


「ははは、いえいえそれくらいお安いご用ですよ新浜様。こちらこそ必要な説明だったとはいえ、お二人のお顔を熟れた苺のようにして申し訳ありません」


 場を和ませようとしてか夏季崎さんが戯けた様子で笑うけど、私と新浜君はただ顔の熱を上げるばかりで何も言えない。

 お互いの体温と匂いは、まだリアルな感触として残っているのだから。


「そ、その紫条院さん……俺って殆ど何も覚えていないんだけど……一体何があったんだ? その、もし俺が嫌な事をしていたら――」


「い、いえ……私も全然覚えていないので気にしないでください……」


 ……………実は、嘘だった。

 私は自分が酔ってからの記憶もしっかり覚えている。


 理性がどろどろに溶けてしまった瞬間から、私は新浜君に全力で抱きついてへらへらと締まりのない顔でその感触を楽しんでいた自分を……!


 その記憶があるからこそ、私はさっきから汗が止まらない。

 顔から火が出そうで泣いてしまいたい。


(ああああああぁぁぁぁぁぁ……っ! 私ったらどこまではしたない女子なんてですか! この世から消えてしまいたいほどの恥ずかしさです……!)


「だ、大丈夫か紫条院さん? なんかさっきからプルプルしてるけど……や、やっぱりなんか俺が何か変な事を――」


「覚えてません! あの時の事は何一つ知りませんから! 覚えてないったら覚えていませーんっ!」


 感情を処理しきれない私はつい必死な声を上げてしまい、新浜君を「お、おう……?」とちょっと困らせてしまった。


 どうあっても、記憶は生々しい。

 あの匂い、あの感触、あの時の自分の高揚はまだ私の中で色濃く残っている。


 そして、私はあの時間を――


(夢みたいなひとときだったって……そう思っちゃっています……)


 今も私をしきりに心配してくれている人。

 また一つ私の心を占める割合が増えた男子の顔を盗み見て――


 今日浴びた夏の日差しよりもなお熱を帯びたものを、私は自分の中に感じていた。




【読者の皆様へ】


■本日6月1日(木)に陰リベ小説4巻が発売です!

 3巻の壁を越えたぞぉぉぉぉ!

 これも発売後1~2週間の売上げが超大事なので、恥知らずにもご購入をお願いさせて頂きます……!

 表紙と挿絵の春華が全身エロの塊すぎる……ここまでエッチだと紫条院パパの『水着の春華がビーチを歩いたら危険』という親馬鹿が正論になってしまう……。


■陰リベ漫画版1巻が発売中です!

 ハ○ヒの文庫を持った春華の表紙が目印です!

 こちらも続巻のためにお手に取って頂ければ幸いです……!


■本編の遅れについて

 次章(最終章かは作者もまだ完全決定はしていません)の進捗はまだ全体の6割ほどです。作業やらプライベートやらでとても遅れており大変申し訳ありません。

 もう少々お待ちください……!


■この番外編について

 なんでオマケの番外編を8000字(WEB小説2~3話分)も書いてるんだ俺は??

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