第29話 期末テストの開始と結果待ち
※この29話に繋がる26話、27話、28話の改稿を行いました。(21/1/6 AM1:20頃)※特に26話は後半が大きく変わっています。
改稿理由・詳細については近況ノートの【「陰キャな人生を~」26話、27話、28話改稿のお知らせ】を一読ください。https://kakuyomu.jp/users/keinoYuzi/news/1177354055549240881
21/1/6(AM1:20)以前に26話~28話を読んでいた方は大変お手数ですが、29話を読む前に改稿版の26話~28話、もしくは最低26話の後半だけでも読み直すことを推奨します。本当に申し訳ありません。
雲一つない晴天のその日に――多くの学生にとって辛い試練である期末テストは実施された。
「カンニングを疑われる行為は慎むように! では――始め!」
教師の一声とともに、裏返しのテスト用紙を翻す音が教室に満ちる。
誰もが真剣な顔つきになり、シャープペンのカリカリ音が進み始める。
(よし……いける)
緊張の空気の中、俺が回答を書き込むスピードは落ちなかった。
俺が今世において積み重ねてきた勉強の成果は、この上なく発揮されている。
(ああ、テストって……いや、勉強ってどこまでも公平だよな……)
出題をクリアしていきながら、意識の片隅でそんな思考がよぎった。
もちろん人によってレベルアップ速度や成績の頭打ちに差はあるが、RPGゲームと同じで、努力した分だけ成績は伸びていく。
そしてその努力こそ、将来の幸せに繋がるのだ。
そう――俺が社畜の日々の中で夢想したはるか遠い理想郷……この世のどこかに存在するという伝説のホワイト企業にたどり着くための!
(それに、こうバシバシ解けると気分いいよな)
蓄積した学力で問題という敵キャラたちを次々となぎ払っていくのは中々の爽快感であり、前世ではしかめっ面の時間だったテストが楽しいものとさえ思えてくる。
多くの学生の苦悶と緊張が満ちる中で、俺は極めてリラックスした状態で手を動かし続け、その勢いが止まることはなかった。
「あー、体が軽い! やっぱりテスト終わると気分爽快だよねー!」
スポーツ少女の筆橋が、両手を突き上げて声を大にして言った。
すっきりとした様子で、なんとも晴れ晴れとした表情を見せている。
「いや、筆橋さんもうそれ何回言ってるんだよ。テスト終わったの先週だろ」
「あははは! 何回も言いたくなるんだもーん! これでテストのことを考えずに部活に専念できるし!」
俺のツッコミに筆橋が笑って応える。
そう、期末テストは特に波乱もなく先週に終了した。
そして勉強から解き放たれた二年生全体に明るい空気が満ちているのだが――
「でもその様子だと出来は良かったのか?」
「ふふんっ、舐めてもらっちゃ困るよ新浜君。運動好きなスポーツ系女子が頭が悪いなんて漫画のお約束は現実にはないからっ!」
「ははっ、別にそんなテンプレな偏見は持ってな――」
「まあ、私は普通に出来が悪かったけどねっ!」
「結局テンプレ通りじゃんかっ!?」
ああ、そういえばこいつ授業中の居眠り常習犯だった……。
「で、でもテストは終わったからいいの! しばらく勉強のことは忘れられるし!」
「でも筆橋さん。今日はテスト結果が廊下に貼り出される日ですよ」
「えっ――」
不意にメガネ少女の風見原が口を挟んできて、筆橋はピシリと固まった。
「か、風見原さん! どうしてそういうこと言うのぉ!? せっかく今まで忘れていたのにぃぃぃ!」
「ガチで悲痛そうな声を出さないでください。私が今言わなくても、現実はギロチンのように残酷な順位という形で突きつけられるんですから」
「ぎ、ギロチンって断定しないでよー! もしかしたら奇跡のファンファーレかもしれないでしょー!?」
「自己採点の結果は? ファンファーレは鳴りましたか?」
「ひぐっ……」
あまりにも残酷な一言に、筆橋はぐうの音も出ず撃沈する。
哀れな……。
「風見原さん……筆橋さんをイジメるなよ」
「そんなつもりはなかったんですけど……ストレートに喜んだり悲しんだりする筆橋さんが面白くてつい」
このミディアムヘアのメガネ少女は、普段どおりのマイペースさだ。
その表情にはテスト結果発表に対する焦りも不安もない。
「風見原さんはどうだったんだ? なんか自信ありそうに見えるけど」
俺がそう問いかけると、風見原は珍しく口の端を広げて不敵な笑みを浮かべた。
「ふふっ……メガネ女子が成績優秀なんて幻想ですから。平均点までいってれば万歳三唱ですが何か?」
「なんでドヤ顔なんだよ!?」
文化祭で一緒に仕事しまくり、歯に衣を着せなくてよくなった少女に俺はツッコんだ。
「そもそも英語とか日本人に必要なくないですか? 鎖国しましょうよもう。それがダメなら世界中を大日本帝国にして公用語を日本語にするとか。だいたい日本に観光に来ている外国人はどうして堂々と英語で道を聞いてくるんですか?」
「真顔でまくしたてるなよ! こえーよ!」
クールに見えて実はめっちゃ恨みに溢れてる……。
でも英語って高校の勉強の中では将来の実用性が高いんだよなあ。
「ん……?」
ふと視線を感じて振り向くと、銀次の奴が俺をじーっと見ているのに気付く。
それの意味するところは……『女子と楽しげで余裕そうだなお前……』あたりか?
「ねえねえ! 山平君はどうだったの!?」
「ふひゃ!?」
復活した筆橋さんに急に聞かれて、銀次が素っ頓狂な声を漏らす。
ああうん、懐かしい。
陰キャな男子高校生が陽キャ女子に話しかけられた時の王道のような反応だ。
前世における高校時代の俺もそうだった。
(大丈夫だ銀次。筆橋さんは優しいから緊張しなくていい)
(き、き、緊張なんてしてねーし!)
ボソボソと小声で告げる俺に、銀次も小声で返す。
うーん、顔真っ赤で声がどもる反応もなんか微笑ましい。
そうそう、女子と喋り慣れてないとそうなるよな。
「お、俺は、その……あんまり良くなかったかな……というか、かなり……」
「よーし! それじゃ私の仲間だねー! 一緒に現実ギロチンに首ゴロンされよっか!」
道連れを見つけてご機嫌になった筆橋にバシバシと肩を叩かれ、銀次は「ほひゅっ!?」と童貞の鑑のような反応を見せる。
いや、俺もまだ童貞なんで人のことは言えんけど。
「それで新浜君……紫条院さんのこの状態はどういうことなんです?」
「え……? わっ!? ど、どうしたんだ紫条院さん!?」
紫条院さんの席に顔を向けると、長い黒髪の美少女は両手を組んだ祈りのポーズのまま物凄まじく不安そうにカタカタと震えていた。
「あ……新浜君にみんなも……そ、その……これからまもなく結果がわかると思ったら落ち着かなくて……もの凄く緊張してるんです……」
廊下に貼り出されるのは100位以内の順位のみならず学年の平均点もだ。
なので、100位以内に名前がなくても自己採点と平均点を見比べれば大体の自分の順位はわかる。
「でも自己採点ではかなりいけたって言ってたじゃないか。そんなに不安にならなくても……」
「そ、そうなんですけど……何とも自分が信用できないんです。ケアレスミスを連発していないかとか、回答欄をズラして記入してしまってないかとか……!」
「ああ、わかります。最後の問題の答えを書こうとして、回答欄が一個足りないことに気付くあの時の焦りと言ったらケツに火がついたみたいです」
風見原ぁ! お前結構可愛い顔立ちをしているのにケツとか平気で言うなよ!
男子の女子に対する幻想を壊すな!
「わかるわかる! それでもう時間終了間際だったらパニックだよねー! 絶望しかない感じ!」
「その絶望を知っているってことは……筆橋さんやったんだなそれ……」
「うぐっ……」
銀次のポツリとした呟きに、筆橋さんが古傷を抉られたように苦悶する。
「うう……私はちょっと気分を落ち着かせるために飲み物でも買ってきます。成績発表を今か今かと待つこの時間はちょっと胃に悪いです……」
紫条院さんが席を立ち、心細そうな様子で教室から出て行く。
うーん……そんなに心配しなくてもいいと思うけど……。
(ああでも……いいなこういうやりとり。テストの後で『お前どうだったー』とか『俺今回全然できてねーわ』とか言い合うの。前世では銀次としかできなかったけど人数が多いと楽しいな)
これで御剣の馬鹿のことがなければ本当に平和なんだが……。
「しかし新浜……お前勝負があるのにずいぶんリラックスしてるな」
女子たちに聞こえないように、銀次がぼそりと小さく言う。
「ああ、そりゃ前にお前と話したように勝負なんて御剣が勝手に言ってるだけだからな。緊張する理由もないよ」
まあ、これからあいつは絶対に点数比べにやってくるだろうから、その点はちょっと気が滅入るけどな……。
「ただ、テスト自体はガチで勉強して受けた。自己採点では――」
「おい! 廊下に期末テスト結果貼り出されたぞ!」
ふと教室の外から誰かの声が響き、廊下が一気に騒がしくなる。
生徒が押し合いへし合いして混み合い、ザワザワと喧噪が満ちる。
「さてギロチンの時間ですよ筆橋さん。一緒に処刑台いっときます?」
「ま、待って! 心の準備させてよー!」
どうやら筆橋と風見原は一緒に見に行くようだが、まだ筆橋の覚悟ができていないらしい。さて――
「それじゃ俺は見に行ってくる。銀次はどうする?」
「い、行くぜ! 貼り出されるランキング100位以内に俺が入っていないのは確実だけど、学年平均点は見なけりゃいけないしな!」
意を決した様子で銀次が席を立つ。
「それにツレが一人でもいたほうが、御剣の馬鹿を相手にするときも多少は防波堤になるだろうが! お前を一人にはさせないぜって奴だ!」
「お前……やっぱいい奴だなあ。また一緒に飲みに行きたいよ」
「は……飲む? また一緒に?」
「あ、いや、言い間違えた。今度一緒にメシでも食いたいなって言いたかったんだ」
ふと前世でこいつと酒を飲んだ記憶が蘇り、口が滑った。
上司と飲む酒はゲロマズだったが、こいつと飲む酒は……いつも美味かった。
「さてそれじゃ……行くか」
特に気負いも緊張もない。
数字という明確な結果が待っている廊下へ、俺は銀次を伴って踏み出した。
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