第27話 イケメンは絶滅しないかな
※改稿を行いました。(21/1/6 AM1:20頃)
改稿理由については近況ノートの【「陰キャな人生を~」26話、27話、28話改稿のお知らせ】を一読ください。
https://kakuyomu.jp/users/keinoYuzi/news/1177354055549240881
21/1/6 AM1:20頃以降に初見の方は上記を読む必要はありません。
「……なんでそんな漫画みたいな展開になってるんだよ」
「俺が聞きたいよ」
昼休みの教室で、俺と銀次は弁当を広げていた。
そしてその会話の最中、俺が御剣という男子から『期末テストで勝負しろ! これは決定事項だ!』と一方的に告げられてしまったことを伝えると、銀次は呆れた様子だった。
「しかしまたえらいのに目をつけられたな……よりによって『王子様』の御剣隼人か」
「え? あいつマジでそんなあだ名なのか?」
「ああ、家は御剣グループを経営する一族で、本人もイケメンでスポーツ万能で成績優秀で、まるで少女漫画から出てきたみたいな俺様系だから女子たちはそう呼んでるらしい」
なるほど……そこまで完璧超人だからこそ紫条院さんを恋人にしたがっているのだろう。自分に相応しい『上』の女子を求めているのだ。
「けどなんでそんな奴が普通の高校にいるんだよ……私立の金持ち学校に行けば良いだろうに」
「中学は私立の名門学校に行ってたらしいけど……噂だと自己中すぎて他の金持ちの子どもとトラブルを起こしまくったから高校は普通のところを親に強制されたとか何とか」
「トラブルになっても問題にならない庶民しかいない高校にしたってか? 本当だとしたら迷惑すぎるだろそれ……」
ただまあ、あの性格じゃトラブルを起こしまくったという部分については信憑性が高いな。
「それにしても『勝負だ! お前が負けたら今後俺の好きな子に近づくな! はい決まりぃー! 俺が決めたから決まりぃー!』って小学生かよ。聞きしに勝る俺様ぶりだな……」
「まあ、ちょっと会話にならなかったな」
前世における高校時代の俺とは真逆の意味で、あの王子サマのコミュニケーション能力はかなりヤバい。
「でもまあ……結局お前は何の約束もしていないんだから別に何もする必要はなくね? 御剣が勝負だペナルティだと騒いでも付き合う必要はないし」
「ああ、そうだ。そうなんだが……俺はあいつを負かしてみようと思う」
俺がそう告げると、銀次は目を瞬かせて驚いた。
「もちろん俺はテストの点数で負けても約束もしてないペナルティなんて守る気はない。けど御剣の奴は自分が勝ったからどうのと絶対に大騒ぎする」
「話を聞いた限りじゃ100%そうだな……なんつうウザさだ」
「だろう? そしてその後は調子づいて俺への敵対行動がエスカレートしていくのが目に見えている。だからどうせなら、あいつが「さあお前の点数は何点だ!」って比べにきたところで勝って、鼻っ柱をへし折っておきたいんだよ」
御剣の奴と話していてわかったが、あいつは自信の塊だ。
自己の優位性を信じ切っており、俺をその辺の石ころだと思っている。
だからこそ、俺があいつに勝利することで奴に途方もない敗北感を与えることができるのだ。
「……できるのか? 相手はこの前の中間テスト1位だったんだぞ? まあお前は10位だったから勝ち目がないことはないだろうけどよ」
「ああ、本当に頭いいみたいだなあいつ。でもまあ……負ける気はない」
あいつは完璧超人かもしれないが、無敵ではない。
高校生レベルのテストで争う以上、勝てない道理はない。
「正直、あのクソ傲慢野郎には目に物を見せてやりたいしな」
あの腐れ王子が当たり前のように紫条院さんのことを『春華』と呼び捨てにしていたことを思い出し、俺は憎々しげに呟いた。
自宅の居間で俺はせっせとシャープペンを動かす。
期末テストは10科目あり範囲は中間より広いので満遍なく勉強が必要だ。
ちなみに前世では毎回赤点ギリギリから平均程度の成績だった。
(逆行や転生ラノベお約束のチート能力なんて付与されなかったからな。ただ地道に勉強するしかない)
俺が持っているものと言えばただ人生への激しい後悔からくる行動力と、社畜生活で鍛えられたメンタルと経験のみ。
そのおかげで紫条院さんには前世の高校時代よりはるかに接近できているが――
(けど……あの御剣みたいなイケメンが紫条院さんに先に告白したらどうなる?)
美形は無条件で強い。
いかに紫条院さんが天然ボケだとしても、真正面からあの美形力で愛を囁かれれば少なからずグっときてしまうのでは?
「イケメンは全滅しないかな……」
「え、なに、突然どうしたの兄貴」
近くのソファで雑誌を読んでいた妹の香奈子がギョっとした顔を向けてくる。
あ、なんだいたのかお前。
「最近以前にも増してガリガリ勉強してるかと思ったけど……なんかあった? 今の呟き、やたら恨みがこもってたよ?」
「ああ、うん、ちょっと王子サマからテスト勝負を挑まれてな……ハエが宝石に止まっているのが我慢ならないらしい」
「はぁ?」
わけがわからないという顔の香奈子に説明を要求されたので、俺は御剣との間にあったことを話してやった。
その王子の人気から、俺がそいつを打ち負かそうと考えているところも余さずだ。
「ふーん……その人そんなにイケメンなんだ」
「ああ、だからちょっと不安になっちゃってな……テストの点数比べに関係なく、もしああいう美形が紫条院さんに告白したらやっぱり心動かされてしまうんじゃないかって……」
「うん、まあイケメンって強いからね。美少女が嫌いな男がいないのと同じでイケメンが嫌いな女もいないし」
「うぐっ……」
それは当たり前のことなのだが、こうして陽キャでリア充の妹からはっきり言われると辛い。やっぱこの世はイケメン中心天動説なのか……?
「でもそれは中身もイケメンだった場合の話だよ。聞く限りではそいつクソだから全然気にしないでいいって」
「そ、そうなのか?」
「そそ、だってそいつの俺様王子ムーブってイケメンってフィルターがなかったら痛いってレベルじゃないっしょ?」
「まあ……普通の顔の奴がやってたら単なる頭のおかしい奴扱いで誰も近づかないだろうな」
「そんな奴をキャーキャーもてはやすのはとにかくイケメンならなんでもいい女子か、頭がヤバイほどのオラオラぶりを男らしさだと思ってる女子とかだから。まともなレベルの子にはまず敬遠されるタイプだよ」
「…………よくそんな分析がすっと出てくるな」
「え、だって私兄貴と違ってモテるもん」
「兄をディスるのは禁止だってこの前言っただろぉ!?」
陽キャでリア充であることを見せつける妹が辛い。
「まあ、男の子だっていくら美少女でも性格がクソ傲慢な奴とか付き合いたくないでしょ? ハードとソフトって同じくらい大切だし」
「確かに……」
思い出すのは前世で出会った本社から出向してきた美人OLだ。
自分は可愛いから許されるという自信に満ちあふれており、同僚や後輩をヒステリックに責め、上司には猫なで声で接して恩恵を得るのが常套手段だった。
最初はこんな美人と仕事ができるなんてラッキー!と思ったが、すぐに評価はただのクソ女に変わった。
本社に戻っていった時は心からほっとしたものだ。
「いくら顔が良くても暴言を吐いたりやたら傲慢だったりが許されるのは、それこそラノベやアニメの中だけだよな……現実にいるとマジでクソだ」
「そーいうこと。兄貴の大好きな紫条院さんはそんな見た目だけの王子サマになびく人なの?」
「いや、それは……考えてみたら全然想像つかないな。というか絶対ない。俺は一体何を悩んでいたんだ……?」
冷静になって考えてみるとあの傲慢男になびく可能性を考えること自体が紫条院さんへの侮辱でしかない。イケメンという自分に縁のない力を前にして少なからず不安になっていたようだ。
「うわ……最悪だ俺……。イケメンなだけでクラっとくるかもしれないなんて……紫条院さんにメチャクチャ失礼なことを考えてた」
「でしょ? だからイケメンに取られちゃうかもーなんて心配するのはアホだよ兄貴。そんなことに心のリソースが奪われたら勝てるもんも勝てないよー?」
言って、香奈子はへへーと笑った。
そこで俺はやっと気付く。
この一連の話は、俺の不安を取り除いて元気づけるためのものなのだと。
「そんな腐れイケメンより今の兄貴の方が3000倍カッコイイって! だから気にしないでガリガリ勉強して、コテンパンにしてしまえばいいから!」
「ああ、そうだな……ありがとう香奈子。テストが終わったらそのイケメンがどんな顔で負けたのか話してやる」
「その意気その意気! ラブ戦士の兄貴が負けるわけないって!」
前世では険悪だった妹の言葉だからこそ胸に染みる。
イケメンという世界共通の強者に対してもう心が僅かでも竦むことはない。
この無邪気な笑顔に応えるためにも絶対勝つと、俺は改めて心に誓った。
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