初雪の夜に

西川笑里

 初雪

「もしさ」


 ユートがあたしの肩に手を乗せて、あたしの瞳をジッと見つめていた。


「もし、来年の今日、雪が降ったら必ず紗千香を俺は迎えに来る。約束だ」


 ユートの吐く息は白く、そして闇夜にすぐに溶けていった。


「もし俺たちが結ばれる運命なら、必ず来年の今日雪が積もるはずだ。そのときは俺はきっと君がどこにいても拐いにいく。だから、今日のところは黙って行かせてくれ。彼女とはちゃんとカタをつけてくるから」


 ユートはそれだけ言うとあたしに背を向けた。その背中にあたしが声をかけた。


「じゃあ、待ってていいんだよね、ずっと。約束だよ」


 ユートとが振り向きながら頷く。


「もちろんだ。俺が愛したのはお前だけだ」


 親友の絵梨花は「バカね、あんた」と言って呆れていたが、ユートとあたしの心の結びつきの強さを知らないからそんなことを言うのだ。

 それが去年の今頃のことだった。


 ⌘


 ——ほら、雪が降り始めた。


 あたしは寝る前に降り出した初雪を見ながらユートとの約束を思い出していた。


 ——明日は必ず会える。


 そう期待に胸を膨らませながら眠りについたあたしは忘れていたのだ。この地方にはもう10年以上雪など積もったことがないことを。


 そして今年も朝にはすでに雪は消えていたのだ。


 ——もしかして、あたし、騙されたんじゃないよね?

 

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