学園のアイドルの家へ

「着きましたよ」


 学校から出て五分ほどで家に着いた。

 寝たフリをして外を歩くのは危険と判断したらしく、亜里菜は学校までタクシーを呼んでくれたのだ。


(いい匂いするけど部屋が見れない)


 女の子部屋特有の甘い匂いは本能を刺激されるが、目を開けられないから残念なことに部屋がどうなっているのかは分からなかった。

 辛うじてわかるのはマンションの三階に亜里菜の部屋があるというだけで、リビングと思われるとの部屋に何が置いてあるのかすら判別出来ない。


「ここが私の部屋ですよ」


 寝室らしい部屋に案内されると、さらに強烈な甘い匂いがした。

 まさかいきなり寝室に案内されるとは思っておらず、悠真はどうしようか戸惑ってしまう。


「亜里菜の部屋、いい匂い……」


 寝たフリを続ける、という選択肢しか思い浮かばず、とりあえず思ったことを口にした。


「もう……でも、目を瞑っていたら見えないですよね。起きられたら困りますけど」


 まだ起きるわけにはいかないらしく、このまま寝たフリをしているしかない。


「私が悠真くんのために部屋の説明をしますね」


 説明するのは、このまま寝ぼけていてほしい、という亜里菜の願望が出ているかのようだ。

 初めて異性を部屋に入れただろうから、今の亜里菜は頬が赤くなっているだろう。

 直接見れないのが少し惜しいが、今目を開けるわけにはいかない。


「間取りは1LDKで今いるのは私の寝室です。可愛いぬいぐるみなど置いてありますよ」


 女の子らしい部屋なようで、亜里菜は手に取ったぬいぐるみを渡してくる。

 手触りからして犬のぬいぐるみだろう。


「リビングにテレビがあるから寝室には置いてありません。ピンクが好きなので、カーテンやベッドはピンクにしてあります」


 目を瞑っていると色の情報が分からないので、説明してくれて助かった。

 チラッとだけ目を開けたくなってしまったが、もし目が合ってしまうんじゃないかと思うと開けられない。

 でも、いつまでも寝ぼけたフリをするわけにもいかず、いつかは目を開けないといけないだろう。

 そのタイミングを見極めないと、今後の生活に支障が出るかもしれないから慎重になる。


「説明は終わったことですし、今からベッドでイチャイチャしましょうね。まだ寝ぼけているようなので、いきなり襲われる心配はないですよね。でも悠真くんに求められたら……初めてを捧げてしまうかもしれません」


 「きゃ……」と恥ずかしそうな声を亜里菜は出す。


(本当に寝ぼけた俺相手なら積極的だな)


 そう思っていたら、亜里菜に誘導されてベッド中に入る。


「亜里菜のベッド、ふかふか……」


 当たり前だが、保健室のベッドより気持ちよく、このまま寝たら熟睡出来るだろう。

 しかもベッドは亜里菜の匂いが染み込んでいて、さらに本能が刺激される。


(女の子は何でこんなにもいい匂いがすりのだろうか?)


 ずっと亜里菜にくっついているというのにも関わらず、相変わらず彼女の甘い匂いでいっぱいだ。

 目を閉じていて嗅覚がいつもより過敏になっている可能性はある。


「えへへ。悠真くんとイチャイチャしてます。幸せすぎますよ」


 よほど嬉しいようで、亜里菜の声は嬉しそうだった。

 今目を開けたら笑みを浮かべている亜里菜を見れるだろうが、このまま寝たフリを続けるしかない。


「俺も、幸せ……」


 寝ぼけたフリをしながら素直に思ったことを口にした。

 実際に亜里菜と一緒にいるのは悪い気はしないので、ずっとくっついていてもいいと思うくらいだ。


 幸せ、という言葉が聞けて嬉しくなったのか、亜里菜は「えへへ」と口にする。


「悠真くんは私のこと好きですか?」


 心の中でう……と思ってしまった。

 好きな人が自分のことをどう思っているか知りたいのだろう。

 寝ぼけつつも反応はしているので、この質問に答えなければいけない。

 都合の悪いことだからスルー出来るかもしれないが、答えなければその内また聞かれるだろう。


「好き……」


 好きか嫌いかと聞かれたら好きなので嘘ではない。

 まだ恋愛対象として見れないが、このままいけば本当に好きになる可能性だってある。


「えへへ。じゃあ付き合える日も近いかもしれませんね」


 今この場で肯定は出来ない。

 肯定すれば間違いなく付き合うことは出来るが、これ以上は本当に好きになっからじゃないとダメだ。


「悠真くん、私に勇気が出たら寝ぼけていない悠真くんに告白するので待っていてください」


 絶対に他の女の子の元に行かないでほしい、そんなことを思っていそうな亜里菜にギュッと抱き締められた。


「流石に唇には付き合ってからの方がいいですよね。だから保健室と同じことにキスをします」


 「ちゅ……」と保健室の時と同じ頬にキスをされたが、今度は我慢して反応することはしない。


(女の子はどこも柔らか過ぎる)


 抱き締められているから女性らしく大きく育った部分も柔らかいし、もちろん唇も柔らかい。

 未だに寝たフリをしている俺はクズなんだろうな……と思ってしまうが、それでもあの柔らかい感触を味わいたくてしょうがなかった。


「絶対に好きって言えるようになりますからね」


 俺も好きになったら告白する──そう心に決めた悠真であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

寝たフリをすると学園のアイドルにお持ち帰りされる件 しゆの @shiyuno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ