寝ぼけたフリをしてたらお持ち帰りされた
「え……」
抱き締めたまま目が合ったことで、亜里菜の頬が真っ赤に染まる。
先ほど亜里菜は明らかに頬にキスをしてきたのだし、気づかれたと思って恥ずかしくなったのだろう。
しかも愛まで囁いたのだから恥ずかしくならないわけがない。
恐らくは亜里菜が頬にキスをしたのも初めてのはずだ。
(どうしよう……)
起きたとなれば亜里菜の告白を聞かなかったのと、頬へのキスを気づかなかったとこには出来ないだろう。
「んん……むにゃむにゃ……」
少し考えた結果、まだ寝たフリ……といか寝ぼけているフリをすることにした。
寝ぼけていれば先ほどの言動を分からなかったことに出来るし、きっと亜里菜も聞かれたくなかっただろう。
もし亜里菜に好き好きアピール出来るのであれば、もっと仲良くしようとしてくるはずだ。
本当に好きになったのは今日だとはいえ、四月から好意は持たれていたのだから。
「寝ぼけているようですね。なら大丈夫そうです」
ホッとしたかのような声が聞こえた。
どうやら告白と頬へのキスされたことは気づかれていないと思ったらしい。
悠真も心の中で安心する。
(にしても寝ている相手には積極的なんだな……)
相手が起きていたら反応するから恥ずかしい、と思っているかもしれない。
寝ている相手なら亜里菜も素直に好意を伝えられるのだろう。
(このままでいたらもっと言ってくれるのかな?)
愛を囁かれるのは嫌じゃないので、このまま寝ぼけたフリをすることにした。
今の時間も分からないし、放課後になっていたら帰りたいが、今起きたら亜里菜が恥ずかしがって大変なことになるだろう。
叫ばれて誰か来てしまえば、悠真が強姦魔扱いされる。
だから寝ぼけたフリをしているのが一番だろう。
「佐々木く……悠真くんが寝ぼけているのであれば、また言ってもいいですよね」
一瞬だけ抱き締めるのを止めようかと思ったが、何故か亜里菜が背中に腕を回してきた。
先ほどより柔らかい感触と甘い匂いが脳天を直撃してきて、このままでいるのが辛くなってきてしまう。
いくらその気がないとはいえ、美少女に抱き締められたら理性を保つのが難しくなる。
何でいきなり名字から名前呼びに変わったか分からなかったが、寝ぼけている今は聞く訳にはいかない。
「んしょ……」
未だに抱き締められている亜里菜は少しだけ上の方へと移動したらしい。
一瞬だけ何で移動したのか分からなかったが、耳に感じる吐息から判断出来た。
「悠真くん、愛してますよ」
耳元で愛を囁くために移動したのだろう。
声優顔負けの甘い声に思わず反応しそうなったが、亜里菜が保健室から出るまで起きるわけにはいかない。
たとえ何時間かかろうと、だ。
亜里菜が愛を囁く前に起きれば……いや、別のベッドで寝ればよかった、と悠真は後悔した。
同じベッドで寝たいと思った自分が憎い。
「今日は生理が重くて昼休みから保健室に来ましたが正解でしたね」
真面目な亜里菜が保健室に来た理由が明らかになった。
確か四月も生理が重いからって保健室に向かっていたな、と思いながらも、悠真は寝ぼけたままでいる。
(薬は飲んでるって言ってたんだけどな……)
どんな薬かは知らないが、以前に保健室に来た時は飲んでると言っていたはずだ。
「悠真くんの寝顔可愛い……お持ち帰りしたいです」
決して悠真は際立ったイケメンというわけでも可愛い顔でもないため、亜里菜には惚れた補正がかかっているらしい。
(え? お持ち帰り?)
このまま寝ぼけていたら、亜里菜の家に連れていかれるのだろうか。
普段の亜里菜は明らかに草食系……でも、寝ている悠真が相手だと肉食系になってしまうらしい。
流石にこれ以上寝ぼけたフリはマズい、とも思ったが、美少女である亜里菜の部屋を見てみたい気持ちの方が強かった。
「ん……亜里菜の家に、行く……むにゃむにゃ……」
寝ぼけたフリをしつつも言ってみる。
「え? 起きてるんですか?」
都合が悪いのは寝ぼけたフリをしてスルー。
「まだ寝ぼけているようですね」
安心しかたのような吐息が彼女の口から漏れる。
反応したのだし実は起きていることを悟られてもおかしくないが、亜里菜は寝ぼけていると信じこんでいるらしい。
「どうやら悠真くんの寝起きは悪いようですね。新たな発見です」
亜里菜の言葉から察するに、どうやら今までも見られていたようだ。
気になっている相手を見てしまうのは仕方のないことだろう。
「このまま寝ぼけていてくれたら家に連れて行けそうですね。高校に入学して一人暮らしを始めたので邪魔者はいませんし。それにもう放課後で校舎には部活動していいる人以外は帰っているでしょう」
こちらも新たな発見をした。
亜里菜が一人暮らしをしていると知っている男子は他にいないだろう。
ただ、思っていたより寝てしまっていたらしい。
「一人暮らししている亜里菜の家に、行く……むにゃ……」
あくまで寝ぼけた人が出すよな声で行きたいことを告げる。
「じゃあ、私が支えてあげますから行きましょうね」
一度抱き締めるのを止めて立ち上がり、寝ぼけているフリをしながら亜里菜とくっつきながら帰った。
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