第8話
「この子が奏空(そら)くんです」
「おぉ!可愛いじゃないか!」
卒業して八年後、俺は懐かしい後輩に呼び出された。
生まれた子供が可愛いから見せびらかしたいと言われて……。
相変わらずの綺麗な容姿で宣言通りにテレビに出ている。今は育休でテレビには出ていないけど。
「まだ一歳か」
「そうなんですよ~。ほらぁ、ソラくん。加賀見さんですよ」
赤ん坊を俺に差し出し、半ば強引に抱っこさせる後輩。
もう少し赤ん坊を大事にした方が良いんじゃないだろうか。
抱きしめてすぐ泣き出すかと思いきや、彼は大人しいもので静かに綺麗な瞳で俺の事を見上げてきた。
「あぅ……あぁぅ!」
「ん?」
ぺちぺちと顎のあたりを叩かれる。何が嬉しいのかはわからないが、機嫌がよさそうに俺の顔や胸を叩いている。
「懐かれてる?」
「やっぱり先輩は先輩ですね」
「意味が分からん」
首を傾げている間も奏空くんの攻撃は止まない。不安なのかと思い、ちょっと腕を揺らしてやる。
「先輩はまだ独り身ですか?」
「言うな」
最近はいろんな方面で言われることだ。
「繭は結婚しましたよ?」
「言うな」
「宏太も結婚しましたよ?」
「そこで夫婦なんだから当たり前だろ」
「夢も……同棲してますよ」
「知ってるよ」
何が楽しいのか俺をからかい続ける後輩。
奏空くんは腕が疲れたのか全身を俺の腕に預けて、ゆったりしている。
「先輩はなんで独り身なんですか?」
後輩の言葉に俺は不機嫌を表すように大きく溜息を吐いた。
「振られ続けてるからだよ。言わせんな」
大きな声を出したと思い、腕の中にいる赤ん坊に目を向けたが、奏空くんは我関せずスヤスヤと寝息を立てていた。
そして、そんな我が子を見ながら、彼女は嬉しそうに微笑んでいる。相変わらず笑顔の綺麗な事……。
加賀見 八尾(かがみ やお)、25歳。
彼女は未だ無し。
今もなお独り。
そして、未だにその理由はわかっていない。
目の前にいる彼女は分かりやすく悩む俺の姿を見てニマニマと昔みたいに意地の悪い笑みを浮かべている。
訳知り顔がウザいことこの上ないが、小さなプライドが邪魔をして彼女に相談を持ち掛けようとはしなかった。
旧姓・柳沢 奏とはこの後もちょくちょく会うこととなる。
そのたびに俺は同じ問いを投げられ、彼女の綺麗な笑顔を見る羽目になった。
Why are you lonely? 八神一久 @Yagami_kazuhisa
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