第130話 それぞれの代表者
とりあえず僕らの家に落ち着いてから、アラニャにカルラ達の事を話した。
アラニャはギュッと目をつぶってしばらくしてから、僕を見た。
「アル様、大丈夫ですか?」
「うん? 大丈夫だよ」
僕が微笑んで見せると、アラニャはしかめっ面になる。
「ここには家族しかいませんから大丈夫ですよ」
アラニャがそう言うと、ブランも僕を見て「ウォン」と鳴いて、ドロリスさんも「そうよ」と言うので、僕はブランの首筋をモフモフとなでた。
「3人ともありがとう、でも僕よりもカルラやコタロウの方が辛いはずだからさ」
そう言った瞬間にアラニャが抱きしめてくれた。
「悲しい時は泣いていいと、辛い時は愚痴っていいと、アル様が私に教えてくれました。たまには私達を頼ってください」
アラニャがそう言ってギュッとしてくれるので、しばらく甘えて僕は顔を埋めた。
僕が落ち着いた後で、アラニャはドロリスさんにブランの命を救ってくれた礼を言った。ドロリスさんは「気にしなくていいわよ」と答えたけど、アラニャは、何度も、何度も言う。
そして、再び僕を見た。
「ダッキの主人のエヴェリナという姫様はどれぐらい信用できそうなのですか?」
「正直、そっちはわからない。だけど、ダッキが一緒なら大丈夫だと思う」
僕がそう答えると、アラニャは「そうですね」と頷く。するとドロリスさんが微笑んでアラニャに抱きついた。
「あんたのせいじゃないからね。まったく」
アラニャが「えっ?」と驚いてドロリスさんを見下ろすと、ドロリスさんは「主従は本当によく似るわね」と見上げながら笑う。
「責任を感じなくていいのよ。確かにあんたがいればあの場は退けられたかもしれない。だけど、そうなったら騎士団が動いたわよ。それに、もしかしたら教会騎士団も出張って来たかも知れないわ」
「退けただけで、そんな大事になるのですか?」
アラニャが目を見開くと、ドロリスさんは頷く。
「なるわよ、仮にも王太子と王国が誇る四龍のうちの2人を退けたとなれば、アルフレッドとその従者は討伐対象になる。そしたら騎士団が動くわよ。もし仮に動かなければ、きっと王妃が動かすわ」
「どうしてですか? アル様は悪い事してないですよね?」
「そうね。でもそんな事は関係ないのよ。自分達の立場を揺るがしかねない者は排除する。それが権力者ってやつなの。例えば、同じ狩場に少し強い魔獣が現れたらどうする?」
ドロリスさんにそう聞かれたアラニャは少し考えてからドロリスさんを見た。
「群れ総出で追っ払うか、ダメなら殺しますね」
アラニャがそう答えると、ドロリスさんは「そうよね」と頷く。それに、アラニャは少し目を閉じた。
「それで、騎士団ってのは王国の騎士団ですよね? だけど、教会騎士団って、なんですか?」
アラニャが首を傾げると、ドロリスさんは頷く。
「教会は表向き巡礼を行う信者を守るという名目で、騎士団を持っているのよ。顔まで隠した白いフルプレートに身を固めた者達で、なかなかの手練れ揃い、神に身を捧げた殉教者達で入団の際に名前は捨てて数字で呼ばれるらしいの」
「なんですか、その異様な人達は?」
アラニャが顔をしかめるとドロリスさんは頷く。
「そうよね。本当はキジョみたいな土地付きの巫女や神とか、女神とか呼ばれている魔獣。要は絶対神の存在を揺るがしかねない者達を排除する為に組織されたからね。強いし、不気味よね」
ドロリスさんが「ウェッ」と下を出すと、アラニャは「そうなのですね」と頷いた後で首を傾げた。
「でも、なんで教会がそんなに力を持っているのですか?」
ドロリスさんは「それはね」と言いながら僕の腕を指さす。
「あの腕輪よ。王国の大半の人達はあれでお金を教会に預けているの」
「多額の資金がある」
「そうよ、あんたもアルフレッドと旅して来たからお金の強さはわかるでしょ?」
ドロリスさんがそう言うとアラニャは「はい」と答えた。
夕食の準備が出来たようで、オークの女性が呼びに来たので、僕らはその人について食堂に向かう。
食堂はものすごい人で、活気に満ちていたが、僕らが入り口から入ると静かになった。
「ほらほら、普通にしないとアル様が気を使っちまうよ」
奥の方の席にいたオドリーさんがそう言うと、再びみんなは動き出して、ガヤガヤとした。
奥の席に通されるとオランドさんとオドリーさんがニッコリと笑って迎えてくれたので、僕は「ありがとうございます」と頭を下げる。
オドリーさんが、よくまとめてくれているから助かるよね?
僕がそう思って頭を上げると、オドリーさんは驚いた顔をした後で「私は馬鹿だね」と呟いて、そして、その場にひざまずく。
「主人に頭を下げさせるなど恐れ多い事、私の配慮が足りませんでした。申し訳ございません」
そう言って頭を下げるオドリーさんに「やめて下さい」と僕は駆け寄って顔を上げさせる。
「本当にまとめてくれて助かってますし、僕は主人だとしても助けてもらったら頭を下げたいです。感謝したらありがとうと言いたいし、申し訳ないと思えば謝りたいです」
「アル様……」
「ダメですか?」
僕がそう聞くとオドリーさんは僕の手を取って立ち上がり「いえ、素晴らしいお考えです」と頷いてくれた。
食事が運ばれて来た。
人族に合わせたホーンボアやファングディアの肉を使った料理で、ゴロゴロと大きめに切った野菜と一緒に煮込んだ料理。もちろん美味しいし、それにパンをつけて食べるとさらに美味しかった。
みんな食事を終えると、話し合いが行われた。この先についてという事だけど、僕は黙って聞いていた。
よくわからないもんね?
すると、オークさん達の代表はこれまで通り、オランドさんとオドリーさんに決まり、人族の代表を誰にするかで揉めているようだった。
確かに、タウロの街と、ウロスの街の人達がいるからね。ややこしいのだろうと思うよ。
僕はそんな風に思いながらみんなを見ていたのだが、1人の男性が僕を見た。
「アルフレッド様、やはりここはタウロの街とウロスの街で1人ずつ選ぶのが妥当だと思いませんか?」
いきなりそう聞かれたので驚いたけど、僕は首を傾げた。
「それでみんながまとまるならいいですよ」
僕がそう言うとタウロの街の人達もウロスの街の人達も「えっ?」と驚いた。
うん? おかしかったかな?
僕が再び首を傾げるとアラニャが咳払いをする。
「なにか誤解があるようですので、この際ハッキリさせましょう。こちらでアル様の下、オランドさん達と一緒に暮らすと決めたなら、タウロもウロスもありません。そんなくだらない事にこだわるなら、今すぐにタウロとウロスにお帰りください」
アラニャがそう言うとセレニアスの執事が「それなら」と立ち上がて「やはり、貴族である坊っちゃまがまとめられるのが……」と言ったが、セレニアスが「ラシャド、やめろ」とそれを諌めた。
「しかし、農民達は読み書きも計算も満足にできません。それでは」
「だから、やめろと言っている。僕はもう貴族ではないし、アル様の温情で許されたが、他の皆さんは正直良くは思っていないだろう。僕はセレニティの息子だ。皆さんから大切な人を奪ったのは僕の母様なんだ」
セレニアスがそう言って顔を歪めると、最初に僕に話を振った男の人が「いいんじゃないか?」と言った。
「俺たちは執事さんが言った通り、読み書きも満足じゃねぇ。難しい事もよくわからねぇ。だったら難しい事は坊ちゃんに任せた方がいいんじゃねぇか?」
男の人がそう言うと、周りも「そうだな」「そうね」と同意していく。
「本当にいいのですか? 僕は……」
セレニアスが泣きそうな顔でみんなを見渡すと、みんなが頷いた。そして、子供を抱えた女性が立ち上がった。
「あなたはアル様に生きて償えと言われたんでしょ? だったら私達に償ってみせて、あなたにはその責任があるはずよ」
それに、一瞬戸惑ったセレニアスは「わかりました」と泣き出して「必ず償ってみせます」と頭を下げると、拍手と共に「がんばれよ」と言葉が飛ぶ。
そうして、オークさん達の代表者と人族達の代表者が決まった。
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