第129話 新しい村人

 オランドさん達の村の入り口で、僕らは見たことのない人族達に囲まれた。


 だけど、みんな笑顔だね?


 それに、口々に「おかえりなさい」と言ってくれるので、僕はその人達を見回しながら首を傾げた。


 なんで?


「タウロの街の人達ね」


 僕に背負われているドロリスさんがそう言うと、人だかりをかき分けてその男が僕達の前に出て来た。


「アル様、おかえりなさい」

「うん? ポプキンズ?」


 僕が首を傾げるとポプキンズは頭を掻く。


「すみません、タウロの下町のみんなが、もうあの貴族達の下では生きていけないって言い出しまして」

「うん、それでみんなでこっちに来たって事?」

「アル様の村で暮らそうと言う事になったんです」


 そう言ったポプキンズが僕を見るけど、僕はオランドさんを見る。


「ここはオランドさん達の村だからオランドさん達がいいならいいよ」


 僕がそう言うと、老婆を背負ったオランドさんは困り顔で笑う。


「ウロスの街の人達を受け入れるのに、タウロの街の人達を受け入れない訳にはいかないですよ」


 オランドさんがそう言うと「本当にオドリーさんの言ってたような人だな」とポプキンズの後ろにいたおじさんが笑い出して「本当だな」とタウロの街のみんなが釣られて笑った。


 とりあえず、みんないい人そうだし、大丈夫そうだよね?


 僕がその人達を見てそう思っていたら、ポプキンズが首を傾げた。


「それで、アル様が背負われている方はどなたですか?」

「うん? ドロリスさんだよ」


 僕がそう答えると、ポプキンズもタウロの街のみんなも驚いた顔をした。


「ドロリス様って、ドリアード様ですよね?」

「そうだよ。進化したんだって」

「えっ? 進化って、デメテル様ですか?」


 ポプキンズがそう言った瞬間にタウロの街の人達がその場でひざまずく、おじさんも、姉さんも、小さな子供まで全ての人がひざまずいた。


「我らを救ってくださったドリアード様が、豊穣の女神様に進化なされた」


 そう言ったお婆さんは胸の前で合わせた手をこすりながら泣いている。


 そして、後ろの方のおじさんが「それにしてもずいぶん幼女だな」と言うと隣のおじさんが「なに言ってんだ、幼女神こそ神だろ?」と返す。


 もちろん2人とも奥さんぽい人に頭をペシッと叩かれた。


 ひざまずいて泣いているお婆さん、お爺さん達がみんな拝み始めると、オランドさんが頷く。


「俺達も命を救って頂いた。確かにドロリス様は女神様なのかも知れないですね」


 僕が「そうだね」と返事をすると「感謝されるのは嬉しいけど、拝まれるのは落ち着かないわね」とドロリスさんが言った。


「それでポプキンズ、アラニャは?」


 僕がそう聞くとポプキンズが頷く。


「オドリーさん達と狩りに行ってますよ」

「そっか」


 僕が安堵して頷くと、ポプキンズが首を傾げた。


「それで、カルラさんとコタロウさんがおられないようですが?」


 僕はそれに頷くと、その場にいた人達にウロスの街での出来事を話した。この村で暮らすなら関係ない訳じゃないからね。


 簡単に言えば、僕は王族と敵対する事になるのだ。もちろん中には、話を聞いてこの村を出て行く人もいるだろう。


 だけど、だからといって内緒にはできないよね?


 そう思って話を全て終えると、ポプキンズは唖然としながら僕を見て、他の人達も誰もなにも話さなかった。沈黙。


 そうなるよね。思い切って住み慣れた街を出てきたんだ。なのに……。


 タウロの街の人達は一様に肩を落として、中には小刻みに肩を揺らしている者もいる。そして、ポプキンズが少し気を取り直したのか、僕を見て首を傾げた。


「アル様は王族って事ですか?」

「そうなるみたいだね」

「現王国と敵対したって事ですか?」

「うん、そういう事になるね」


 僕はポプキンズの質問に答えながら、苦笑いを浮かべた。


 だって、我ながら笑える話だもんね?


 そして、僕が「なんか、ごめんね」と謝ると、俯いていた女性が顔をあげて「なぜ、アル様が謝られるのですか?」と聞いた。それに「そうだな」と次々にみんなが同意してくれる。


「アル様はこの地のために尽力された。褒められる事があっても、そのように理不尽に従者を奪われたり、傷付けられていいはずないですよ」


 そう言ったその女性が泣き出すと、他にも数名が泣き出した。なので、僕は「ありがとう」と答える。


「元より我らは、アル様と共に生きていくと決めておりました。我らに出来る事があるならばなんなりとお申し付けください」


 ガタイのいい男性がそう言うと、みんなが「そうだ」と声を上げる。


「うん、ありがとう。みんなにはここで種族関係なく仲良く暮らしてもらいたいです」


 僕が頭を下げてからそう笑うと、みんな「わかりました」と頷いてくれた。


 みんなには笑って暮らして欲しいもんね。


 そんなやり取りをしていたら、アラニャが飛んで来て「アル様」と抱きしめてくれる。そして、その後でドロリスさんを睨みつけて「誰ですか? この女?」と言った。


「アラニャ、こちらがドロリスさんだよ」


 僕がそう言うと僕に背負われているドロリスさんが、いつものように腰に手を当てて胸を張る。


「アラニャ、よろしく頼むわ」

「頼む人の態度じゃないですよ。だいたいなんで背負われているんですか? うらやましい。今すぐにアル様から降りなさい」


 アラニャがそう言いながらドロリスさんに飛びかかるとドロリスさんが「嫌よ」と応じて、僕の背では不毛な争いが開始された。たまに取っ組み合っている手が、僕にも当たるから地味に痛い。


 そして、オドリーさん達も戻ってきた。


「あらあら、これは、なんの騒ぎかしら?」


 オドリーさんが首を傾げてオランドさんを見ると、オランドさんが速やかにここでのやり取りを説明した。それを聞いたオドリーさんは頷いて、パンパンと手を叩く。


「ウロスの街の皆さんはみんなお疲れですから、タウロの街の皆さんは部屋の用意をしてください。私達は食事の準備をしますから、この先についての細かい話はウロスの街の皆さんが休まれて、食事をしてからにしましょう」


 オドリーさんはそう言って、ニッコリ笑う。


 するとタウロの街の人達は立ち上がって「これはすまない」と言いながらウロスの街の人達の荷物などを持ってあげたりして、村の中に案内を始めた。それを確認して頷いたオドリーさんが僕を見た。


「アル様、おかえりなさい」


 オドリーさんがそう言うので、僕は「ただいま」と返す。そして僕もウロスの街の人達に続いて、村の中に入った。

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