第128話 ドロリスの花園と帰還
ウロスの街のみんなが避難し終えた後で、ネントゥさん達によって街に火がかけられた。複雑な表情でそれを眺めている街の人達。中には泣いている人もいる。
そして、泣いている人達が落ち着いた後で、オランドさんの村に向けて移動を開始した。足の悪い老人達はみんなオランドさん達が背負う。
初めはみんな恐縮していたが、少し歩くと慣れて、昔話などを始めた。語られるのは夫や妻との馴れ初めや、子供達の思い出、孫の話。
その誰もがもうここにはいないけど、お爺さんやお婆さんの心の中にだけ、ずっと残る。嬉しい事も、悲しい事も、笑える話も、その全てが愛の証として。
それから、ネントゥさん達やダッキ、ナタクさんは王都に戻っていった。カルラ達の事やお爺様への連絡を頼む。みんななら上手くやってくれるよね。
なので、僕はオランドさん達の護衛をブランに頼んで、ドロリスさんのところに向かう事にした。
お礼を言わないといけないもんね?
僕はみんなと別れるとすぐに身体強化で森の中を疾走した。だけど、1人になると何かわからないモノが自分の底の方から込み上げて来て、視界がにじんだ。
嗚咽を我慢して歯を食いしばると、抑え込もうとしていた感情が、フツフツと湧き上がる。悔しさが押し寄せて、ドロドロと底の方で黒いモノが渦巻いていた。
それは僕の中にある、認めたくない感情。
だけど、カルラが止めてくれて、ドロリスさんがみんなを助けてくれた事で、なんとか押し止められたと思う。
僕は胸を手を当てた。
この感情にいつか飲まれてしまう日が来るのが怖い。激情のままに……。
僕は涙を拭いながら、先を急いだ。
気がついたら日が落ちていて、僕は少し開けたところを見つけると野営をした。簡単に炙った肉で食事をして、焚き火を見つめる。
バチバチとはぜるそれを見ると、心が落ち着く。だけど、代わりにいろんな事を思い出してしまうから、その日は早めに寝た。
そして、2日ほどでドロリスさんの花畑に着くと、やはり花畑は枯れていた。ドロリスさんの木もあの綺麗なピンクの花はみんな散って、立ち枯れている。
僕がしゃがみ込んで花に触れると、ボロボロと崩れて土に戻って行った。瞬間に待っていたかのように僕が触ったところから波紋が広がり、全てが崩れて土に帰った。
そして、あの木があった場所にも小さな灰の小山ができる。
グドウィン家の授業で習った。生命はこうやって再び生命の循環に帰って行くのだそうだ。
だけど、それでも悲しかった。
僕はその灰に足を踏み入れた。ゆっくりあの木が作った小山のところまで行って、その灰を一握りだけすくう。
この全てがドロリスさんだから、丁寧にすくった。
「ごめんね」
僕がそう言って手に握った灰を見ながら涙を流すと「ハァ」とため息を吐いたドロリスさんが「本当よ、遅かったじゃない?」と言った気がした。
「アルフレッドはさ、私を殺す気なの? まったく」
「ドロリスさん?」
僕がそう言うと、灰の中からムクッとその子は起き上がった。
「アルフレッド、遅いわよ。もう私、シワシワなんだからね」
女の子はそう言ったがどう見てもピチピチだ。しかも、何も着ていないので灰から飛び出た上半身が丸見えで、目のやり場に困る。
「ドロリスさん?」
「なによ、感動の再会なんだから、抱きしめてくれてもいいんじゃないの?」
「そうしたいところなんですけど、その前に服を着てください」
僕は目を背けて、マジックバックから予備の服を出して渡すと、ドロリスさんは「仕方ないわね」と言いながら灰から出てきて、僕の渡した服を受け取る。
しばらくして「これでいいの?」とドロリスさんが声をかけてきたので、そちらを見ると、とりあえずブカブカだけど服は着れたようだ。
なので、袖と裾をまくって、それからシャツをズボンに入れる。
そして、僕が泣きながらドロリスさんを抱きしめると、ドロリスさんは僕の腕の中で「痛いけど、嫌じゃないわね」と言った。
それから生命力の補給をおこなうという話になる。
「私はもうカラカラなのよ。アルフレッド、少し生命力を寄こしなさい」
「いや、わかるんですけど、なんでキスしようとしているんですか?」
「いいじゃないの、減るもんじゃないし」
「いや、ポールさんはどうしたんですか?」
僕がキスしようとするドロリスさんの両肩を掴みながら抵抗していると、ドロリスさんは「ハァ」とため息を吐いた。
「あんた、私の献身に感動したわよね?」
「しましたけど、それとこれとは話が別ですよね?」
「細かい事言っているとモテないわよ。だいたいこれからキスしようって時に、元カレの話を持ち出すなんて最低よ」
「だから、しませんって」
しばらくそのせめぎ合いをした後で、ドロリスさんは「今回だけよ。次は妥協しないからね」と訳のわからない念押しをした後で、僕の手から生命力を吸い取る。
そして、ある程度吸い取ると「ムフウ」と満足げな顔をした。とりあえず、すっかり元気になったとの事で良かったね。見た目ではよくわからないが、本人が「元気になった」と言っているから、大丈夫そうだ。
僕がそんな風にドロリスさんを見ていたら、ドロリスさんが首を傾げた。
「どうしたのよ?」
「人族みたいにもなれるんですね」
「あぁ、たぶん進化したのよ」
「えっ?」
僕が首を傾げるとドロリスさんは笑う。
「よくわかんないけど、これ、なんたらノイドじゃないの?」
「そうなんですね。死んじゃったかと思ってましたよ」
「私もよ、しかもなかなかアルフレッドが来ないからせっかく進化したのに飢え死ぬところだったわよ」
そう言ったドロリスさんが腰に手を当てたいつものポーズになるので、僕は「すみません」と頭を下げた。
すぐに来て本当に良かったね。
そして、僕らはオランドさんの村に向かって移動を開始した。僕はドロリスさんを背負って移動する。
なんでも進化したのに、魔法が今までのようには使えないそうだ。新しい体に馴染む必要があるのかな?
そんな風に思ったけど、考えても僕にわかるわけないので、考えるのをやめた。魔法があまり使えなくてもオランドさん達の村で暮らす分には問題ないもんね。
そして、ダインさん達にはすぐに追いついた。
僕達が追いつくと、みんなドロリスさんに驚いて、それから「ありがとう」と何度も礼を言って泣いた。
確かにドロリスさんがいなかったら死んでた人も何人かいるもんね?
だけど、意外だったのがセレニアスだ。ドロリスさんは命の恩人だし、感謝しているのだろうけど、それにしてもやたらと素直だし、なんだか赤くなりながら事あるごとに何度も礼を言っている。
まあ、ドロリスさんの方もお礼を言われて嬉しそうだからいいね。
そして、オランドさん達のペースに合わせてオランドさんの村まで戻ってきたのだか、村の入り口にはなぜか男性が立っている。
そして、僕らを見た男性が慌てた様子で村に入って行くと、中から大勢の出迎えに出てきた。
どうなってんの?
僕らが留守にしている数日の間に、オランドさんの村は大変な事になっていた。
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