第127話 お前のせいで

 ダッキに「あんたさ、本当になにも企んでないの?」と聞かれたナタクさんが「企んでませんよ」と答えて、ダッキとネントゥさんに白い目で見られた後で、僕はネントゥさんの仲間の女の人達の『シタガエルモノ』の楔も抜いた。


 僕が手を当てて、楔を抜くと胸にあるモヤモヤとしていた黒い物が取れて、霧散していく。


 みんな『シタガエルモノ』を取り終わると、喜んで泣いたりしながら抱きしめてくれるので、僕でも力になれたなら良かったと思った。


 だって、ある意味、このお姉さん達はみんな僕の親戚みたいな者だものね?


 僕がそんな風に思いながら喜んているみんなを見ているうちにあの子が来た。


「アルフレッド様、お初にお目にかかります。ウロスの街付きの貴族、セレニティの息子、セレニアスと申します」


 13歳ぐらいのセレニアスはそう言って、丁寧に頭を下げた。僕がその様子を見ているとダインさんが眉間にシワを寄せた。


「すまねぇがセレニアス、お前の家は……」


 僕はそこでダインさんの腕を掴んだ、ダインさんがこちらを振り返る。


「アル様、悪いがここは、はっきり言ってやった方がいいと思うぜ」


 ダインさんがそう言って頭を掻くので、僕は首を振る。


 僕だってダインさんの言いたい事はなんとなくわかるけど、正しいからと頭ごなしに言ったのでは、人は救われないよね?


「セレニアス、丁寧な挨拶ありがとう」


 僕がそうセレニアスに微笑むと、セレニアスの顔が歪んだ。


「お前さえ来なければ、母様も父様も死なずに済んだんだ!」


 セレニアスがそう言うと側に立っていた使用人が「坊っちゃま」と諌めた。だけど、セレニアスはそちらを見ないで僕をじっと睨みつける。


 僕は掴んでいるダインさんの腕を引きながら「そうだね」と頷いた。


「確かに僕が来なければ、こんな事にはならなかったのかもしれないね」


 僕がそう言ってもう一度頷くと、セレニアスの隣の使用人は驚いた顔をしたけど、セレニアスはもっと険しい顔になって、泣き出しながら怒鳴る。


「お前のせいだ、ワイアットも、みんなが死んだのも、全部、全部、お前のせいだ」


 僕はそれを黙って見ていた。


 セレニアスはその後も、何度も、何度も、「お前のせいだ」と繰り返していたが、途中からその顔は怒りから悲しみに変わり、最後には眉毛がすっかりハの字になって黙ってしまった。


「それで、セレニアスはこれからどうするの?」


 僕がそう言うとその場にいた全員が「えっ?」と驚いた。でも僕は気にせず、セレニアスを見る。


「わかりません。だって、母様も、父様も、死んでしまった」


 セレニアスがそう言って俯くので、僕は「そう」と頷く。そして、黙ってセレニアスを見ていたら隣に立っていた使用人が頭を下げた。


「恐れながら、坊っちゃまを助けて頂くことはできませんか?」


 僕はその人に顔を向けて首を傾げた。


「僕にどうしろとおっしゃるんですか? 僕はグドウィン家を出されます。もう領主の孫ではないので、貴族うんぬんでセレニアスの力になる事はできませんよ」


 僕はそう言うとニッコリと笑った。


 そうだよね。悲しいけど、たぶん僕はもうグドウィン家ではない。100以上の魔獣を率いて街を襲った事になるのだ。いくらお爺様でも庇いきれないだろう。


 だから、申し訳ないけど、セレニアス達の期待に応えることは出来ないと思う。


「だけど、貴族でなくても良いなら、オランドさん達に相談して、オランドさん達の村で一緒に生活してもらう事はできると思いますよ」

「えっ?」


 セレニアスの使用人の男性がそう驚くので、僕は首を傾げた。


「ウロスの街は維持できますか? 男手がないのでしょ?」

「あなたは我らに、生まれ育った街を放棄しろとおっしゃるのか?」


 使用人の男の人が声を少し荒げるとダインさんが「おい」と言うので、僕はそれを制す。するとネントゥさんが「悪いんだけどさ」と頭を掻いた。


「街は焼くよ。エゼルバルドからは、アルフレッド様が襲ってウロスの街は全員死亡って事にするように言われているからね」

「「えっ?」」


 僕らがみんな驚くとネントゥさんは「なに驚いているのさ?」と言う。


「じゃないと、私らが残る意味ないだろ? もちろんそんな事は出来ないからね。街の人達には避難の話は言ってある、あんたらもさっさと荷物を持ってくるんだね」


 ネントゥさんは、そこでまで言うと悪そうにニヤリと笑う。


「だいたいどんなつもりか知らないけど、アルフレッド様にこれ以上つまらない事言ってるようなら、私が街ごとあんたらも消し炭にしちまうよ」


 そう言ってネントゥさんがファイヤーボールを出すと、使用人達は青い顔をした後で、慌ててウロスの街に戻って行った。残されたセレニアスは僕を見る。


「なぜ僕達も受け入れてくれるのですか?」

「うん?」


 僕が首を傾げるとセレニアスは顔をしかめる。


「母様のせいで、街の人達はいっぱい死んだのでしょ? 母様のせいであなたの仲間がいっぱい傷ついたのでしょ?」

「そうだけど、セレニアスには関係ないだろ?」


 僕がそう言うとセレニアスは目を見開いた。


「セレニアスはセレニアスだ。それでももし申し訳ないと思うならこれから返しなよ。君の出来る力いっぱいで、償って生きなよ。僕に難しい事はよくわからないけど、責任を取るってのはたぶんそういう事だと思うよ」


 僕がそう言うと、セレニアスはへなへなとその場に座り込んで「信じてくれるのですか?」と聞いた。


「信じるよ。僕にはそれぐらいしか出来ないからね」


 僕がそう言うとセレニアスはその場で大きな声で泣いた。それを見ていたら、ダインさんが頭を掻いて「それで、これからどうするんだ?」と僕に聞く。


「うん? 僕のする事は変わりませんよ。オランドさん達の村が落ち着けば、今度は王都に向かって旅を続けます。カルラ達が心配だけど、今のままでは敵わないので、訓練を続けながら旅をするつもりです」


 僕がそう言って微笑むと、ダインさんは「そうか」と頷く。でも、ダッキが「カルラ達なら大丈夫よ」と笑った。


「えっ?」

「ネントゥが誕生日プレゼントとして、エヴェリナにあげる様に進言したでしょ? そして、エゼルバルドは妹に弱いからプレゼントすると思うわ」


 そう言ったダッキが胸を張るので、僕は首を傾げた。


「それで、なんで大丈夫なの?」

「絶対に大丈夫よ。だってエヴェリナは私の主人だもの」

「「はぁ?!」」


 僕とダインさんが驚くと、ダッキは「なに驚いているのよ」と笑う。


「いや、だって……」

「私だって四竜の1人よ。王族に仕えてもおかしくないでしょ?」

「だけどダッキには『シタガエルモノ』がないでしょ?」


 僕が首を傾げるとダッキはニヤニヤとする。


「私達はお友達だからそんな物はいらないのよ」


 そう言ったダッキが腰に手を当てて胸を張りドヤ顔したけど、全く意味がわからないので、僕とダインさんは並んで首を傾げた。


「私も今日までわがままで王妃に反抗しているだけだと思っておりましたが、もしかすると、エヴェリナ様には、なにかお考えがあるのかもしれませんね」


 ナタクさんがそう言って苦い顔で頭を掻くと、ネントゥさんがそれを見て頷く。


「エヴェリナ様は聡明な方だよ。従者にも優しいからね。だから、とっさにエヴェリナ様にあげるように進言したのさ」


 ネントゥさんがそう続くと、ダッキは「エヴェリナはすごいのよ」と笑う。


 えっと、全く意味はわからないけど?


「どちらにしても、ダッキが一緒なら安心だね」


 僕がそう言うとダッキは満足げに「まかせておきなさいよ」と頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る