第131話 勉強と訓練

 翌日から、まずはもっと土地を広げて、建物の建築をするという事になった。なにせ大幅に人が増えたから、家がまるで足りない。


 家族単位で1軒ずつ建てたいよね?


 とりあえず今はみんな雑魚寝状態なので、タウロの街方面に広がるスグノキを片っ端からどんどん切って土地を広げた。身体強化のできる者が並んでやると木を切る速度は恐ろしく速い。


 僕とブラン、それからオランドさん達がズラっと並んで、どんどん目の前のスグノキを切り倒していく。その木をアラニャ、それからオークの女性陣が運ぶ。


 僕らがそれをやっている間に、人族のみんなには農作業をしながら、合間で勉強と訓練をしてもらう事にした。


 というのも、セレニアスに人族の代表が決まった後で執事長のラシャドさんがみんなに「失礼な事を言って本当にすみません」と頭を下げた。


 すると、みんなが笑って「気にするな」と言った後で、ラシャドさんに「出来たら子供達に勉強を教えてほしい」と頼んだのだ。それならば、という事で、せっかくだからみんなで学んでもらう事にした。


 ラシャドさんが簡単な算術を、セレニアスのメイド長ヒラリーさんが初歩的な読み書きを、そして、ダインさんが護身術的な武術を、エミリアさんが基本の魔法を教える。


 人族のみんなを4つの組に分けて、各先生のところをぐるぐるとまわりながら交代で教わる事になった。


 ちなみにドロリスさんはセレニアスと一緒にエミリアさんから魔法を教わる事になった。


 なんでもこれまでは大地や大気の魔力を使っていたのだが、人族みたいになったので、体内の魔力を使う必要が出てきて、ドロリスさんはその辺の基本と、体内魔力の増加法を学ぶという事らしい。


 僕らがナタクさんに教わった事だね。きっとこれでセレニアスもかなり強くなるはずだよね。


 それから集会所にメルクーリ家所蔵の本が置かれた。ラシャドさんが言うには、もっと学びたい人のためだそうだ。本が置かれてからは、休み時間や食後にそれらの本を読んでいる人達を見かけるようになった。


「農家の皆さんは今まで学ぶ機会がなかっただけで、驚くほどに飲み込みの早い方がいます。侮っていた自分が本当に恥ずかしいです」


 ラシャドさんはそう言って頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。


 うん、教育関連はこのままラシャドさんに任せておけば大丈夫そうだね?


 そうそう、ポプキンズとメイジーには数人を連れて、ルタウの街に帰ってもらった。


 みんなこっちに来てしまったから、キースさんの護衛がいないもんね? 


 だけど、これにも一悶着あった。


 初めはもちろんみんなで戻ってもらうつもりだったのだが、トールズ達が残りたいと言い出したからだ。


「いや、トールズはさ、キースさんの護衛があるよね?」

「アル様、俺は守るべき者を見つけました」

「はぁ?」


 僕が首を傾げると、トールズは「すみません」と席を外して、可愛らしい若い女性を連れて戻ってきた。


 うん?


「妻にしたいと考えています」

「えっと?」

「彼女の母親と兄妹達もこちらにいるので、俺がまとめて面倒みます。残してくれませんか?」


 そう言って頭を深々と下げるトールズに僕は正直言って戸惑ったけど、女の人まで「お願いします」と頭を下げるので、仕方ないから承諾した。


 だけど、困った事に他のメンバー達も次々に女の人達を僕のところに連れてくる。


「あのさ、いいんだけど、誰かルタウの街に戻ってくれる人っているの?」


 僕がそう言うとみんながポプキンズを見た。


「ポプキンズが戻りますよ、奴はメイジーさえいればいいので」


 トールズがそう言うと周りがみんな「そうだな」と頷く。


「ちょっと待て、アル様が誤解するじゃないか? メイジーはタウロの街を飛び出した俺を拾ってくれた前ギルド長の娘だから兄妹みたいな者だよ」

「でも大事には思っているんだろ?」

「そりゅあ、メイジーは家族なのだから当然、大事だよ」


 ポプキンズがそう言うとトールズがニヤニヤする。


「奴隷印を入れられそうになったら、アル様を泣き落としてメイジーだけは助けてもらうつもりだったもんな?」

「奴隷印が入ったら誰にも抵抗できないし、そんな事になってメイジーが誰かから性的な事とかされたら嫌じゃないか?」


 ポプキンズが頭を掻きながらそう答えると、トールズが「好きだもんな?」と言う。


「まあ、そうだよ」

「なんだよ、男じゃねぇな。濁してないでハッキリ言えよ」

「あぁ、好きだよ。悪いか?」


 少し俯きかげんだったポプキンズが顔を上げてそう宣言した瞬間に、メイジーがポプキンズを後ろから抱きしめる。


 ポプキンズは「えぇ?」と驚いたが、その瞬間にルタウの街に戻るのはポプキンズとメイジーという事に決まった。


 さらに元々夫婦だった者達やルタウの街に恋人がいる者など、数人も2人について行ってくれる事になった。


 まあ、肥料作りは元漁師さん達が張り切ってやっているって言うし、キースさんの護衛と肥料作りの取りまとめ役がいればいいよね?


 という事で、トールズ達には僕達が開いた土地に建物を建ててもらう事になった。本人達が異常なほどに張り切っていて、僕達が確保した土地に綺麗な建物がどんどん立ち並んでいく。


 まあ、この中に本人達の新居もあるから張り切るのも無理はないよね?


 それに、ダインさんとエミリアさんもこの村に残ってくれる事になった。


 初めは訓練を終えるまでと考えていたのだが、コルバスさんに連絡したら「引き続きアル様のお力になりなさい」と返事が来たそうだ。


「まあ、俺達がいなくてもコルバス商会は回るし、この村にも医術師が必要だと旦那が言ってな」

「そうなんですね。なんか、すみません」

「いや、アル様は気にしなくていいぜ。エミリアの罪滅ぼしにちょうどいい。さらにエミリアもなんか弟子みたいな女の子達が出来たって、張り切っているからよ」


 ダインさんはそう言って、頭をガシガシと掻く。


「アル様、やっぱりエミリアはよ、商人よりも医術師の方が向いてんだ」


 嬉しいそうにダインさんが言うので、僕は「ありがとうございます」と甘えさせてもらった。


 医術師さんが居たら安心だもんね。


 あと変わった事と言えば、定期便で来たカルラの妹のグレッタと主従契約を結ぶことになった。グレッタはカルラに次ぐ実力者でなかなか強いらしい。


 今回カルラとの契約を僕が解除した事で、群れの上の方は問題なかったのだが、下の方は人化出来なくなったそうだ。それでは何かと困るという事で、カルラに指示を仰いだところ、グレッタが主従契約をするように指示されたと言う。


「カルラ達は元気なの?」

「元気ですよ。ダッキとエヴェリナ様と楽しくやってます」

「そうか、よかった」


 僕がそう言うとグレッタは顔を歪めた。


「すみません。カルラ姉さんからはそう言えって言われたんですけど、正直姉さんは元気ないです」

「えっ? いじめられてるの?」

「いえ、ダッキもエヴェリナ様も良くしてくれてると思います。だけどやっぱりアル様と離れているのがつらいみたいです」


 僕は胸がギュッと締め付けられたけど、なんとか笑って「そうか」と頷く。そんな僕の様子を見ていたグレッタが「すみません」と頭を下げた。


「うん? どうしたの?」

「アル様が心を痛めてないはずないのに、私の自己満足で……」

「いいよ、本当の事を教えてくれてありがとう。この痛みも僕が背負うべき物なんだ」


 僕がそう言うとグレッタが「アル様……」と言い淀むので、僕は「また教えてくれる? 頼むよ」とさらに笑ってみせた。


 シュテンさんの村とアラネアさんの村からの物資を下ろし終えたグレッタが飛んでいくのを見送っていたら、同じ方角から空を埋め尽くして、それは飛んできた。

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