第121話 ドラゴンクォーター
横たわるブランとコタロウ、マリッサを見た瞬間に体が熱を帯びる。
熱い、ジリジリと焼かれる様な熱さが、僕の体の奥の方からグツグツを沸き上がり、そして、僕の皮膚をヒリヒリと焼いた。
視界はユラユラと赤やオレンジになる。
そして、気が付いたら僕は、フクギの首を掴んでいた「グァァァァァァ」とフクギが目を見開いて足掻く。
僕を殴ったり蹴ったりしたけど、痛みは感じない。いや、先程まで感じていた熱さも感じない。
心も凪のように穏やかだった。
あるのは、殺す。という気持ちだけ。
だって、やっぱりこの世は呆れるほどに弱いものは救われないのだ。一生懸命みんなで誰かの為に頑張っても、突然来た理不尽に踏みつけにされるのだ。
僕が弱いせいでみんなが傷つくのだ。
僕の覚悟が足りないせいで……。
そう思うと、フクギの首を掴む力が強くなる。だんだんと暴れていたフクギの顔から怒りが消えて、怯えが強くなった。
まるで化け物でも見るような目だ。
だけど、化け物は僕じゃない。お前らだ。
そう思った瞬間に僕の腕を掴んだネントゥが僕の顔面に回し蹴りを入れる。1、2、3発。僕の手が少し緩んだ隙に、フクギが僕の手から逃げた。
フクギは少し後ずさって「ゲホゲホ」と咳をする。
再びネントゥの回し蹴りが来たので、僕はそれを左手で受け止めた。グッと力を込めると「チッ」と舌打ちしたネントゥが左足で僕の肘を膝蹴りして、僕から離れる。
「ネントゥ、どうなっているのですか? あいつのあの目は『龍眼』ですよね?」
「そうさね。だけど、あんたは何を驚いてんだい? アルフレッドは先代のファイヤードラゴン、私の師匠の孫だよ。あり得るだろ?」
ネントゥが首を傾げるとフクギも「はぁ?」と首を傾げた。
「確か、ドラゴノイドと人族の子供や孫は生まれた時点で、人族に近くなるんですよね?」
「そうさね。だけど、いるんだよ。まれに生まれながらのドラゴノイドがね」
ネントゥがそう言って笑うと、フクギが「ドラゴンハーフ、いや、こいつはドラゴンクォーターか?」と目を見開いた。
「そうさ。そして、そういう者は、だいたい馬鹿で具現系の魔法が使えないそうだよ。神に祈りを捧げる為に人族の中から生み出された魔獣であるキジョとドラゴノイドの子供、アンジェがそうだったよ」
「イゴールの奴は、これを隠したかったという事ですね?」
フクギがそう言うとネントゥは僕の蹴りをかわしながら「かもね」と答えた。そして、返しで蹴ってきたので、僕はそれを受け止める。
ネントゥがグッと顔を歪めると、フクギの蹴りが僕の背中に入って、ネントゥとフクギがまた僕から距離をとった。
「あいつがまとっているのって『火雷』ですよね?」
「あぁ、あれはなかなか厄介だね」
ネントゥがそう答えた瞬間に僕はフクギの懐に潜り込んだ。フクギはそれを迎え撃つように、指を組んだ両手を振り下ろす。
「馬鹿かい、あんた!」
ネントゥがそう叫んで、僕はフクギの腕を肩で受けながら、フクギの腹に手を置いた。
「ノズチ」
低く僕がそう言って、手を捻りながら魔力をフクギの腹に螺旋をイメージして押し込む。1度ピクンと痙攣したフクギは「グファ」とその場で血を吐き出して、耳からも血を流しながら仰向けに倒れた。
僕がそれに追撃を入れようとすると、ネントゥに蹴り飛ばされた。数本のスグノキを薙ぎ倒して、止まったが、僕が薙ぎ倒したスグノキがすぐに燃え上がる。
さらに隣、隣と燃え移り、次々に火がついた。
僕は火の手が上がったスグノキの森を飛んで、再びネントゥの元に戻って来た。
「あんた、正気じゃないね。このままだとあそこで寝ているあんたの仲間も全員死ぬよ」
そう言って首を傾げたネントゥの腹を僕は魔力をまとった拳で殴り、顔の下がったネントゥの首を掴んだ。
ネントゥが「あんた……わかってない……のかい?」と苦しんで、もがく。
そこで勢いよく飛び込んできたエゼルバルドの蹴りが僕の顔に入った。僕がエゼルバルドを見た瞬間にネントゥが放ったファイヤーボールに吹き飛ばされる。
僕がすぐに少し離れたらところに着地すると、エゼルバルドが肩で息をするネントゥに寄り添った。
「どうなってやがる?」
「アルフレッドがキレた」
「はぁ? キレたって、あいつ『龍眼』じゃねぇか? それとフクギはどうした?」
エゼルバルドがそういうとネントゥが「あそこに倒れてるよ」と倒れているフクギを指さした。それに目を見開いたエゼルバルドは「嘘だろ?」と呟く。
「お前ら2人がかりで1人倒されたってのか?」
「そうさね。キレたドラゴンクォーターは厄介だよ」
「お前、ドラゴンクォーターってなんだ? しかも、あいつは厄介とかそういうレベルじゃないだろ?」
エゼルバルドがそう言うと雨が降ってきた。激しい雨が森に付いた火を消していく。
でも、僕にその雨は届かない。まとった火雷が落ちてくる雨粒を次々に蒸発させる。
「あの女の子は倒したのかい?」
「いや、この雨はあいつだ。森の火を消す方が先だからな。流石に国中の森が焼けたら、洒落にならないだろ?」
「エゼル様なら喜びそうだと思ったけどね」
ネントゥが笑うと、エゼルバルドは苦笑いを浮かべる。
「国がなくなればいくら王族でも威張れないだろ?」
エゼルバルドの言葉にネントゥが「そうさね」と頷いた。
すぐに森に付いた火は全て消えた。それをぼんやりと眺めていたら声が聞こえる。
「アル様……アル様……」
カルラの声だね。
僕がそちらを見るとカルラは両手で僕の腕を掴んでいた。その手は火雷で焼けている。
うん?
「アル様、怒りを鎮めるっす」
「カルラ?」
僕が呼びかけるとカルラは「はいっす」と微笑んだ。
そこで僕がまとっていた火雷を解くと、カルラが微笑んだままでギュッと抱きしめてくれた。
「カルラ、僕が弱いせいで……」
僕が言い淀むとカルラが「違うっすよ」と首を振る。
「アル様のは、弱さじゃないっす、優しさっす」
「でも、僕のせいでみんなが傷つく」
「傷つくのはアル様のせいじゃないっす。誰がなんと言おうとあたしが保証するっすよ」
カルラがそう言ってくれたので、視界が滲んだ。もう僕らの周りには、ネントゥの9人の従者のうち7人が囲んでいる。
オランドさん達も負けたんだね。
そのうちの1人がエゼルバルドに耳打ちして、エゼルバルドは僕らを見ながら笑う。
「準備が出来たみたいだな。お前らはあのガキどもを担いでついて来い。さすがにこの数じゃ、お前ら2人では無理なのわかるだろ?」
「わかったっす。でもさっきの約束通り、アル様の安全は保証して欲しいっす」
「あぁ、わかった。その代わり、お前も約束は守れよ」
エゼルバルドがニヤニヤと笑うとカルラは「わかっているっすよ」と笑った。
そして、僕がコタロウとブランを担いで、カルラがマリッサを背負って、僕達はエゼルバルド達について、ウロスの街まで歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます