第112話 オークさん達の薬

 僕とエミリアさんがコタロウ達に近づくと、人形がこちらを見て「どうしたの、アルフレッド?」と首を傾げた。


「ドロリスさんに聞きたいことがあるんですけど」

「なに?」

「オークさん達に効く疫病の薬って知ってますか?」


 僕がそう聞くと人形は腕を組んだ。


「そうね。結論を言えば知らないわね」

「「そうですか」」


 僕とエミリアさんが落胆すると人形のドロリスさんは「だけどね」と言った。そして、ピョコッとエミリアさんの方に体を向ける。


「エミリアはさ、オランド達の血は試したの?」

「えっ? いえ、試してません」

「じゃあ、オランド達の血を子供達に少し分けてあげたら?」

「それはどのような意味があるのですか?」


 エミリアさんが聞くと人形は頷く。


「うん、私も詳しくはわからないんだけどね。ポーションの様な傷を治す魔法薬と違い、疫病などの薬はその人の免疫ってのを手助けするんだって、言わばその子の生命力を高める。ここまではわかる?」

「はい」


 人形と同じ目線になる様にしゃがみ込んでエミリアさんが頷く。


「じゃあさ、その免疫ってのはどこにあるか知ってる?」

「血液ですね」

「そうよ。だから疫病に負けないオランド達の血液を子供達に分けてあげれば?」


 人形が首を傾げるとエミリアさんは「良くなるかもしれない」と立ち上がった。そして、すぐに「ドロリス様、ありがとうございます」と頭を下げるとオランドさんの小屋に走っていった。


 その姿を見送った人形がピョコッとコタロウの方を向く。


「アルフレッドもそうだけど、エミリアみたいな人族を見ると、人族も捨てたものではないと思うわよね。コタロウ?」

「そうだね。残念ながらひどい事を平気でする人族もいるけど、アル兄ちゃんに出会って、人族の中には信じてもいい人達もいるって思える様になったよ」


 人形のドロリスさんは「そうね」と再びオランドさんの家を見た。


 それから、帰って来たカルラの話だとタウロの下町の人達は、エミリアさんが作った疫病の薬で容体が安定しているそうだ。


 そして、エミリアさんの処置で、オランドさん達から血を分けてもらったオークの子供達の容体も安定した。


 エミリアさんの話だと「もう大丈夫です」という事なので、これでひと安心だね。


 となると、僕は原因であるスグノキの森をなんとかしないといけないけど、その前にウロスの街の近くに大発生しているロウカストを狩らないといけないよね? でもさ……。


 うん?


 僕が考えていると、ブランとコタロウとカルラが僕の前に立った。


「アル、迷ってる?」

「考え込むなんてアル兄ちゃんらしくないよ」

「そうっすね。誰かの為に自分のできる事をするのがアル様っす」

 

 僕は3人の言葉に苦笑う。


「そりゃあ、迷うし、考え込むよ。できるのかわからないからね。ロウカストは空を埋め尽くすほどの数なんだよ。そんなところについて来て欲しいなんて言えないよ」

「アル、バカ」

「馬鹿だね」

「馬鹿っすね」


 3人がそう言うので僕は頭を掻く。


「自分でもわかっているけど、3人で面と向かって馬鹿って言うのは、ひどいよ」

「ひどいの、アル」

「そうだね」

「そうっすね」

 

 僕が「えっ?」と聞くとブランがコタロウを見た。


「アル兄ちゃんはさ、僕達を信じてないの? アル兄ちゃんの頼みなら僕達はどこにだって行くし、どんな強大な敵にだって争ってみせるよ」

「そうっすよ。私の生きる意味はいつでもアル様の願いと共にあるっす。それにアラニャはいけないからとオークの子供達の看病を手伝っているっすよ」

「アラニャ、黙ってやる、アルの願いだから」


 3人にそう言われて僕は「そうだね。僕は馬鹿だ」と頭を掻いた。


 信じてくれる仲間がいる。信じられる仲間がいる。僕は僕達のやれる事を精一杯でやるだけだね。


「でも4人で行くのは無謀ね」


 僕がその言葉に振り返りと、あの蔓でできた人形が手を腰に当てて胸を張る。


「仕方がないから今回は特別にわたしも遠隔魔法で手伝ってあげるわよ」

「いいんですか?」

「いいわよ。あんた達に死んでほしくないもの」


 僕が「ドロリスさん、ありがとうございます」と頭を下げると「まさかとは思いますけど、俺達を置いていくつもりじゃないですよね?」とトールズ達が来た。


 コワモテがみんなニヤニヤと笑っているから、申し訳ないんだけど、怖い。


「俺達だってアル様の力になりたいんですよ。それに身体強化を覚えましたから、壁役ぐらいなら出来ますよ」


 トールズ達がみんなで力こぶを作ると、ダインさんとオランドさんが来た。


「おいおい、オランド達が行かない訳ないだろ? アル様は馬鹿なのか?」


 そう言ってダインさんが「ガハハ」と笑うとオランドさんは「アル様、壁役ならお任せください」と頭を掻いた。僕はそれに「ありがとうございます」と頭を下げる。


「だけど、みんなには胴当てとかないですよね? 怪我とかが心配なんですけど……」


 僕がそう言い淀むとダインさんが「ガハハ」と再び笑って、トールズ達が自分のマジックバックから胴当てを取り出した。僕達の物より少しカバーする部分が多い。


 そして、オランドさんが出した胴当てはフルプレートと呼ばれる全身をカバーするタイプだった。


 えっと?


「何ですか、それ?」

「カルラさんが用意してくれました」


 僕が「えっ?」と言いながらカルラを見ると、カルラはニコリと微笑む。


「オランドさん達はハイオークに進化して速く動けるようになったっすが、攻撃を避けながら戦うのは難しいってシュテンさんとガジルさんに相談したっす」

「それで胴当ての硬さと防御力を生かす形になったって事?」

「そうっす。ガジルさんがノリノリでさらに盾も作ったっす」


 カルラがそう言ってオランドさんを見ると、オランドさんはマジックバックからオランドさんの身の丈ほどの大楯を出した。ビックアントの外皮で作られているから、黒くて鈍く光っている。


「なんか、すごいね」

「そうなんっすけど、オランドさん達が行くとなると移動に時間がかかるっすね」


 カルラがそう言うので、僕は「そうだね」と頷く。


 だけど、それは仕方ないよね?


「あんた達、何言ってんの? 速く移動できるわよ」


 ドロリスさんの蔓人形が胸を張ると「そうだね、師匠」とコタロウも手を腰に当てて胸を張った。


「もしかして、あの花で送ってくれるんですか?」

「そうよ」

「だけど、着地はどうするんですか? 言っちゃ悪いですけど、あの勢いでオランドさん達が地面にぶつかったら、どちらもタダじゃ済まないと思いますけど」


 僕がそう言うと蔓人形がコタロウを見る。


「大丈夫よ、うちの弟子が着地も思いついたから」


 蔓人形がそう言うとコタロウは頷いて、少し離れてから地面に手をつく。すると、地面から蔓が次々に生えて来て、高く上には伸びずにすぐに地面に大きな花が咲いた。


「これが受け止めてくれるから大丈夫だよ。オランドさん、試しに飛び込んでみて」


 コタロウの呼び掛けに応じたオランドさんが走って飛び込むと、花はオランドさんをフワッと受け止める。


「これはすごいですね。まるで衝撃がないですよ」


 オランドさんは嬉しいそうに花をなでている。


「これなら大丈夫そうだな、準備できたらみんなで乗り込むか?」

「もしかしてダインさんも行ってくれるんですか?」

「何言ってんだ? 行くに決まっているだろ?」


 そう言ってダインさんが「ガハハ」と笑う。


 さっきまで不安でいっぱいだったけど、もう負ける気はしないよね?


 笑うダインさんを見ながら僕もみんなも笑った。

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