第113話 ロウカスト

 僕達は文字通りウロスの街近くに降り立った。


 人族11名、ゴブリン1名、ウルフ1名、オーク100名。


 それがものすごい勢いで次々に空を飛んで来て降り立つのだから、もちろん少し離れたウロスの街から冒険者風の人が慌てて出てきた。そして、こちらに走って来ているのが見える。


 まあ、普通に考えたら、敵襲だと思うよね?


 それに合わせる様に、スグノキの森からロウカストも飛び出して来た。ガサガサと羽音を鳴らしながら飛び出して来た大群はそれ1つで生き物みたいだ。


 空を埋め尽くしながら一度波打ち、すぐにこちらに押し寄せる。


「ゲイル!」


 自分で飛んで来て僕の近くに降り立ったカルラが両手を前に突き出して、そう叫ぶと突風でロウカスト達が少し押し戻された。


「防御体制だ。魔法を使うカルラとコタロウを守れ」


 ダインさんがそう言うとオランドさん達が僕達の前で一列に並んで、大楯を構えた。


「魔力をまとえ!」


 ダインさんの叫びに合わせてオランドさん達が魔力をまとう。それによって再び押し寄せて来たロウカスト達はバタバタと音を立てながら魔力の壁に阻まれて、次々に地面に落ちていく。


 カルラは両手を広げて少し浮き上がり「ストーム!」と叫んだ。コタロウは地面に手を当てて「セファロタス!」と続く。


 すると、少し離れたところに大きな竜巻ができて、ロウカストはそれに次々に小さな塊で吸い込まれて、巻き上げられていく。


 オランドさん達の目の前には、僕達を送ってくれた花を小さくした様な花が一面に沢山咲いて、パクパクと次から次へとロウカストを飲み込んでは吐き出して、他のロウカスト達も弾き落とす。


 これが本来の使い方なんだね?


 ブランが雷をまとって駆け出した。ブランに突っ込まれたロウカスト達が痺れて落ちていき、さらに駆け抜けた後の地面がバチバチとスパークして、その上を通ろうとしたロウカスト達も痺れて落ちていく。


「さすがですね、こいつはすげぇや」


 その様子を見ていたトールズがそう言うと、ダインさんが「まったくだ」と頷く。


 本当だね。僕もみんなみたいに魔法が使えたらいいのに。


 僕はそう思って自分の手を見たけど、思い直した。


 ないものねだりしても仕方がない。僕は僕の出来る事をするだけだね。


 そこで、ウロスの街から出てきた冒険者風のお爺さんが近くまで来て「味方なのか?」と問いかけてきた。


 ダインさんがそれに「ガハハ」と笑う。


「ワイアット爺、そう構えるな。体だけでなく心も小さくなったのか?」

「うん? もしかして、ダインか?」

「あぁ、そうだ」


 ダインさんが振り返って頷くと、ワイアットさんは構えていたのを解いて、ホッとした様な顔をした。


「では、この魔獣達はお前の従者なのか?」

「違う、みんな、アル様の従者だ」

「アル様?」


 ワイアットさんが首を傾げるので、ダインさんはニヤニヤと笑う。


「そうだ、ワイアット爺。お前のところの若様が、お前らを助けに戻って来たぞ」

「若様? もしかして……」


 ワイアットさんは、目を見開いて僕を見た。


「アンジェの忘れ形見、アルフレッド・グドウィン様だ。領主の孫として、お前たちを助けに来たんだ」


 ダインさんがそう言うと、ワイアットさんはもう泣いていた。


「アンジェ様の、アンジェ様の……」


 ワイアットさんがそう言い淀む。


「爺さんになると涙もろくなるってのは本当だな。赤鬼のワイアットが泣いたらぁ」


 ダインさんが言うとワイアットさんは「泣いてなどおらん」と言って乱暴に涙を拭う。


「とりあえず、話は後だ。ロウカストはアル様達がなんとかするから、ワイアット爺は戻ってウロスの街の奴らを安心させてやれ」

「あぁ、わかった。かたじけない」


 ワイアットさんは僕を一瞥して頭を下げてから、ウロスの街へと走って帰っていく。ロウカストの一部がそれを追うように群れから外れたが、地面から伸びて来た蔓に行く手を阻まれた。


 あれはドロリスさんだね。


 すぐにトールズ達が走って行って、その小規模の群れと戦う。


 僕がそれを見ながらギュッと拳を握りしめると、ダインさんが僕の肩に手を置いた。


「アル様の出番はまだだぜ」

「はい」

「アル様の出番は必ず来るから、俺を信じて今は耐えてくれ」


 僕がダインさんを見ると、ダインさんがニッコリと笑うので、僕は「わかりました」と頷く。


 その後も、カルラの『ストーム』で次々に巻き上げられて、ブランの『ライトニングスパーク』で薙ぎ倒されて、コタロウの『セファロタス』でロウカスト達はドンドンその数を減らされていく。


 このまま全部倒してしまうのではないかと思い始めた頃に、不意にカルラの『ストーム』が打ち消された。


「ゲイル!」


 地面に降り立ったカルラが両手を突き出して、そう叫ぶと、森の方から吹いて来た突風を打ち消したが、また別の方から木が数本飛んでくる。


「プラントウォール!」


 コタロウがそう叫ぶと地面から太い蔓が幾重にも巻き合いながら立ち上がる。ドスンと数回音を立てながら揺れて、破壊されながらも複数飛んで来た木を受け止めた。


 どうやらブランは、もうそいつと交戦を始めたようだ。少し離れたところでバンバンとぶつかり合う音が聞こえて、木が薙ぎ倒されていく。


 風が吹いて来た方と、木が飛んで来た方からも、そいつらが現れた。


「ブサイクのくせにやるじゃない」

「誰がブサイクっすか?」

「あんたしか居ないでしょ? 鳥!」


 真っ黒なロウカストを人族にしたような女が、カルラを挑発する。


「まったくだ。小鬼のくせにやるじゃないか、小僧」

「雑魚ほど吠えるって知ってる? おっさん」


 真っ黒なロウカストを筋肉ムキムキの男の人にしたような奴が、コタロウに笑いかけた。


「君達の相手が決まったなら、僕はあの1番強そうなガキをもらうよ」


 そう細身の男性が言うと、ダインさんが「下がれ!」と叫んだ。


 次の瞬間にオランドさんが吹き飛ばされてくるので、僕はそれを受け止めて、横に優しく逸らすと、そいつが放って来た突きを受け止めた。

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