第103話 ドリアード
僕がしゃがみ込んで花畑の花に触れようとすると「なんの用?」と突然声をかけられた。なので僕は、花に触れるのをやめて立ち上がる。
目の前の薄いピンクの花をつけた巨木から、その人は出てきた。僕と同じ歳ぐらいの可愛いらしい人族ののような姿だけど、体から蔓が2本伸びて揺れている。
この人は魔力量が多いから、少し前から近くにいた事は感じていたけど、まさか木から出てくるとは思わなかったので僕は驚いた。
たぶん、この人が……。
「あなたがドリアードさんですか?」
「そうよ。だけど、ドリアードは種族名、他にもいるわ。私はドロリス」
「ドロリスさん、僕はアルです」
「知っているわよ、アルフレッド。ウルフの子、それからゴブリンの子とゴブリン達を助け、ノーム達を助けて、グリュゲル達をゆるし、スパイダーとサーペントを助け。それからサハギンやハンサ、マーメイドまで助ける、人族の子」
ドロリスさんはそこまで言って「あなた、面白いわ」と微笑みながら頷くので、僕は「なぜ知っているのですか?」と聞いた。
「なぜって、森で起きた事は、木々達が教えてくれるもの。当たり前でしょ?」
ドロリスさんが首を傾げるので、僕も首を傾げた。
「僕にとっては当たり前の事じゃないです。すごい事ですよ」
「そうなの? まあ、いいじゃない。それでなんの用?」
「オークの子供達が疫病に倒れて、薬を作るのにあなたの蜜が必要なんです。少し分けてもらえませんか?」
僕がそう言うと、ドロリスさんは僕を真剣な顔で見た後で「わかっているけど、ダメよ」と首を振った。
「あなたは面白いけど、人族はみんな嘘つきだもの。だって、あの子も私との約束を破ったの。だから、もう人族には協力はできないわ」
「嘘つき? 約束を破ったのですか?」
「そうよ。人族の男の子が100年前にも蜜を取りに来たの。そして、蜜を分ける代わりとして私と約束をしたわ」
ドロリスさんはそう言うと寂しそうな顔をした。
「それなのに、彼は私との約束を守らなかった。人族は喉元を過ぎれば熱さを忘れるでしょ? 少ししたら何も無かったことにする。そして、困るとまた来るでしょ? 信用出来ない生き物なのよ」
ドロリスさんがそう言うので、僕は「ごめんなさい」と頭を下げた。
ナタクさんの話でも人族は、1000年前にドラゴン達とした約束も忘れて、魔獣を虐げている。少なくともオークさん達はその被害者だ。
ずっと帝国で苦しめられていた。そして、必死な思いで山脈を越えて来たのに、今もまた苦しんでいる。
「お願いします。人族は確かにそういうところがあるのかもしれないですけど、オークの子供達が苦しんでいるんです。人族との事にオークさん達は関係ないですよね?」
「私だって、かわいそうだと思うわ。でもね、あなたがやっている事は本当にオーク達の為なの?」
ドロリスさんの言葉に、僕は「えっ?」と驚いて顔を上げた。
「アルフレッド、あなたの目的は何? 多くの魔獣達を従えて、今度はオーク達まで仲間に引き入れて、いったい何をするつもりなの?」
「僕の目的ですか?」
ドロリスさんの質問に僕が聞き返すとドロリスは「そうよ」と頷く。
「将来、この地の領主となるエドワード・グドウィンの右腕となる事です。そして、補佐することです」
ドロリスさんの質問に僕はそう答えたが、ドロリスさんは「それは無理よ」と再び首を振る。
「だって、あなたはヘンドリックの子。そんな事を王国が許すわけないわ」
「ヘンドリックって誰ですか? 僕は今はジェームズの子、そして、僕の実の父さんは商人のジミーですよ」
ドロリスは「違うわ」と笑う。
「商人の男は命の恩人のアンジェリカにあなたを預けられただけ、あなたはヘンドリックとアンジェリカの子『セイコン』や『シタガエルモノ』がその証よ。それにあなたの両親が愛し合っていた事も私は知っているもの」
ドロリスが「ウンウン」と何度も頷くので、今度は僕が「そんな事はどうでもいいですよ」と首を振る。
「今は僕の父さんと母さんが誰かなんてどうでもいいです。僕の目的と願いは、兄さんの力になって領民のみんなが笑って暮らせる領地にする事です。その為に今はオークの子供達を助けたい。もうオークさん達もこの領地の仲間だから。その為に蜜を分けてもらえませんか?」
「あなたのその願いが上部だけでないと証明できる? 人族は変わるものよ、あなたがヘンドリックの子だと公になった時、あなたは自分が変わらないと証明できる?」
ドロリスさんの言葉に僕はギュッと一度目をつぶる。
確かに証明などできない。だって、僕の気持ちは僕にしかわからないから、言葉を信じてもらうしかない。だけど、ドロリスさんは人族に裏切られて、約束を破られた。頑なになる気持ちもわかるよ。
どうしたらいい? アラニャは僕じゃなきゃもらえないと言った。その期待に応えたいのに、また僕は肝心な時に何も出来ないの?
「それにもう約束を守らない人族は助けないと、私は決めているもの」
悲しそうな声でドロリスさんがそう付け加えたので、僕は目を開いて、もう一度、真っ直ぐにドロリスさんを見た。
「他の種族が来れば分けてもらえますか?」
「無理よ。私達は普段この姿を見せないの。私達ドリアードは、気に入った人族の男の子の前にしか、この姿を見せない。その点、アルフレッドを送り込んできた、カルラとアラニャの判断は正しいわ」
「では、どうしたら分けてもらえますか?」
ドロリスさんは腕を組んで「そうねぇ、どうしようかしら」と僕の事を頭からつま先まで見た。
「アルフレッドは私の為になんでもする?」
「なんでもですか?」
「そうよ。今度は蜜を分ける前にこちらの願いを叶えてもらうわ。アルフレッドが私の願いを叶えてくれたら蜜を分けてあげてもいいわよ」
そう言って胸の前で腕を組んだドロリスさんは、少し首を傾げてニヤニヤと笑った。
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