第102話 薬の材料となる素材
僕とブランが数日に渡った狩りを終えて、オランドさんの村に帰ってくると、すぐにアラニャが駆け寄って来た。
「アル様、ブラン、おかえりなさい」
「うん、アラニャ、ただいま」
「ただいま」
僕とブランはアラニャに返事を返しながら村を見回した。
子供達の賑やかな声を失った村は静けさに包まれて、トールズ達が黙々と農作業をしている音だけが聞こえる。
「アラニャ、オグデンはどう?」
「はい、カルラが持ってきた解熱の効果がある薬草を煎じて飲ませていますので、なんとか落ち着いていますが……」
僕がそれに「そっか」と小さく返事を返して、再び村の様子に目を向けるとアラニャが俯く。
「他の子供達も倒れました」
僕はその言葉を聞いて一瞬アラニャを見て、それからギュッと目をつぶる。
僕もどこかでわかっていた。
そうだよね?
オグデンが倒れたのだから、同じ物を食べていた他の子供達が無事な訳ない。だけど、僕はその事を考えたくなかったんだ。
狩りに行ったのだって、現実から目を背けたかっただけだね。
僕は目を開いてアラニャを見た。
「アラニャ、ごめんね」
「アル様?」
「僕はどこかでそうじゃないかと思いながら、コタロウとアラニャに押しつけて狩りに出かけた。現実から目を背けたくて、逃げたんだ」
僕がガシガシと頭を掻くと、アラニャは優しく微笑んだ。
「アル様に頼って頂けて私は嬉しいです。それに目を背けたい時もありますよ。でも、アル様はあの子達を見捨てる訳ではないですよね?」
「もちろんだよ、見捨てない。見捨てる訳ないよ」
そう言うと視界が歪むので、僕はギュッと再び目をつぶる。するとすぐに優しく抱きしめられた。
「アラニャ?」
「いいんです」
そう言ってアラニャがギュッとしてくれるので、僕は「ごめんね」と言って、アラニャを抱きしめ返した。
僕は泣き止んだ後で「大人達は大丈夫?」と聞くと、アラニャは僕の背中をなでながら「大丈夫です」と答える。
とりあえず良かった。
「それで、コタロウとカルラは?」
「イゴール様の指示で、薬の材料となる素材を採りに行っています。コタロウは中央山脈に空く洞窟の地底湖にアラバスタという鉱石を取りに、カルラは中央山脈の高地にだけ咲くと言われているオコグサという花を摘みに行きました」
「それで僕らは何を採りに行けば良い?」
僕が首を傾げると、アラニャは「さすがアル様ですね」と呟いた後で「フフッ」と笑う。
「ブランにはロウカストとという虫型の魔獣の死骸に生えるカビを、アル様にはドリアードの蜜を採りに行ってほしいのですが……」
アラニャはギュッと再び僕を抱きしめている手を強めた。
「本当は私が行きたいです。だけど、ロウカストに生えるカビは私には毒ですし、たぶんドリアードはアル様じゃないと蜜をわけてくれないと思いますので……」
そう言ったアラニャの肩が小刻みに震える。
「アラニャはここでみんなを守ってくれる? これはアラニャにしか任せられないからね」
僕がアラニャの肩に顎を乗せながら頷くと、アラニャが少しくすぐったそうにした後で、小さく「お任せください」と呟いた。
本当はここで何も出来ずに見ているアラニャが一番辛いはずだ。アラニャは本当に強いな。
僕は「ありがとう、アラニャ」と言いながら、アラニャの背中をなでる。
しばらくしてアラニャが落ち着いたので、僕とブランが狩って来た肉をアラニャに渡す。
僕らは2人で、かなりの量のファングディアとホーンボアを狩って来た。
これで、しばらくの間の食糧は大丈夫だし、残りはシュテンさんの村、アラネアさんの村、それからサイモンさんの村で狩りの量を増やして、カルラの舎弟がこちらまで運んでくれるからなんとかなるそうだ。
本当に、ありがたいね。
それから僕とブランはオランドさん達にも挨拶して、再び出かける準備をした。
オランドさんは「すみません」と再び頭を下げたが、もちろん僕は「そんな必要ないよ」と言った。
もう僕達の大切な仲間なんだから、僕らが出来る事をするのは当然だ。気に病む必要なんてこれっぽっちもないよね?
そして、僕とブランはアラニャに見送られながら村を出た。日はすっかり傾いていたが、少しでも早く採って戻って来たい。
アラニャがくれたお爺様が印をつけてくれた地図で場所をもう一度確認してから、僕とブランはそれぞれの方向に走り出して、すぐに魔力で加速した。
薄暗い森の中、僕が木々の間をすり抜ける度に、風で枝がザワザワと揺れる音だけが聞こえる。
僕はそれを気にしないで、木々をジグザグとかわしながら、進んだ。
ドリアードの住処は、位置的には次のタウロの街を超えた先だけど、タウロの街とは方角がまるで違う。
タウロの街も少し見ておきたかったが、このまま森を真っ直ぐに突っ切った方が早い。なので、残念だけど、今回は寄れないね。
僕はそう思うとさらに加速する。
時々、ビックラットに遭遇するが、ビックラット達は慌てて逃げて行くし、狩って解体している時間はないから、今回は放っておいた。
夜は野営をしてテントできちんと休み。昼間は地図で場所を確認しながら、魔力全開でグングン進んで5日ほどで、その開けた場所に出た。
綺麗な花畑の真ん中にピンクの花をつけた巨木が生えている。
うっそうとして、暗い森の中をずっと進んできたから、日が差し込んで浮かび上がるそれらは、幻想的にも思えた。
聞いていたけど、綺麗なところだね。
僕はやっとドリアード達の住処に着いた。
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